一歩日本の外に出れば、国内の保険は適用されない場合がほとんど、現地法人の駐在員を任されるならなおのこと、保険制度については理解しておく必要があります。
今回は、シンガポールにおける会社運営において、知っておくべき保険制度をお伝えします。
1.保険加入義務
まず、日本の場合と最も大きく異なる点は、法的には一切保険の加入義務がないことです。
日本の国民健康保険/社会保険は、住民登録をするすべての人が加入する必要のある保険制度であり、よほどのことがない限り毎年一定額を支払い、通院の際には2~3割負担で支払いができます。
ところがシンガポールでは、保険加入は基本的に自己責任。個人が一般の保険会社の保険に加入して、事故や重い病気に備えます。
とはいっても、保険未加入の社員が病気になっても我慢して通勤するようでは、社内に与える影響もあります。一定の規模以上の企業は団体医療保険に加入し、医療費負担をさせないようにしているところがほとんどです。
シンガポールの病院ではどこでも保険会社の名前が書かれていて、医療保険加入者のカードでキャッシュレス清算をするのが大半のところも多いです。
保険料は一人当たり年間500 SGD程度ですが、年齢が高くなるにつれ当然保険料は上がっていきます。会社の負担も大きくなりますが、福利としては確保しておきたいところです。
まだ団体医療保険にはちょっと手が出ない、という場合には、「病気で通院する際には、年間最大500 SGDまで会社持ちとして医療費清算ができる」などと、Employee Handbook(就業規則)などに記載しておくことでも対応可能です。
医療費も生活費も高いシンガポール、特に重度の障害や疾患に見舞われた場合、会社と個人の両方を受け取れるように、団体保険のある会社に入ったうえで、なおかつ個人の保険に加入しておくシンガポリアンが多いことは、覚えておく必要があるでしょう。
なお、法定では14日の病欠有給休暇(Sick Leave、入院する場合は最大60日)を付与することになっており、従業員が診断書を持ってくる限り有給休暇扱いとなる点も覚えておきましょう。
2.シンガポール国籍/永住権保持者には特に手厚く、強制貯蓄
高齢化が進むシンガポール、退職後、国内で最期を迎える人のための福祉は年々手厚くなっていきます。
雇用者として重要なのは、シンガポール国籍及び永住権保持者の従業員に関しては、従業員自身も会社側も、毎月必ずCPF(Central Provident Fund)という基金に一定額拠出する義務があるということです。
サラリースリップにも拠出金額を明示する必要があり、かつ毎月14日までにオンラインで申告、納付する義務があります。
このCPFはいわば個人に課せられる老後のための強制的貯蓄えあり、住宅購入目的のOrdinary Account、老後及び金融目的のSpecial Account、医療目的のMediSave Accountに規定された割合で蓄えられます。
なお、他にもシンガポール国籍/永住権保持者は所属コミュニティーごとに民族基金を拠出する義務がありますので、給与計算・CPF申告の際にはこちらもお忘れなく。
3.続・シンガポール国籍/永住権保持者には特に手厚く、強制年金
上記のCPFに加えて、同様に強制的に加入させられる、厚生年金的な保険制度があります。
その名はCareShield Life、2020年に40歳以下であるシンガポール国籍/永住権保持者が対象です。
厚生省(Ministry of Health)により、2020年から導入されることが決まったCareShield Lifeは、上記CPFのMediSave Accountから67歳になるまで自動的に拠出され、老後身体障碍が発生した段階で毎月支払いを受けられるようになる仕組みです。
現行の厚生年金的保険制度、ElderShieldに加入している人は、2021年以降CareShield Lifeにアップグレードすることも選択できるとされています。
特徴はなんといっても、国外にいようが無職であろうが対象の人は全員保険料を支払う義務があり、その保険料、支給額ともに年々増加していくという点でしょう。
特に雇用者に義務が発生する事項ではありませんが、ますますシンガポール国籍/永住権保持者の高給確保が重要になってきそうです。
4.S Pass/Work Pass発行の場合は要注意
会社の規模が一定以上であれば、一般的な就労ビザのEP(Employment Pass)以外にも、比較的安価な労働力としての外国籍労働者にS PassやWork Passを発行して雇用することができます。
しかしこのS Pass/Work Pass発行には、手続きの際に保険に加入することが求められるという注意点があります。
カバレージは最低でも年間15,000 SGD以上、入院時や手術時に適用可能であることが条件で、従業員負担とする場合にも以下のような条件があります。
- 労働条件に起因する通院費用以外の医療費がカバーされること
- 従業員負担が給与の10%を超えないこと
- 従業員負担期間が6か月を超えないこと
- 従業員負担となることが契約書に明示されていること
Work Passで就労する外国人についてはさらに厳しく、シンガポール到着後2週間以内に、指定のフォームを使用して国内登録医による検診を受けさせ、雇用者側から結果を報告する義務が発生します。
以上、シンガポールの保険制度をざっくりとご紹介いたしました。法定の部分はしっかり押さえたうえで、有能な人材を集められるような安心感のある会社制度を作っていきたいものですね。
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