TCGのノウハウツールWiki Investmentの中から、シンガポールにおけるM&Aのポイントを公開します。
M&Aをする上で気を付けなければならない法的要素の一つが、独占の禁止です。
シンガポールでは競争法と呼ばれる法律があり、独占を禁じていますが、違反者には多額の罰金が科せられる傾向があります。
今回は、シンガポールでM&Aをする上で知っておきたい競争法についてお伝えします。
競争法とは
シンガポールで2004年10月に制定された競争法(the Competition Act)は、日本の独占禁止法に相当します。
競争法を管轄・執行しているのはシンガポール競争・消費者委員会(Competition and Consumer Commission of Singapore:以下CCCS)という政府機関です。
CCCSの前身は2005年に設立されたシンガポール競争委員会(CCS)で,2018年4月にその名称がCCCSへと変更され,その権限に消費者保護(公正取引)法(Consumer Protection (Fair Trading) Act:CPFTA)の執行も含まれることとなりました。
シンガポールの競争法は、市場を効率的に機能させること、シンガポール経済の競争力強化および消費者保護を目的として作られており、第54条~第60条にはM&Aに関する規定があります。
「Mergers」と題されたこの規定で、シンガポール市場のバランスを崩し、市場競争力を著しく低下させるようなM&Aを規制しています。
ガイドラインと手続き
CCCSは競争法遵守の具体的な措置として、12のガイドラインを発行しています。
https://www.cccs.gov.sg/legislation/competition-act
この中、「合併の実質的審査に関するガイドライン(CCCS Guidelines on the Substantive Assessment of Mergers)」、「合併手続きに関するガイドライン(CCCS Guidelines on Merger Procedures)」および「市場画定ガイドライン(CCCS Guidelines on Market Definition)」がM&Aに深くかかわってきます。
この中、「合併手続きに関するガイドライン」によれば、以下のような合併は市場占有率の観点で競争法第54条に抵触すると見做されます:
①企業結合後の市場シェアが40%以上となるような合併
②結合後企業の市場シェアは20%から40%未満の間にとどまるが,合併後の当該企業を含む市場上位3社の合計シェアが70%以上となるような合併合併
手続きとしては、まず、合併を行おうとする事業者は、上記ガイドラインの基準に該当する恐れがないかどうか自己判断を行い、その恐れがある場合には事前にCCCSに通知を行うこととされています(競争法第57条第1項)。競争法に抵触しないことが明らかである場合は、通知を行わなくとも問題ありません。
CCCSはこの通知を受けて、当該合併が競争法第54条に抵触しないか判断します。
もし、上記条項に抵触すると判断された場合は、CCCSが貿易産業省(MTI)に対し、上記第54条の適用除外である、「公共の利益」に当たると報告し、MTIがその合否を判断します。
CCCSへの通知を行わなかった企業が、競争法第54条に抵触すると判断された場合、CCCSから以下のような対応が取られます:
・買収の取消指導
・違反当事者に故意または過失があった場合は、違反当事者の過去3年間における最高売上高の10%を上限とする課徴金の納付(競争法第69条)
競争法の適用を免除される場合
上記の枠組みは、実質的にはかなり厳しい規則と言えます。そのため、多くの免除条件が設けられています。
その一つが、「合併不該当」というものです。下記のいずれかに該当する場合には,他の事業の支配権を獲得しても,競争法が禁止する合併に該当しないと見做されます(第54条第7項~第9項):
・管財人,清算人または引受人としての立場で事業を支配することになる場合
・買収対象の企業が,元々同一事業者の直接的または間接的支配下にある場合
・故人からの贈与、または共同経営下のうちの生存者への権利の帰属の結果として支配権が生じた場合
・支配権の取得が,自社または他社のための有価証券取引を日常的に行う者による、売買目的の有価証券取得による結果であり、市場に影響を与える目的がない場合
また、競争法自体が認める特別な場合として、以下の場合は競争法第54条が適用除外になるとされています(第55条及び別表第4):
・法令に基づいて,各大臣が承認した合併(別表第4第1項第a号)
・法令に基づいて,シンガポール通貨監督庁(MAS)が承認した合併(別表第4第1項第b号)
・その他規制機関の管轄下での競争に関する法令に基づいた合併(別表第4第1項第c号)
・合併による経済効果が,合併による競争制限効果を上回る場合(別表第4第3項)
更に、競争法は政府及び特別な法律で設置された法人、またそれらの委託を受けて業務を行う者については適用を除外されます(第33条第4項)。
これに類似して、郵便,上下水道,鉄道,バス等についても,競争法の適用除外対象とされています(第35条,第48条,第55条及び別表第4第6項第2号)。
以上、シンガポールのM&A情報をお伝えします。
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株式会社東京コンサルティングファーム シンガポール法人
近藤貴政
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