シンガポールでビジネス、という話をするとき、多くの方が個人事業主(Sole Proprietorship)やパートナーシップ(Partnership)という言葉を耳にされるかと思います。
日本から進出と考えると、絶対多数が会社(Company)、支店(Branch Office)、駐在員事務所(Representative Office)の形態を選択することになるシンガポールでは、ほとんど素通りされがちなビジネス形態ですが、実際には外国人や外国企業にとっても、利用を考える余地があります。
今回は、シンガポールにおける個人事業主の基本的な事実を確認しつつ、その利用法についてご紹介します。
個人事業主の定義は?
シンガポールにおける個人事業主とは、シンガポール国内で自分の名前でビジネスを展開する個人、企業、パートナーシップを指します。
企業やパートナーシップでも個人なのかと、少しいぶかしく思える定義ですが、これはシンガポールで法的責任を持つことのできる存在(個人、企業、パートナーシップ)であれば、事業展開することが可能である、という意味です。
つまり、シンガポールに実態をもって活動し、いざという時裁判所に呼び出されても対応ができる人がいれば、自分の責任の範囲内で事業活動をすることができるのです。
登記が必要なのは?
シンガポール企業会計規制庁(ACRA)にはシンガポールで活動するすべての企業が登記されていますが、例えば個人で翻訳などの具体的なサービスを提供し、その対価を受け取るような場合には、特に登記が必要とはされません。
これは、シンガポール居住者であれば、自分の身分証番号でもって個人所得税を納税することができるため、また企業等でない場合には、法人所得税の税率でなく個人所得税の税率で納税すれば事足りると、シンガポール政府が理解していることによります。
一方、ACRAに登記が必要なのは、ビジネスとして本人とは別の名前で活動する場合です。
当然、二人以上で何か団体名をもって活動する場合にも、その団体を示す商号があれば、パートナーシップとして登記を行う必要があります。
なお、シンガポールでは個人事業主が1名のみ、パートナーシップは最大で20名まで、21名以上のグループとなる場合は会社として、それぞれ登記が必要とされています。
登記は簡単!
シンガポールでは会社の登記も難しくありませんが、個人事業主の登録はさらに簡単です。
シンガポール人であれば、ACRAのポータルサイトBizFile(https://www.bizfile.gov.sg/)で申請を行えば、即座に事業登録が完了します。
1年および3年の登記ができ、登録料はそれぞれS$115およびS$175とされています(更新料はそれぞれS$30およびS$90です)。また、登録抹消時は特に費用は掛かりません。
ここまで簡単な理由はまさに、個人事業主がその活動の責任を全額、制限なく自分で負うことになるところにあります。
外国人には許されない?
実は、個人事業主の登記は必ずしもシンガポール人でなければならないとはされていません。
永住権(Permanent Residence:PR)を取得している外国人、またシンガポール企業の発行したEPで働く外国人も、人的資源省(Ministry of Manpower:MOM)に許可を取れば、個人事業主として登記することができます。
政府系サービス利用アカウント、SingPassを持っていない人の場合は、秘書役会社などに依頼することにより、申請をすることができます。
一人の会社を作るより個人事業主?
日本から進出する場合、会社の従業員から一人だけシンガポールに出向させ、マーケティングなどの事業を行わせる企業は少なくありません。
そんな場合でも、一般的にはシンガポール法人を立ち上げ、会社秘書役と契約し、銀行口座を作り、必要なら就労許可を申請・発行して事業活動をスタートさせます。
しかし、その業務が日本人でなくてもいい、現地の人であればなおいい、といった場合には、実は会社設立をしなくてもいい可能性があります。
その一つが、シンガポールで現地の人に個人事業主として登録をしてもらうことです。
とにかくコンプライアンスが楽ちん!
個人事業主として業務を行う個人には、会社として手当や保険などをつけることができない以上、通常シンガポール法人の従業員である場合よりも手取りが増えるよう、報酬を設定する必要があります。また、責任をもって事業に取り組むよう明確な契約書を取り交わすなど、様々な注意点は出てきます。
しかし、会社の名前を背負って事業を行ってもらえば、会社秘書役との契約や銀行口座開設だけでなく、給与計算や年次財務報告、法人所得税などの、あらゆる会社法コンプライアンスから解放されます。
具体的にはどう依頼する?
もちろん、上記のスキームは、現地で活躍するフリーランサーと契約して業務を依頼する場合と、法的には何ら変わりありません。
しかし、新規事業のために採用活動を行い、そこで見つかった人材にこうしたスキームで活動するよう依頼することで、どちらにとってもメリットの大きい事業展開ができる可能性があります。
会社と会社の垣根が取り払われていく現代社会、パートナーシップも含め、個人事業主を依頼する形態でシンガポールに進出することを考えてみるのも、面白いかもしれません。
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