シンガポールの労務環境一般公開!~シンガポール人を本社採用すれば事業を遂行できるか~

労務

TCGのノウハウツールWiki Investmentの中から、シンガポールにおける労務のポイントを公開します。

今回は、よくいただくものの中から、「日本の本社でシンガポール人を採用して、その従業員をシンガポールで働かせたら、事業の遂行はできるのか」という質問に回答してみます。

本社採用をする理由

一般に本社採用とは、日本本社が雇用を行って給与報酬を支給することを言います。

これが検討される理由として、以下のような事例があります:

・日本人従業員をシンガポールに駐在させるためには、現地で法人など法的実体を持ち、そこでEPを申請・取得する必要があるが、そこまで大掛かりな活動をする予算がない

・本社採用の従業員として日本本社が給与等負担するのであれば、現地法人のコストを抑えることができ、全体的に税コストが軽減される

・専ら日本本社のための活動をさせることになるので、その費用を日本本社で持ち、また本社の評価制度に乗せて給与設定をすることで、コントロールを強化したい

本社採用のシンガポール人をシンガポールで勤務させることは、本質的にはシンガポールで個人事業主として働く個人に業務委託を行った報酬と支払う場合と類似しますが、後者と比して、一定の補償(社会保険料、退職金、昇給・賞与など)を用意する分、従業員としての忠誠・帰属意識と責任を期待できる、という考え方があります。

また、特に投資検討中の段階で、現地に支店や法人を設置するだけの出資をするのを避けたい場合、日本人駐在員をシンガポールに駐在させる必要がなければ、本社採用のシンガポール人をシンガポールで勤務させる、ということが考えられるのは、自然なことと言えます。

検討事項その1、税務面

本社採用の従業員をシンガポールで働かせる場合、まず検討すべきなのは、それによりどのような活動を行うか、という部分です。

一般に国外の法人・個人がシンガポールで事業活動を行う場合、収益が伴うのであれば納税を行う必要が生じます。具体的には、本社採用の従業員が営業活動を行い、シンガポールで法人所得が発生した時点で、当該従業員はPE(Permanent Establishment恒久的施設)と見做されます。

この場合、日本法人がその法人所得に関して日本側で法人税を納税するとしても、シンガポール側で法人所得税が課せられ、二重課税が生じることになります。

日星租税条約によれば、PEと認定されない活動としては、情報収集、広報、製品の輸入・保管・配送、関係会社管理等、一般に費用となる行為が該当しますが、ひとたび日本法人の名前で販売契約を締結すれば、これは営業行為と理解され、PEと認定されることになります。

上記以外の活動を行う場合には、エージェントへの委託、個人事業主への発注等を行うか、面倒でも支店や現地法人を設立する必要があります。

検討事項その2、労務面

次に、労務面でそれがどのような雇用関係であるか、具体的には、個人事業主に対する業務委託と比べ、雇用とすることで何を補償するか、という部分が論点になります。

法人がない以上、会社として保険に入ることも難しく、日本で勤務する本社の従業員と平等を保つためには、手当など名目は別にして、一律給与報酬として支給することになりますが、シンガポールには社会保険として、唯一CPF(シンガポールビジネスの場合のみ、現地の法人が一定の割合で拠出する老後のための積立金)が存在しており、そこで給与報酬の多寡と、その支払い方法が問題になります。

以下、本社採用されるシンガポール人が、日本での生活基盤(銀行口座など)を有していること、および日本本社が単体ではなく、関係会社等、シンガポールに現地法人が別途存在していることを念頭に、選択肢を5つ記載します:

①:給与報酬の支払いが日本側のみ

②:給与報酬の支払いがシンガポール側のみで、一旦シンガポール法人が立て替える

③:給与報酬の支払いがシンガポール側のみで、日本法人が直接従業員に支給する)

④:給与報酬の支払いが日本とシンガポールの両国で、一旦シンガポール法人が立て替える

⑤:給与報酬の支払いが日本とシンガポールの両国で、日本法人が直接従業員に支給する)

①:日本側で生活基盤を築かれたシンガポール人従業員と理解すれば、日本側でのみの支給ということは考えられます。

日本で給与支給に合わせて年金など社会保険料の支払いがあり、納税も行われる場合、シンガポール側ではCPF支給の必要はありません(シンガポール法人等でなければそもそもCPF申告・納付ができません)。

また、個人所得税はシンガポールでは発生せず、日本側でのみ支払うことになります。

②:日本法人との契約ではあっても、給与支給がシンガポール側のみであるケースは、シンガポール関係会社など、現地法人に一旦立替で支払いを依頼する場合と、日本法人から支給する場合にわかれます。

前者の場合は一般に雇用代行の形式を取り、シンガポール法人との雇用関係となるため、CPFの申告・納付義務が生じます。

シンガポール現地法人はこのCPF会社負担分(17%)に手数料を足して、日本法人に請求を行います。毎月ではなく、数か月ごとの請求になるケースがほとんどです。

この場合、日本側で所得税は発生せず、シンガポール側でのみ個人所得税が発生します。

③:一方、上記のケースで、日本法人から直接従業員への支払いをする場合は、上記①の場合と同様、CPFの申告・納付ができません。

この場合は日本側での社会保険料も発生しないため、現地法人で雇用される場合と比較して、従業員にとってはCPF会社負担分(17%)が受け取れないという損失となります。

従って、CPF会社負担分を足して本人に支給し、自主的にCPF納付を行わせる(Voluntary Contributionという制度がございます)ことが考えられます。

また、日本側の雇用であるため、個人所得税は日本側でのみ納税することになります(「Overseas Income Received in Singapore」に分類され、シンガポール側では課税されません)が、税率はシンガポールの方が低いため、日本側での所得税納付は従業員にとって不利となります。

日本側での補償がないため、上記0.の論点で言及した個人事業主に対する支払いとの差もあまりつけられません。

更に、毎月国際送金をすることになるため、日本法人の負担もあり、基本的には採用されません。

④:日本・シンガポールの両国で支給をする場合は、上記①と②の組み合わせとなります。

シンガポール支給分につきシンガポール関係会社など、現地法人に一旦立替を依頼するケースでは、日本法人が日本で支払う金額には日本側の社会保険料支払いと所得税の徴収が発生し、シンガポール側ではシンガポール現地法人の雇用として、その金額のみがCPFの対象となります。

しかし、シンガポール側の個人所得税申告時には、シンガポール現地法人での雇用関係が存在するため、日本側支給分が「Overseas Income Received in Singapore」ではなく「Your overseas employment is incidental to your Singapore employment」と見做され、二重課税となってしまうリスクが発生します。

これは、日本人駐在員がシンガポールで働きながら、日本とシンガポール両方で給与等支給される場合と類推でき、いずれもシンガポールにおける労働の対価と見做され、シンガポールで合算申告・納税する義務が生じます。

⑤:日本・シンガポールの両国で支給をする場合側で、全て日本法人が支給するケースでは、所得税は日本側でのみの徴税となり、上記③とほぼ同じ条件となります。

複雑で手数料がかかるにも関わらず、従業員にも日本法人にも不利となるため、基本的に採用されません。

結論、本社採用のシンガポール人をシンガポールで勤務させるには

以上のことから、前提として営業活動を行わない場合に限り、日本側またはシンガポール側のいずれかで給与等を支給することを定め、日本側で社会保険料の支払いと所得税の徴収を行って、シンガポール側のCPF、個人所得税を支払わないようにする(①)か、シンガポール側でシンガポール現地法人による雇用代行を実現してCPFを支払い、日本からはシンガポール現地法人への業務委託費用の形で合計金額を払い戻す(②)か、いずれかの形式を採用することになると考えられます。

以上、シンガポールのビジネス情報をお伝えします。労務に関するお問い合わせはもちろん、会計や税務に関するお問い合わせも、お待ちしております。


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株式会社東京コンサルティングファーム  シンガポール法人
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2019-10-23

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