雇用者側が強いといわれるシンガポールですが、労働者への保護はむしろ手厚い制度が整っています。
シンガポール国内で身体的労働に従事する労働者にはWICA(Work Injury Compensation Act)という法律が適用され、雇用者は労災への加入が義務付けられます。
今回は、シンガポールにおける労災の内容を確認しつつ、2020年の法改正についてお伝えします。
WICAはどんな法律?
日本語でも労災法と簡略的に呼ばれるように、常にWICAと略称で呼ばれるこの法律は、シンガポールで働くすべての従業員を対象とし、労働現場における災害について、その補償を求めることを可能にする法律です。
労働現場における災害とは、職務内容に属する作業を実行する中で、怪我や病気により損害が発生した場合をいい、本人が障害者となった場合や、死亡した場合も対象となります。
対象者は誰?
誤解されがちなのが、WICAの対象者はシンガポール人に限定されてないという点です。
国籍、年齢、雇用の正規非正規の別を問わず、また給与帯とも関係なく、契約関係により業務時従事するすべての従業員がカバーされます。
ただし、上記の規定上、以下の人々は対象となりません:
・独立業務請負人・個人事業主
・家庭内労働者
・シンガポール軍、シンガポール警察、シンガポール市警、シンガポール中央麻薬取締局、シンガポール刑務所などの業務に従事する者
また、怪我をしたり、死亡した場合には、雇用契約は終了するのが普通ですが、契約や就労許可(EP、S-Pass、Work Permitなど)が解除している場合でも、WICAは有効です。
補償されるのはどんな場合?
WICAがカバーするのは、契約上履行することになる業務に関連した職業病、怪我などです。
これにはシンガポール国外での業務中に起こった事故などによる怪我も含まれます。
WICAにより補償される例として掲げられているケースを列挙します:
・公共交通機関以外で、通勤時に遭遇した事故
・交通機関を問わず、業務上必要な移動中に遭遇した事故
・雇用者がシンガポールの事業者であって、国内外の業務での怪我
・職務中、喧嘩の仲裁や安全の確保のために負傷した場合の怪我
・仕事が原因と理解される心疾患などの病気
労災請求の方法は?
WICAに基づく請求の種類は、大きく以下の3つに分けられます:
・有給病気休暇
・医療費
・障害補償/死亡補償
病気休暇に関しては雇用法(The Employment Act)でも同様の記載がされていますが、14日まで(入院は60日まで)の有給休暇を取得させる必要があるというものです。
これは、健康的な状態で勤務させるべきであるという趣旨であり、病気の原因が仕事であるか否かを問いません。
従業員は社内規定に沿って申請を行えば、通常勤務したと同じだけの基本給が支給されます。
医療費に関しては、業務に従事したことが原因で事故や職業病にかかった場合に請求できるものです。
シンガポール登録医師の診断を元に、従業員が医療費の請求書を添えて申請すると、雇用者は一定金額まで医療費を負担する義務を負います。
こちらは現在、保険会社により自動的に手続きされるようになってきています。
障害補償および死亡補償は、労働災害によりかかる障害を負った場合、従業員が死亡した場合に、法定の金額まで雇用者側から補償が求められるというものです。
従業員、およびその家族は、WICAに沿って雇用者に対し請求を行うことができます。
こちらも、近年ではグループ保険などにより自動的に補償される仕組みが成立しています。
2020年の法改正
1.労災補償金額
今回の法改正では、WICAに従った場合の補償金額が大きく引き上げられました。
2020年1月1日から、以下のように最小値、最大値の引き上げが行われます:
・医療費補償:最大補償額:S$36,000⇒S$45,000
・障害補償:最小金額:S$88,000⇒S$97,000、最大金額:S$262,000⇒S$289,000
・死亡補償:最小金額:S$69,000⇒S$76,000、最大金額:S$204,000⇒S$225,000
2.労災保険対象者
労災保険購入義務の対象者も大幅に拡大されることになっています。
具体的には、これまで労災保険に加入させる必要のある従業員は、月額基本給S$1,600以下の従業員に限定されていましたが、2020年4月1日からは、これがS$2,100以下の従業員、2021年4月1日からは、S$2,600以下の従業員へ拡大されます。
3.軽作業対応
業務履行中に怪我をした場合には、負担の少ない軽作業に従事させ、それに見合った作業料を支払うという慣行がありましたが、2020年9月1日以降は、軽作業に従事させる場合でも契約中の月額基本給の支払いが義務付けられることになりました。
また、同2020年9月1日からは、病気休暇の取得状況と併せて、軽作業対応をする場合はすべて、人的資源省MOMへの労災報告が義務付けられることになります。
以上、シンガポールが国を挙げて、すべての労働災害を管理していこうとしていることのわかる法整備、法改正が進んでいると言えるでしょう。
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