日本でもまずまず使用されることが増えてきた英語に「Deposit(デポジット)」という言葉があります。
翻訳としては、「置く」とか「入金する」、「寄託する」という意味で使われるこの単語ですが、外国での使われ方はまだまだ日本の文化にはないものばかりで、当惑させられることも多いものです。
今回は、ビジネスハブであるシンガポールにおいて、様々な商習慣が入り混じった末に定着した、このデポジットという言葉の使い方について、シンガポール会計に照らしてお伝えします。
目次
ホテルと言えばこれ!
セキュリティーデポジット!
まずは、外国でホテルに宿泊するときにはお馴染みの、「Security Deposit(セキュリティーデポジット)」から見ていきます。
外国から様々な人が往来するシンガポールでは、日本のように身分証明書だけ提出すればそれで安心というわけにはいきません。
どんな顧客でも、サービスを享受した後、お金を払う前にひとたびシンガポールの外へ出国してしまえば、もはや追跡して請求するのは困難です。
従って、シンガポールではホテルを利用するにも、リースをするにも、地下鉄のプリペイドカード一つ購入する(実際には返金が可能であるため、こちらはレンタルに当たります)にも、逐一デポジットを払うよう要求されます。
短期間であれば、これらは個人の小口現金などで処理されますが、長期間にわたる場合には、Deposit(デポジット)という資産勘定に計上することになります。
グッドフェイスとは?
賃貸借契約におけるデポジット!
同じくセキュリティーデポジットがからむ、シンガポールで最も頻繁な取引と言えば、個人、法人が住居やオフィスを賃借りする、Tenancy Agreement(テナンシーアグリーメント)、賃貸借契約です。
シンガポールの商習慣として一般的なのは、長期的賃貸借契約の場合、家賃の金額を基準にして、仲介業者を使うのであればその1.2か月分程度を仲介手数料として支払い、家主にはデポジットを2か月分支払い、更に家賃の1か月分を、Good Faith Deposit(グッドフェイスデポジット)として支払うことです。
このグッドフェイスという言葉は、本来は「善意に解されるべき」というような意味合いで使われますが、シンガポールでグッドフェイスデポジットと言えば、それは「デポジットとして受け取るけれども、最初の家賃1か月分に用いられる」という意味になります。
具体的には、一応がデポジットの性質であるため、例えば契約後にテナントが一方的に契約を解除したいと申し出る場合などは、先のセキュリティーデポジットと併せて、全額家主に没収されます。
しかし、問題なく賃貸借契約が開始される場合、このグッドフェイスデポジットは初回の家賃1か月分に充当し、家賃の支払いは2か月目以降に開始することになります。
グッドフェイスデポジットはシンガポール会計上、前払費用(Prepaid expenses)に分類され、その後初月分の計上のタイミングで家賃(Rent)に振り替えられます。
法人清算費用も前払い?
賃貸借契約と同様の考え方に、プロジェクトのセキュリティーデポジットがあります。
こちらは、例えばシンガポール現地法人の清算案件などを弁護士に依頼する場合、予め費用を見積もった金額でデポジットを求め、残額があれば返金、費用がデポジットを上回れば事後請求となることが多く見られます。
この場合も、会計上は通常前払い金として処理し、インボイスが発行され次第、費用処理することになります。
銀行口座開設と言ったらデポジット?
もう一つ、シンガポールでよく聞くデポジットが、銀行口座開設時のInitial Deposit(イニシャルデポジット)です。
こちらは、法人口座または個人口座開設時に、無条件で要求される入金額です。
銀行によってその金額は様々で、SGD1,000からSGD5,000程度が通常ですが、特にシンガポール居住者でない法人または個人が口座を開こうとするときには、SGD200,000程度要求されることもあります。
そのまま口座預金残高として入金されることはされるのですが、預金残高が一定の金額を下回ると、月額で口座維持費手数料が発生する仕組みになっているため、注意が必要です。
会計処理としては、イニシャルデポジットはそのまま銀行預金高として計上することができます。
以上、様々なデポジットを見てきました。
スムーズにビジネスが進められるよう、細かな違いも理解しながら、シンガポールの商習慣に慣れていきましょう。
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近藤貴政
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