1.はじめに
7月19日、KPPU(インドネシア公正取引委員会)によって、PT. Yamaha Indonesia Motor ManufacturingとPT. Astra Honda Motorsの間で価格協定の疑いがあるという見解が新聞上で発表されました。この報道に驚いた人も多いかと思います
このように、インドネシアにおいても、近年ますますKPPUによる規制が強化されており、もはや大企業だけでなく、中小企業についてもその動向を注目する必要があります。さらに、2016年6月には独占禁止法が改正され、先進国で導入されているような数々の施策がインドネシアにおいても導入されています。
本稿では、まず近年の独占禁止法政策の動向を事例等で概観し、その後、改正後の主要な政策の一つであるLeniencyプログラムについて解説します。
2.ますます強まる独占禁止政策
インドネシアでは、近年KPPUによる独占禁止政策の強化がますます強化されています。特に、価格協定や、独占・寡占などは厳しい摘発の対象となっています。ただし、2010年までの動向を見ますに、KPPUによる摘発がなされたものの、最高裁にて棄却されたものは、実に3分の2にのぼると言われています。ただ、イメージ低下を避けるため、具体的にどのような場合に摘発されるのかを知ることは重要です。
例えば、一定の資産額を超過するようなM&Aを行った際には、30日以内に通知義務が課せられています。2012年12月11日には、株式買収後、当該通知義務を怠ったとして、PT. Mitra Pinasthika Mustikaに対し、KPPUにより46億ルピアの罰金が科せられています。
3.Leniencyプログラムとは
Leniencyプログラムとは、禁止されている価格協定を行っている企業が、自らそれを申し出ることによって、ペナルティの情状酌量を受けられる措置です。この制度は日本においてはすでに2005年に導入されています。インドネシアにおいても長年にわたり議論されてきましたが、2016年6月にようやく導入されました。
これは理論的にはどのようなバックグラウンドを持つのでしょうか。経済学の一分野であるゲーム理論には、「囚人のジレンマ」という考え方があります。詳細はここでは述べませんが、囚人のジレンマでは、情報の非対称性(他者と自分とで保有している情報量が異なること)が存在する中では、たとえ互いに結託した方が有利な状況下においても、互いに相手を裏切るインセンティブが働くというものです。
このことは、Leniencyプログラムを導入する上でも非常に示唆に富むものです。すなわち、企業間で共謀がなされているかどうかは、通常外部からは分かりにくいものです。ですから、互いに相手を出し抜くインセンティブを与えることが、結果的に双方に不利な状況、すなわち告発することを選ぶことになるのです。これがLeniencyプログラムの理論的背景です。
ただし、導入されて間もないため、まだインドネシアにおける先行事例はありません。しかし、間違いなく今後注目していく必要があると言えます。
PT.Tokyo Consulting
徳田 忠彦