実際どうなるの?シンガポールの労使紛争!

労務

 

一昔前まで、理由もなく首を切られるのが当然と言われた雇用者寄りのシンガポールですが、少しずつ体制が従業員の権利を保護する方向に進んでいます。

その典型が、2019年4月1日に改正された、雇用法(Employment Act)です。
この中に、労使紛争の典型である、不当解雇(Wrongful Dismissal)についても、従業員側の保護を手厚くすることが盛り込まれています。

 

今回は、シンガポールにおける労使紛争がどのような形で処理されているのか、制度面で確認をしていきましょう。

 

一番は給与遅配の問題!

シンガポールの労働省に当たる人的資源省(MOM)の労働関係・労働環境部門の統計によれば、2017年において最も多く提出された労使紛争の問題は、給与の遅配(47.3%)で、残業代(17.5%)、通知期間中の給与支給(13.4%)がこれに続きます。

どれも、支払われるべき賃金が支払われなかったことに対する労働者側の訴えであり、雇用者側が、法律と雇用契約に則った、支払いを行っていなかった場合が労使紛争のほとんどであるようです。

 

手順は?まずは労組をチェック!

まず、特に賃金が高くない仕事に就いている従業員の場合、労働者組合があるかどうかで労使紛争の対応が大きく変わってきます。

シンガポールではほとんどの労働組合がNTUC(National Trade Union Congress)という組織に属しており、数多くの業界で活動しています。
参考:
https://www.mom.gov.sg/employment-practices/trade-unions/trade-union-directory#/

 

こうした組合の会員であれば、最大でS$30,000まで不当に支払われなかった金額を要求できますが、そうでない場合は金額の上限がS$20,000に制限されるため、注意が必要です。

管理層の従業員(M&E:Managers and Executives)も加入することは許されており、企業内で組織されたものであれば、独自に会社側と労働協約を設けているのが一般的です。

 

個人で声をあげるなら、半年以内にTADMのウェブサイトへ!

一方、個人で訴えを起こす場合には、まずMOMに問い合わせをするのが一般的ですが、そこでは通常、できる限り会社の人事部と話し合いを行うようアドバイスを受けます。

解決できない場合には、TADM(労使紛争管理のための三者提携、Tripartite Alliance for Dispute Management)のサイトにアクセスして、面談を希望する(Make an Appointment)か、訴えを起こす(File my Claim)か、選択することができるとアドバイスされます。

 

いずれの場合も、主に以下の書類が求められます:
1.ID(身分証明書)
2.LOA(雇用契約書、Key Employment Termsを含む)
3.Relevant Letters(解雇通知、退職届、警告状など)
4.Payslip(給与明細)

面談を希望した場合、入力データに沿って通知が届き、設定された日時に面談が用意されます。
上記書類を持参して状況を説明し、十分に根拠があると判断されれば、訴えを起こすようアドバイスされます。

 

注意が必要なのは、この訴えを起こす権利には時間的制約があるという点です。
まだ雇用が継続している場合には問題発生から1年以内に、すでに雇用関係が解除されている場合には最終日から6か月以内に訴えを起こすことが必要とされています。

 

TADMの仲裁には法的効力が発生!

訴えを起こす場合、まず労働者が申請料を支払うことになります。
この金額は受け取る権利を訴える金額により、S$10~S$20の間で指定されます。

申請の後、4週間以内に仲裁(Mediation)の面談(Appointment)が設定され、雇用者側にも通知が行われます。
会社側からは、直接の雇用者または代表者(Authorised Representative)のみが出席を許され、TADMの仲裁官(Mediator)の助力の下、多くの場合友好的な解決が促されるとされています。

 

そこで合意された内容は和解契約書(Settlement Agreement)として文書化され、従業員、雇用者、仲裁官の三者が署名することになります。
この和解契約書が4週間以内に地方裁判所(District Court)に提出され、法的効力をもって合意された金額が支払われることになるところに、法的効力が発生します。

支払いが行われ次第、従業員は支払い状況更新フォーム(Updating Payment Status Form)を提出して、案件終了となります。

 

もし和解が得られなかったら?ECTで裁判です!

上記仲裁面談で和解が得られない場合は、訴訟付託証書(Claim Referral Certificate)を作成し、シンガポールの雇用訴訟裁判所、ECT(Employment Claims Tribunals)に提訴することになります。

 

このECTで受け付けられる訴えは、シンガポール雇用法(Employment Act)、定年・再雇用法(Retirement and Re-employment Act)、児童育成共同貯蓄法(Children Development Co-Savings Act)などに基づいた労使紛争のみですが、根拠のある訴えであれば、TADMから具体的な方法については指示があるため、おおむね従業員が裁定に基づいた金額を支払われることになるといえます。

 

今回の法改正の変更点は?不当解雇窓口変更!M&Eへの条件緩和!

労使紛争というと、もう一つ重要なテーマとなるのが不当解雇(Wrongful Dismissal)です。

従業員が解雇されたことに納得がいかない場合、これまではMOMが聞き取りから仲裁までの対応を行っていましたが、従来から給与の未払と関連しているケースが多く、ETCがワンストップで対応できるよう、対応窓口が変更されることになったというのが顛末です。

 

今後、MOMは不当解雇の定義を三者ガイドライン(Tripartite Guideline)としてまとめ、これに基づいてなされた訴えに対して、ETCが訴えの正当性を吟味、不当解雇であったとされれば復帰または補償が求められることになっています。

 

また、管理層M&Eが不当解雇の訴えを起こす際には、それが求められる能力に達していなかったため(=採用時のミスマッチ)であるという判断に必要な期間を終えていることが条件があるとして、従来1年以上の勤続期間があることが条件とされてきましたが、こちらは6か月に変更になります。

 

ここにきて、労使紛争の解決だけでなく、より労働者を守る仕組みが形成されてきたといえるでしょう。

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株式会社東京コンサルティングファーム  シンガポール法人
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