こんにちは、中国・上海の田中勇です。
労働契約法改正の施行に先立ち、自社の賃金制度改定を検討される日系企業が増えてきました。本日は、日系企業における賃金制度改定についてお話します。
労働契約改正の中で、最も多くの日系企業に影響を与えているのは、「同一労働同一賃金」の明確化です。これは「企業は同一労働同一賃金の原則に基づいて、派遣労働者に正規労働者と同じ労働報酬分配をすべきである」と定めた規定であり、背景として「派遣労働者は正規労働者と同一労働同一賃金の権利を有する」ことを強調する中国当局の考え方があります。しかしながら、「同一労働同一賃金」は個人の成果や努力を給与に反映させることを否定するものはありません。この点は中国当局も同様の理解です。つまり、「同一労働同一賃金」とは、属人的な要素を排除し、職務という枠組みの中で、賃金を決定すべきだという考え方なのです。
では、日系企業は具体的にどのように対応したらよいのか。役割を明確に分けた4つの賃金項目を設け、新しい賃金制度の構築が有効です。4つの賃金項目とは、以下の通りです。
②職務内容により変化する仕事給(崗位給)
③評価制度により変動する業績給(人事考課給)
④要件を満たした者に対して支給する各種手当
まず、基本給においては、職務の習熟度に合わせて等級を設定し、その等級によって基本給の金額を一律に定めます。次に、仕事給においては、職務間の付加価値の違いを給与に反映させます。ここでは、組織戦略上の視点から、当該職務を遂行できる人材の能力、希少性、代替性、技能習得に必要な時間を考慮することが重要です。3つ目として、業績給(人事考課給)により、等級に応じて上限・下限の幅を持たせ、この幅の中で従業員評価を給与に反映させます。ここでは、従業員の努力・成果を正確に給与に反映させる仕組みを構築することが重要です。最後に、各種要件を満たした従業員に対して支給する各種手当を設定します。
以上の4つの賃金項目を設定し賃金改定を行うことで、労働法改正法の対応が可能になり、組織戦略上有効な組織の構築が可能になります。まず、等級によって賃金金額が決定する基本給により、日系企業でよく問題となる「同じ等級なのに給与額が違う」という中国人従業員の不満を解消できます。つまり、同じ等級であれば基本給は同一であるという考え方が、中国人の根本的な考え方なのです。次に、仕事給により、職務の枠組みの中での賃金決定を行うことで、年齢や勤続年数といった属人的な要素を排除することが可能になり、労働契約法改正への対応が実現します。さらに、業績給により、従業員の直近の成果が給与に反映されるようになり、短期的な従業員のモチベーションのアップにつながります。また、人材募集についても、職務と給与額が具体的かつ明確であれば、より適切な人材が募集しやすくなり、従業員の配置転換(適材適所)も容易になるのです。
以上