試用期間中の解雇に関する判例

労務

 

<概要>
S氏は、B社と2014年5月5日から月給10,000RMの雇用契約を結んでいた。3ヶ月間の試用期間が終わる前の2014年4月19日、同年8月4日付けで解雇するという通知がなされた。この解雇通知には、解雇の理由が明記されておらず、会社からは「A氏の仕事のやり方はより大きな環境のほうが向いている」という曖昧な答えしか返ってこなかった。A氏は、この解雇は不当なものであるとして訴えた。

 

<従業員側の主張>
この解雇通知には、解雇の理由は明記されていなかった。また、この解雇が決定する前に、警告がなかったため、公平な評価のもと判断されたのか否かを確認する機会すら与えられなかった。理由が明確でないことから、この解雇は不当なものである。

 

<会社側の主張>
会社はA氏の仕事の能力に関しては全く問題を感じておらず、経験不足やポテンシャルのなさが解雇の原因というわけでもなかった。実は、A氏によって従業員間で問題が発生し、3名の退職者が出ていること、そして株主に対しての態度の悪さが原因となり、会社に与える影響度が大きくなっていると考えたため、今回の解雇にいたった。よってこれは、正当な理由のある解雇である。

 

<判決>
当該解雇は会社側が恣意的に行ったものであり、正当な理由なくして行われたものとする。A氏は他社への転職が決まっていたため、復職を会社側には要求しない。しかし、この従業員がこうむった被害に対する弁償として、RM90,000を従業員に支払うよう、会社に命じる。このRM90,000は、正式に雇用された期間3ヶ月間と、その後無職となった期間約6ヶ月間の計9ヶ月分の月給に値する。

 

<裁判所の見解>
従業員は、試用期間中に解雇通知を出されたが、事前に口頭もしくは書面で、解雇の危険があること旨の警告は従業員になされていなかった。会社は、業績に対する不満は無く、会社側の主張はいずれも根拠のないものであった。
会社側の主張する「従業員間の問題」を確かめるため、実際に退職した3名にインタビューしたが、3名とも、宗教上の理由や、無断欠勤者で会社から首にされていたこと、家業を継ぐことという、A氏とは関係のない別の理由で退職していることが判明した。A氏が原因で退職したという書面での証拠を得られなかった。
A氏の株主に対する態度も解雇の原因として挙げられていたが、これに関してもいつ、どこで、どのような行動・態度が問題だったのか、そしてなぜそれが問題だったのかという具体的な情報が証言から一切得られず、書面での証拠もなかった。
従業員間の問題も、株主に関する問題も、根拠がないため、会社側の主張は認められない。

 

<ポイント>
試用期間中の従業員の解雇には、他の正社員と同じように、正当な理由が必要となります。会社が恣意的に解雇することはできません。さらに、不当解雇の場合、試用期間中の従業員にも、弁償を受ける権利があります。
会社側が、正当な理由をもって、従業員がその職に適していないと判断した場合のみ、契約の終了や異動を命じることができます。仕事に適しているかいないかは、業績だけではなく、行いや振る舞い、素質、才能を基に判断します。適していないと判断した場合は、事前に警告や通知が従業員になされていたか、それでも従業員は改善できなかったのかという点が、裁判では確認されます。

 

従業員に関して何か問題が発生した場合には、その問題ひとつひとつに警告を行うことで、適切な評価が行われていることを証明することになります。解雇の通知前に、書面で警告をし、何が問題だったのか、なぜ問題なのかを明記しておくこと、そしてその改善のための猶予期間を与えることで、不当解雇とみなされる確率は下がるでしょう。この警告がない場合、正しい評価が行われたのか、そして雇用主の判断は適切なものなのかが分からなくなるため、不当解雇が疑われる可能性が高くなりますので、ご注意ください。

 

 

東京コンサルティングファーム谷口 翔悟

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