インドネシア人の宗教観と労務管理

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11月6日はイスラム世界では、イード・アル=アドハー(犠牲祭)と呼ばれる宗教的祝日である。この日、イスラム教徒は、ウシ、ヤギ等の家畜を生贄としてささげ、貧しい者にその肉を分け与える。イスラム教徒の慈善を実践する大祭である。インドネシアにおいてもそれに備えて、ジャカルタ市内、いたるところでウシや、ヤギが売買されており、このときは、ウシが車に揺られている光景もよく目にする。

如何に、寛容なイスラム教徒が多いといわれるインドネシアにおいても、これほど宗教が人々に根付いていることは外国人が必ず、気に留めておかなければならない事実である。それは、特に、会社という組織の中においても同じことが言えるだろう。文化の違いを理解し、何が彼らにとっての優先順位なのかを理解しようとすることが重要である。

インドネシアの日系企業が賃金体系を構築する上でも、こうした思考の違い、風土の違い、社会制度の仕組みの違いを踏まえた上で、彼らにとって働きがいのある会社を作るための仕組みを作らなければならない。

インドネシアにおいては、残業代を除く固定給は総賃金の75%以上、固定給のうち、基本手当の部分は75%以上なくてはならないとされる。日本においては、例えば残業代の計算において、家族手当、住宅手当等は割増賃金の算定基礎から除外するといった規定がありますが、インドネシアにおいては、残業代は、固定給をもって算定基礎とすることがきめられているのみで、その意味においてインドネシアの企業にとっては、賃金設計上、固定給の大枠の中で、何をもって基本手当とするか、固定手当とするか、あるいは、変動手当として規定するかということを就業規則等で規定していく必要がある。

労務上のこうしたコンプライアンスを遵守するとともに、何がインドネシア人にとってのモチベーションとなるかを考える必要がある。それは、インドネシア人が働くことについての意義、あるいはその基礎となる世界観や宗教観を理解することに他ならない。

例えば、製造業・非製造業を問わず、現在、日系企業の多くが民間保険に加入し、医療手当として補助を行っている。これは、JAMSOSTEKという、強制加入の社会保障制度で、従業員の健康を維持できる十分な保証を担保できないからである。適正な運用の為に、入院と通院ごとに、保障額の上限を設ける、あるいは、証憑のチェックをおこない、家族構成の虚偽報告等の防止をすることも重要である。

また、多くの企業において、祝祭日手当として、通常の時給ベースの2倍~4倍の給料を支払うことが法令で義務付けられているが、実際に労使紛争となった時に、それ以上に要求する組合も少なくない。祝日が宗教的行事が多く、インドネシア人はその時、家族と過ごすことを習慣としているので、祝日に出勤することに強い抵抗があると推察される。

このように、当地にあった手当を設けること、手当額を設定することを通して、従業員がより働きやすい環境づくり、モチベーションが上がる就労環境を創出する義務が会社にあると言える。そのコントロールこそが企業における労務管理の一つの肝となることは言うまでもない。

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