【フィリピン・ベトナム徹底比較!第1回「基礎知識と経済状況」】

こんにちは、東京コンサルティングファーム ASEAN統括責任者の大橋 聖也です。

 

【1分でわかるフィリピン・ベトナム進出のイロハ】

No.111< フィリピン・ベトナム徹底比較!第1回「基礎知識と経済状況」>

 

昨今、ASEAN諸国の中でトップクラスの経済成長率と一億人規模の人口をほこり、日系企業の海外進出先として特に注目されているのが、“海のASEAN”フィリピンと“陸のASEAN”ベトナムです。

両国ともに比較的安価な賃金と若く豊富な労働力、かつ優遇税制などを活用した製造業やIT業を主とした日系企業の進出が増えています。

2018-2019年の日系企業進出数は、フィリピン1,469社・ベトナム1,920社となり、10年前と比較すると約2倍になっています。

今後、両国への更なる進出や事業拡大が見込まれる中、経済環境の変化に伴う日系企業の進出状況、進出時の法人設立~会計税務、そして子会社マネジメントのポイントを全10回にわたってお話したいと思います。

 

今回は、第1回「フィリピン・ベトナムの基礎知識と経済状況」についてです。

 

《フィリピン・ベトナム徹底比較》

第1回:基礎知識と経済状況

第2回:日系企業の進出動向

第3回:法人設立の流れとポイント

第4回:会計制度の概要

第5回:両国の主要な税務

第6回:各国特有の税務

第7回:移転価格税制の変遷

第8回:税務調査の特徴

第9回:管理会計の要旨

第10回:人事設計の落とし穴

 

Ⅰ.フィリピン・ベトナムの基礎知識

 

次の表は、両国の基礎情報一覧になります。両国の経済状況を見る前に、基本情報としてどんな違いや共通点があるかを見ていきましょう。

(地理面)

フィリピンは、7,100余の島々からなる多島国家となっているのが特徴です。国土面積は日本の約 80%にあたる約30万㎢で、マニラ首都圏を含むルソン地方、ビサヤ地方(中心都市セブ)、ミンダナオ地方(中心都市ダバオ)という 3 つの地域に分けられます。

東南アジアで日本から最も近く、日本との距離は約3,000㎞で、飛行機で約4~5時間・時差はマイナス1時間となっています。

 

ベトナムは、南北1,650㎞、東西600㎞にわたる南北に細長い形をしているのが特徴です。国土面積は日本の約90%にあたる約33万㎢で、インドシナ半島の東部に位置しており、中国・ラオス・カンボジアと陸上で隣接しています。日本との距離は約3,600㎞で、飛行機で約5~6時間・時差はマイナス2時間となっています。

 

(言語面)

フィリピンは、世界第 3 位の英語公用語国ということもあり、アメリカを基本とした全ての法律・公文書は英語となっています。ある調査では、フィリピン人のTOEIC平均

レベルは700点以上とも言われています。実際に、タクシードライバーなども英語で会話ができます。

ベトナムは、ベトナム語が公用語となっている。また、在ベトナム大使館と教育訓練省の取り組みで、2016 年 9 月以降、初等教育における日本語教育導入は、東南アジアで初の取り組みとなる第一外国語としての日本語教育が導入されています。

(宗教)
フィリピンは、キリスト教が人口の約90%(カトリック教約80%、その他キリスト教約 10%)を占めています。

ベトナムは、仏教徒が人口の約 80%を占めています。

両国共に、ビジネスをする上で、宗教による直接的な労働環境やマネジメントでの影響はほぼないと言ってよいでしょう。

 

(政治面)

フィリピンの大統領は、国民による直接選挙によって選ばれ、任期は6年で再選は禁止されています。
現大統領は、2016年6月30日に就任したロドリゴ・ドゥテルテ大統領で、任期は2022年6月末までとなっています。

ドゥテルテ大統領は、フィリピン南部のミンダナオ島 にある最大都市ダバオの市長を合計 7期21年務め、凶悪犯罪が横行していた同市の治安を劇的に改善させるとともに汚職撲滅を推進した実績を持っており、市長としてリーダーシップを発揮した経験や政策を実現に移す政治的実行力から変化を求める国民の支持を得て第 16 代大統領に選出されました。

就任以来、国民から麻薬や汚職撲滅といった取組みに対する支持率は80%前後と高く、2020年10月時点では91%の最高支持率を記録しています。

 

ベトナムの国家元首は、国会議員の中から国会が選出し、任期は5年です。任期満了後、国会が次の国家主席を選出するまでの間は、その職務を遂行することになっています。

前任者であるチャン・ダイ・クアン(Tran Dai Quang)は、2018年9月に現職のまま逝去したことにより、2018年10月から現在まで、当時党書記長と兼任した形で選出されたグエン・フー・チョン(Nguyen Phu Trong)国家主席となっています。

ベトナムは社会主義体制を維持しているため、政策運営に大きな振れがなく、政治的な安定感があり、2020年10月には菅首相が最初の外国訪問としてベトナムに訪れるなど両国の関係強化を図っています。

 

 

Ⅱ.フィリピン・ベトナムの経済状況

両国の経済状況ですが、GDP成長率では、2020年は新型コロナウイルスの影響によりほとんどの国がマイナス成長となる中、パンデミック抑制に成功したベトナムが、プラス2.9%と東南アジア諸国で1番のプラス成長を記録しています。

一方、フィリピンは感染者拡大と世界一で最も長いロックダウン長期化で大幅なマイナス成長となっています。2021年は、中国を筆頭に両国ともに高い成長率が予測されています。

 

​その他、2018年~2019年の経済資料を見てみると、両国共に名目GDPは約6〜7%上昇、一人当たりGDPが約5%上昇、物価上昇率は、平均約3%で推移しています。

最低賃金上昇率については、フィリピンでは過去10年間で平均3.3%を推移、2019〜2020は据え置きとなっています。ベトナムでは、2014〜2016年は13%〜15%と人件費上昇が続いていましたが、2017〜2020年は5〜7%、2021は据え置きとなっています。

2021年時点で、首都圏における最低賃金では、フィリピン約23,000円、ベトナム約21,000円となっています。

 

両国の経済成長を下支えしているのが若くて豊富な労働力、つまり「人口増加」です。

 

フィリピンでは、ASEANでは2億人を超えるインドネシアに次ぐ第2位となり、出生率は日本の倍である約3人程度で、人口は毎年150万人ずつ増加しています。そして、平均年齢は日本が45歳であるのに対してフィリピンは約23歳であり、人口ピラミッドは富士山型となっています。また、人口は、2028年頃には1億2300万人に達して日本を追い抜き、2090年頃まで右肩上がり、人口ボーナスは2045年まで増加傾向にあります。

 

ベトナムでは、ASEANでインドネシア・フィリピンに次ぐ第3位となり、年間100万人ペースで増加しています。そして、平均年齢は約31歳、人口の約60%が25歳以下で占めており、人口ピラミッドは釣り鐘型に近づいています。また、人口は、2045年頃には日本を超える見込である一方で、65歳以上の人口比率が2017年から徐々にに拡大しており、生産年齢人口の比率は今後緩やかに減少していきます。

 

両国共に共通するのは、人口増加だけでなく、生産年齢人口比率や一人当たりGDPが上がるにつれ、生活水準・医療水準などの上昇が想定され、今後更なる内需向けサービス拡大、結果として今後も経済成長が進むと推測されます。

 

今後、日本企業が取りうる選択肢は、地域特化型として縮小する日本市場でニッチを狙っていくか、逆に、マーケットを世界に広げるグローバル化です。それ以外は、「座して死を待つ」以外に残されていません。

 

グローバル化とは、従来のフィリピンやベトナムに生産拠点を設けるというものではなく、今後、成長が期待される新興国の市場をターゲットにした海外展開を指します。

 

これまでの日本企業の海外進出は、労働集約型の工業製品の輸出加工を中心として広がりました。市場の拡大を目指して、購買力のある欧米各国のマーケットを狙った展開を行ったのです。

その後、国内労働力の不足や賃金の上昇により国内における労働集約型での生産が厳しくなり、安価な労働力を求めて新興国へ製造拠点を設ける形での進出が増加しました。

 

そして近年では、新興国の賃金も上昇傾向にあり、労働コスト優位性が縮小し、生産拠点としての新興国への進出にメリットがなくなりつつあります。

 

一方で、新興国の人口増加に伴う急速な経済成長により、購買力が増している背景をもとに、新興国を有望市場としてとらえる進出へと変化していくのは間違いありません。

 

次回、フィリピン・ベトナムへの日系企業の進出動向についてお話していきます。

 

 

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