執筆者:袖山 大輝(東京コンサルティングファーム メキシコ拠点)
東京コンサルティンググループメキシコ拠点の袖山です。メキシコに駐在し、日系企業の労務と経理の実務を日々支援しています。
ここ数週間、お客様から「IMSSの届出に使っている証明書が使えなくなると聞いたのですが、うちは大丈夫でしょうか」というご相談が急に増えています。
IMSSは事業主が行う電子手続きの認証を、SATが発行するe.firmaだけに限定しました。これまで使われてきたNPIEとその電子証明書は廃止され、移行期間は官報掲載から90日、つまり10月中旬に終わります(出所:連邦官報(DOF)2026年7月16日掲載、IMSS技術評議会合意 ACDO.AS2.HCT.290626/176.P.DIR)。まだNPIEで届出をしている会社は、今週中に切り替えを済ませる必要があります。
本記事では、この切り替えに加えて、9月から10月にかけて相次いだIMSS手続きのデジタル化をまとめ、日系企業が優先して確認すべき作業を解説します。
1. IMSSの電子手続きはe.firmaだけが有効になりました
【IMSSとは】 IMSS(Instituto Mexicano del Seguro Social、メキシコ社会保険機構)とは、従業員の医療保険、労災保険、年金などを運営し、事業主から社会保険料を徴収する公的機関を指します。
【e.firmaとは】 e.firma(Firma Electrónica Avanzada、先進電子署名)とは、SAT(メキシコ税務庁)が発行する電子証明書で、オンラインの手続きで本人であることを証明するために使うものを指します。
【NPIEとは】 NPIE(Número Patronal de Identificación Electrónica、事業主電子識別番号)とは、IMSSが独自に発行してきた事業主向けの電子証明書を指します。
IMSSの技術評議会は2026年6月29日の会合で、事業主がIMSSに対して電子的に行う手続きには、e.firmaだけを使うことを全会一致で承認しました。この合意は7月16日に官報に掲載され、翌日から施行されています(出所:DOF 2026年7月16日、合意 ACDO.AS2.HCT.290626/176.P.DIR、第1項・第9項。IMSSプレスリリース 2026年7月17日)。
合意の第4項はNPIEとその電子証明書の廃止を定め、第3項はNPIEの根拠となっていた旧合意(第43/2004号、第533/2006号)を無効にしています。e.firmaで署名した書類は、手書きの署名と同じ証拠力を持つと第1項に明記されています。
IMSSは、手続きを一本化する理由として、なりすましや無断の届出を防ぎ、本人確認を確実にすることを挙げています(出所:IMSSプレスリリース 2026年7月17日)。
2. 移行期限は10月14日前後、作業は13日までに終えることをおすすめします
合意の第5項は、官報掲載から90日(暦日)を移行期間と定めています(出所:DOF 2026年7月16日、同合意第5項)。
期限を過ぎるとNPIEの電子証明書が使えなくなるため、e.firmaを準備していない会社は、入社・退社・賃金変更などの届出を電子的に行えなくなるおそれがあります。届出が遅れると、従業員の保険の資格や保険料の計算にも影響が出ると考えられます。
確認していただきたい3つの作業
- e.firmaの有効期限を確認します:会社のe.firmaが期限切れになっていないか確認します。期限が切れている場合は、SATで更新が必要です。
- 代理人を登録し直します:合意の第2項により、法定代理人や手続きの担当者の登録は、IMSSのオンライン窓口(Escritorio Virtual)でしかできなくなりました。会社と代理人の双方がe.firmaで署名する必要があります(出所:同合意第2項)。
- 外部委託先にも確認します:給与計算や社会保険の届出を会計事務所などに任せている場合は、委託先がe.firmaで手続きできる状態か確認します。
【Escritorio Virtualとは】 Escritorio Virtual(エスクリトリオ・ビルトゥアル、IMSSオンライン窓口)とは、事業主や従業員がIMSSの各種手続きをインターネット上で行うための公式窓口を指します。
日系企業では、日本人の駐在員が法定代理人になっている一方で、本人のe.firmaを取得していない例が少なくありません。代理人のe.firmaも必要になるため、駐在員の異動予定がある会社は、後任者の取得時期も合わせて確認しておくと安心です。
3. 事業主証と保険料の算定案もオンラインへ移りました
e.firmaへの一本化と並行して、IMSSは手続きのデジタル化を進めています。9月以降に官報に掲載された主な変更は次の2つです。
事業主証(TIP)がデジタル版のみになりました
【TIPとは】 TIP(Tarjeta de Identificación Patronal、事業主証)とは、IMSSでの手続きの際に、事業主とその代理人を証明するために使うカードを指します。
紙のTIPは廃止され、IMSSの電子受信箱(Buzón IMSS)でデジタル版を作成する方式に変わりました。デジタル版では代理人を最大3名まで登録でき、電子ファイル(PDF形式)で出力できます。この合意は2026年9月8日に官報に掲載され、15日後の9月23日に施行されています(出所:DOF 2026年9月8日、合意 ACDO.AS2.HCT.310826/238.P.DIR)。
【Buzón IMSSとは】 Buzón IMSS(ブソン・イムス、IMSS電子受信箱)とは、IMSSから事業主への通知や書類がオンラインで届く専用の受信箱を指します。
保険料の算定案(EMA・EBA)がBuzón IMSSに届くようになりました
【EMA・EBAとは】 EMA(Emisión Mensual Anticipada、月次事前算定)とEBA(Emisión Bimestral Anticipada、隔月事前算定)とは、IMSSが事業主の届出内容を基に事前に計算し、事業主に提示する保険料などの算定案を指します。
2026年10月8日に官報に掲載された合意により、これらの算定案の様式(EMI-1、EMI-2)が、Buzón IMSSの「書類」欄で確認できるようになりました。施行日は掲載の翌日の10月9日です(出所:DOF 2026年10月8日、合意 ACDO.AS2.HCT.290926/280.P.DIR、第1項・第5項)。
注意していただきたいのは、この合意が、算定案を見れば保険料の計算と納付の義務が免除されるとは定めていない点です。算定案はあくまで参考資料であり、保険料を正しく計算して納付する責任は、引き続き事業主にあると考えられます。
よくある質問
Q1. e.firmaはどこで取得しますか。
e.firmaはIMSSではなくSAT(メキシコ税務庁)が発行します。会社のe.firmaと、法定代理人個人のe.firmaの両方を準備する必要があります(出所:同合意第1項・第2項)。
Q2. 法定代理人が交代した場合はどうすればよいですか。
IMSSのオンライン窓口(Escritorio Virtual)で、会社と新しい代理人の双方がe.firmaで署名して登録します。窓口での紙の手続きはできなくなりました(出所:同合意第2項)。
Q3. 紙の事業主証(TIP)はまだ使えますか。
使えません。2026年9月23日以降は、Buzón IMSSで作成するデジタル版が紙のTIPに代わっています(出所:DOF 2026年9月8日、合意 ACDO.AS2.HCT.310826/238.P.DIR)。
Q4. Buzón IMSSの算定案どおりに支払えば問題ありませんか。
算定案は参考資料であり、事業主の計算・納付の義務はなくなりません。従業員の異動や賃金変更の届出が反映されているか、自社の給与データと照らし合わせて確認することをおすすめします(出所:DOF 2026年10月8日、合意 ACDO.AS2.HCT.290926/280.P.DIR)。
まとめ
冒頭の「うちは大丈夫でしょうか」というご質問にお答えします。会社と法定代理人のe.firmaが有効で、Escritorio Virtualで代理人の登録が済んでいれば、10月中旬以降もIMSSの手続きを続けられます。どちらかが済んでいない場合は、今週中の対応が必要です。
IMSSの手続きは、e.firmaへの一本化、事業主証のデジタル化、算定案のオンライン受取と、3か月のあいだに大きく変わりました。今後もBuzón IMSSを通じた通知が増えると見込まれるため、受信箱を定期的に確認する担当者を社内で決めておくことをおすすめします。
e.firmaの準備、代理人の登録、IMSSへの届出について、ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
株式会社東京コンサルティングファーム メキシコ拠点 袖山