シンガポールにおけるストックオプション

税務

 

TCGのノウハウツールWiki Investmentの中から、シンガポールにおける税務のポイントを公開します。

今回は、シンガポールと同じオープンマーケットである米国で一般的と言われる、ストックオプションの課税についてお伝えします。

 

ストックオプションの分類

シンガポールのストックオプションは、以下の二つの言葉で表現されることが多いです:

・Employee Share Option (ESOP)

・Employee Share Ownership (ESOW)

 

このうち、前者のESOPは、後者のESOWの一種であり、株式の買取価格、およびオプション行使の期限が指定されているものを言います。

 

ESOWは全体として、会社から従業員に対し、その会社の株式を購入する権利を付与するものです。

 

また、いずれも実際の株式についての従業員報酬であり、いわゆるファントムストック、シャアアプリシエーションライツ(phantom shares、share appreciation rights)などの、株価による業績連動型報酬(実際には株式を取得しない)とは扱いが異なります。

 

シンガポールの税務上、こうしたストックオプションを付与される従業員は、その付与される形態により所得を得たものとして、課税されます。

 

課税のタイミング、税務上の扱いは、シンガポールでは以下のように分類されています:

1.受給権条件(Vesting Clause)なしでストックオプションを付与される場合

2.シンガポールでの就労期間中に、受給権の条件つきで、ストックオプションを付与される場合

3.シンガポールで就労していない時期に、受給権の条件つきで、ストックオプションを付与される場合

※、ここで言う、「シンガポールでの就労期間」とは、シンガポールの企業と雇用契約がありながら、一時的に国外で勤務している場合も含むため、注意が必要です。

 

以上のうち、「3.のシンガポールで就労していない時期に、受給権の条件付きで、ストックオプションを付与される場合」に関しては、シンガポールでは課税所得ではないと見做されます。

 

以下、1.と2.について、それぞれ課税されるタイミング、および課税所得としての計算方法を確認していきましょう。

 

1.受給権条件なしでストックオプションを付与される場合

株式を付与された時点の課税年度で所得として計上されます。

この場合、同じく株式を付与された時点での株式市場での株価、および株式購入価格との差額が課税所得となります。

 

2.シンガポールでの就労期間中に、受給権の条件つきで、ストックオプションを付与される場合

ここで、受給権(Vesting)について簡単に記述します。

ストックオプションは、そもそも従業員に会社の業績を上げるようインセンティブを与えるために考案された報酬ですが、株価が上昇したらすぐにストックオプションが行使され、その時点で従業員が退職してしまう、という弊害も発生しました。

そこから、従業員がストックオプションを付与されてから、それを段階的に行使(=株式を購入)できるよう、期間を設ける企業が一般的です。

この、ストックオプションを行使できる、つまり会社の株式を購入できるようになることを、受給権を得る、と言います。

 

また、受給権が得られ、実際に株式を購入した後も、会社の株価安定のために、あまりにも急に売却されることのないよう、売却期間に制限を設けること(Selling Restriction)もしばしばあります。

この期間をモラトリアム(Moratorium)と言います。

その場合、ストックオプションを行使したとしても、この制限が取り除かれるまでのモラトリアム期間は、実際に売却益を得ることはできません。

 

以上の受給権の条件(Vesting Clause)、および売却制限によって、シンガポールで課税所得となるタイミングは以下のように分類されます:

・売却制限がない場合:ESOPを行使した日、または、ESOWの受給権が得られた日が属する年度で課税所得となる

・売却制限がある場合:売却制限が取り除かれた日が属する年度で課税所得となる

 

同様に、前者ではESOPを行使した日、またはESOWの受給権が得られた日の株価と、株式購入価格との差額が課税所得となり、後者では売却制限が取り除かれ、モラトリアムが終了した日の株価と、株式購入価格との差額が課税所得となります。

 

外国人がシンガポールから出国する場合

シンガポールで就労中に付与されたストックオプションにつき、上述の「ESOPを行使した日」、「ESOWの受給権が得られた日」、「売却制限が取り除かれた日」などが到来していない状態でシンガポールでの就労が終了、国外に出ることになった場合は、Deemed Exercise Ruleという規則が適用されます。

 

これは、実際には行使していない、受給権が得られていない、売却制限が取り除かれていない状態であっても、従業員がシンガポールでの就労を終える1か月前の時点で株価を算定し、取得条件の購入価格との差額を所得として見做し、課税するものです。

 

実務上はシンガポールでの就労を終える際の、Tax Clearanceでこれを申告することになる点、株価が変動する場合には特に注意が必要です。

 

ストックオプションを付与された後も売却をしない場合

ストックオプションを行使する権利が発生した後も、会社の株式が更に上昇する可能性が高い場合、従業員としてはその株式を売却しないことがあり得ます。

 

一方、上に見てきたようなシンガポールの税制によりストックオプションが課税所得とされることは、個人の資金繰りとして困窮する可能性を内包します。

 

そこで、以下のような条件に該当する従業員については、最大5年まで納税義務を延長することができることになっており、これをQEEBR Scheme(Qualified Employee Equity-based Remuneration Scheme)と言います:

・ストックオプションを行使する権利が付与された時(上述の分類に沿う)、シンガポールで就労していること

・ストックオプションが、就労している会社の関係会社(同一グループなど)から付与されていること

・該当の個人所得税が、従業員の本人負担であること

 

米国で発達したストックオプションの考え方が、シンガポールでも同様に税法に取り入れられており、企業側も税務上の取扱いを理解した上で、有能な従業員の囲い込みの手段やインセンティブとして、有効に活用していきたいものです。

 

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