皆さん、こんにちは。東京コンサルティングファーム タイ拠点の片山です!
はじめに
タイ現地法人の会社設立や株主変更、取締役変更についてご相談を受けていると、「書類にサインしてDBDへ持っていけば、その日に変更できますか?」
「日本にいる代表取締役のサインでも登記できますか?」
といったご質問をいただくことがあります。
これまでタイでは、会社登記についてオンライン化が段階的に進められてきました。
2026年7月1日からは、新たにパートナーシップや非公開株式会社を設立する場合、原則としてDBD Biz Registによるオンライン申請のみとなっています。
そして今回、さらに大きな変更があります。
タイ商務省事業開発局(Department of Business Development:DBD)は2026年9月30日、2026年11月1日から、パートナーシップおよび非公開株式会社に関する全種類の登記申請をDBD Biz Registによるオンライン申請へ一本化すると発表しました。
つまり、今後は会社設立だけではなく、既存会社の変更登記についても、「書類を作成してDBDの窓口へ持ち込む」という従来型の手続きから、オンラインを前提とした運用へ移行します。
特に、日本人取締役が署名権限を持っている会社や、日本本社側の担当者がタイ国外にいる企業では、本人確認や電子署名に時間を要する可能性があります。
今回は、2026年11月1日から始まるDBD会社登記の完全オンライン化について、日系企業が確認しておきたいポイントを実務目線で解説します。
本記事の結論
2026年11月1日から、タイのパートナーシップおよび非公開株式会社に関する全種類の会社登記申請は、原則としてDBD Biz Registを通じたオンライン手続きへ一本化されます。
新規会社設立についてはすでに2026年7月1日からオンラインのみとなっていますが、11月からは取締役・署名権限・会社情報等の変更を含む既存法人の登記についてもオンライン対応が基本となります。
特に日系企業では、日本人取締役や海外居住者の本人確認・署名手続きが必要となるケースがあるため、「決議書にサインした日=その日にDBD登記が完了する」とは限りません。
株主変更、取締役変更、増資、M&Aクロージングなど期限のある手続きについては、従来よりも早い段階でDBD Biz Registのアカウント・本人確認・必要書類を準備しておくことがポイントです。
DBD Biz Registとは?
DBD Biz Registとは、タイ商務省事業開発局が運営する法人登記のデジタルシステムです。
DBDのシステム上では、法人について、
- 申請書の提出
- 電子署名
- 手数料支払い
- 申請状況の確認
- 登記後の書類ダウンロード
などをオンラインで行うことができます。
DBDは、2026年11月以降、申請・変更・進捗確認から電子文書の受領までをオンラインで完結でき、システム自体は24時間365日利用可能と説明しています。
ただし、「24時間システムにアクセスできる」=「24時間いつでも登記が即時完了する」という意味ではありません。
提出した申請内容についてはDBD側の確認が行われるため、必要書類の不足や署名・本人確認に問題がある場合は修正が必要となります。
2026年11月1日から何が変わる?
今回のポイントは、オンライン化の対象が新規会社設立だけではなくなることです。
2026年7月1日以降は、新しいパートナーシップ・非公開株式会社の設立申請についてDBD Biz Registが唯一の申請ルートとなりました。
さらに2026年11月1日からは、既存法人についても全種類の登記申請がオンライン化されます。
実務上は、例えば、
- 取締役の就任・退任
- 取締役の署名権限変更
- 登録住所変更
- 資本金変更
- 事業目的変更
- 会社の解散
- 清算手続き
などについても、DBD Biz Registを使用することになります。
なお、今回の変更は会社法そのものの変更ではなく、DBDへの「申請方法」の変更です。
例えば、株主総会や取締役会で必要な決議、提出期限、会社法上の要件そのものが今回のオンライン化によってなくなるわけではありません。
なぜ今、完全オンライン化するのか?
DBDによると、すでに多くの企業がオンライン申請へ移行しています。
2026年8月時点では、新設法人のオンライン登録利用率は99.99%に達していました。
さらに2026年9月時点では、全種類の登記申請についても95.80%がすでにオンラインで処理されています。
つまり今回の変更は、利用率が十分高くなったことを受けて、残っていたWalk-in・紙申請を原則終了させるものと考えると分かりやすいでしょう。
DBDは今回のデジタル化について、
- 手続き時間の短縮
- 企業側の移動・書類コスト削減
- 本人確認の強化
- 文書偽造リスクの低減
- 行政手続きの透明性向上
などを目的としています。
日本人取締役がいる会社は何に注意する?
日系企業にとって、今回最も注意したいのが外国人取締役の署名・本人確認です。
オンライン申請になったとしても、取締役等による正式な署名が不要になるわけではありません。
Baker McKenzieの2026年10月1日付解説でも、一部の書類については引き続きAuthorized Directorによる署名が必要となり、電子署名または所定の方法による署名対応が必要とされています。
特に、「日本人Managing Directorが日本出張中」
「代表者が日本本社へ帰任している」
「複数の取締役による共同署名が必要」
というケースでは注意が必要です。
外国人取締役やタイ国外に居住している取締役が関係する場合、本人確認等の関係から同日中に登記を完了できない可能性もあるとされています。
そのため、「金曜日に株主総会をして、その日の午後に登記を終わらせたい」といった極端にタイトなスケジュールを前提にするのは避けた方が安全です。
M&A・株式譲渡ではなぜ重要?
今回の変更は、M&A実務にも影響します。
タイ企業の株式取得では、Closing Dateに、
- 株式譲渡
- 取締役辞任
- 新取締役就任
- 署名権限変更
- 銀行口座の署名権変更
といった複数の手続きを同時に進めるケースがあります。
従来は、Closing当日に署名済み書類を持ってDBDへ行き、そのまま変更登記を進めるというスケジュールを組む場合もありました。
しかし11月以降は、DBD登記についてオンライン手続きを前提にClosing Scheduleを組む必要があります。
特にCross-border M&Aでは、日本側の新任取締役がタイにいないケースも珍しくありません。
そのため、SPA上のClosingとDBD上の変更登記完了を必ず同じ時刻にできるとは限りません。
契約書を作成する段階で、「Closing時に何を完了条件とするのか」
「DBD FilingをClosing前後どちらで行うのか」
「登記完了まで誰が旧署名権を持つのか」
を整理することが、これまで以上に重要になります。
2026年8月からの外国人関係登記の厳格化とも連動
今回のオンライン化は、2026年に進んでいるDBDの会社登記厳格化とも無関係ではありません。
2026年8月1日からはDBD Order No. 2/2569が施行され、外国人株主や外国人署名権者が関係する一定の会社について、タイ人株主の出資や資金移動を確認する資料が追加されています。
例えば、一定の新規設立ではタイ人株主について出資前3か月間の銀行取引明細などが求められます。
11月以降は、こうした資料も含めてオンライン申請へ対応する必要があります。
つまり2026年のDBD改革は、「紙をオンラインに変える」だけではありません。
本人確認、資金源確認、データ照合を含め、会社登記自体をより透明化する方向へ進んでいると見ることができます。
オンラインになれば会社登記は簡単になる?
便利になる部分は多いと思います。
例えばDBDまで書類を持参する必要がなくなり、申請状況もオンラインで確認できます。
登記後の証明書等についても電子的に受け取れるため、特に地方拠点や海外本社とのやり取りではメリットがあります。
一方で、「担当者が書類を持って窓口へ行けば何とかなる」という運用は難しくなります。
オンライン申請では、
- ユーザー登録
- 本人確認
- 申請データ入力
- 証憑アップロード
- 署名
- 手数料支払い
という一連の準備が必要です。
そのため、初めてDBD Biz Registを使用する会社では、実際の登記が必要になってからアカウント設定を始めるのではなく、事前に使用環境を確認しておくことをおすすめします。
「11月1日の前に変更登記した方がよい?」
オンライン化そのものを理由に、不要な会社変更を急ぐ必要はありません。
むしろ大切なのは、今後予定している登記イベントを確認することです。
例えば、
- 日本人代表者の交代
- 増資
- 本店移転
- 新支店設立
- 株主構成変更
- 会社清算
- M&A
などが11月以降に予定されている場合、DBD Biz Registを前提としてスケジュールを作成しておく必要があります。
特に12月決算企業では、人事異動や組織変更を年末・年始に行うケースも多いため、11月以降の登記方式変更をHR・Legal・Finance間で共有しておいた方がよいでしょう。
FAQ
Q1. タイの会社登記はいつから完全オンラインになりますか?
DBDの2026年9月30日発表によると、2026年11月1日からパートナーシップおよび非公開株式会社に関する全種類の登記申請が原則DBD Biz Registへ一本化されます。新規会社設立については、すでに2026年7月1日からオンラインのみとなっています。
Q2. 取締役変更や住所変更もオンラインになりますか?
はい。11月1日以降は、既存法人の変更を含む全種類の登記申請がオンライン化されます。取締役・署名権限、登録住所、資本金、事業目的、解散・清算等もオンライン手続きの対象となります。
Q3. 日本人取締役が日本にいても登記できますか?
オンライン申請自体は可能なケースがありますが、取締役による署名や本人確認が必要となります。外国人取締役やタイ国外にいる取締役が関係する場合には、通常より時間がかかる可能性があり、同日完了を前提にしない方が安全です。
実務上のチェックポイント3選
① 11月になる前にDBD Biz Registの利用環境を確認する
まず、自社または手続担当者がDBD Biz Registを使用できる状態か確認しましょう。
特に日本人取締役が署名権者となっている場合には、実際の変更登記が発生する前に、本人確認・署名方法を確認しておくことをおすすめします。
② M&Aや代表者交代は「登記時間」をスケジュールに入れる
株式譲渡や代表者変更では、社内決議とDBD登記を別の作業として管理してください。
日本本社で「10月31日退任、11月1日新社長就任」と決めても、DBDの変更登記まで自動的に完了するわけではありません。
誰がいつ署名し、いつ申請し、登記完了まで誰が会社を代表するのかを事前に整理することが重要です。
③ 外国人が関係する変更では追加資料も同時に確認する
2026年8月以降、外国人株主・外国人署名権者が関係する一定の登記では追加確認が行われています。
DBD Biz Registの操作だけ準備しても、銀行明細やInvestment Confirmation等の必要証憑が揃っていなければ手続きは進みません。
オンライン対応と登記要件の確認をセットで行うことがポイントです。
まとめ
2026年11月1日から、タイの会社登記手続きは大きく変わります。
今回押さえておきたい数字は、次のとおりです。
- 新設会社のオンライン一本化:2026年7月1日
- 全種類の登記オンライン一本化:2026年11月1日
- 8月の新設法人オンライン利用率:99.99%
- 9月の全申請オンライン利用率:95.80%
- DBD Biz Regist利用可能時間:24時間365日
今回のオンライン化によって、会社登記の利便性は高まると考えられます。
一方、日系企業にとっては、「日本人取締役がどのように本人確認・署名するのか」
「日本にいる代表者の変更をどのタイミングで登記するのか」
「M&A ClosingとDBD変更登記をどう合わせるのか」
という実務面の管理がこれまで以上に重要になります。
会社登記は頻繁に発生する業務ではないため、一度設定した手続きを何年も見直していない企業も少なくありません。
11月以降に代表者変更、増資、住所変更、M&A、会社清算などを予定している企業は、実際の変更が発生する前にDBD Biz Registでの手続方法を確認しておくことをおすすめします。
東京コンサルティングファームのサポート
東京コンサルティングファームでは、タイにおける会社設立、取締役・署名権限変更、増資・減資、株主変更、支店登記、会社清算、外国人事業法(FBA)対応、BOI、クロスボーダーM&Aなど、日系企業の会社法務を幅広くサポートしています。
DBD Biz Registへの移行についても、「日本人取締役の変更を予定している」
「増資・株主変更を予定している」
「M&A Closing後のDBD手続きを整理したい」
「オンライン登記でどの資料が必要か確認したい」
といったご相談に対応しております。
タイ現地法人の登記・会社法務・M&Aについてお困りの点がございましたら、お気軽に東京コンサルティングファームまでお問い合わせください。
【免責事項】
本記事は、2026年10月7日時点で確認できるタイ商務省事業開発局(DBD)、タイ商務省および専門家公表情報等に基づき、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、法的助言を構成するものではありません。DBD Biz Registの具体的な利用方法、本人確認、必要書類、署名方法および例外的取扱いは、申請内容、取締役・株主の属性、当局運用等によって異なる場合があります。また、オンライン化は登記申請方法の変更であり、会社法その他の法令に定められた決議・届出・期限等が免除されるものではありません。実際に会社設立、取締役変更、株主変更、増資、M&A、解散・清算等を行う際には、最新のDBD運用および関連法令を確認したうえで、専門家へご相談ください。
制度確認用として、DBDの2026年9月30日公式発表、タイ商務省の公式発表、Baker McKenzieの2026年10月1日解説を参照できます。
株式会社東京コンサルティングファーム M&A事業部 兼 タイ拠点
片山 眞沙