皆さん、こんにちは。東京コンサルティングファーム タイ拠点の片山です。2026年9月11日、BOI Board(タイ投資委員会)が「BOI to IPO」と呼ばれる新制度を承認しました。本記事では、BOI認定企業がタイ証券取引所(SET)に上場する際に得られる追加の法人税優遇、New Economy企業に対する上場基準の緩和、そして日系企業の資本政策への影響について解説します。
タイでは従来、BOI(Board of Investment)による投資奨励とSET上場は別個の制度として運用されてきました。しかし今回のBOI to IPO制度により、両者が連動する新たな税制優遇の枠組みが誕生しました。BOI認定企業がSET、mai、またはLiVEx(Live Exchange)に上場した場合、既存のBOI恩典に加えて追加の法人税免除・減税を受けられる可能性があります。
結論
BOI to IPOは、BOI認定企業がタイ証券取引所に上場することで、追加の法人税免除を最大3年、50%減税を最大5年取得できる新制度です。特にNew Economy企業(10産業)に該当する場合、SET上場基準が大幅に緩和されます。日系企業にとっては、タイ子会社の資本政策・EXIT戦略を見直す契機となり得ます。
BOI to IPOとは
BOI to IPOとは、2026年9月11日にBOI Boardが承認した新制度で、BOI奨励企業がタイ証券取引所(SET・mai・LiVEx)に上場した場合に、既存のBOI恩典に加えて追加の法人税優遇を付与する枠組みです。
この制度の背景には、タイ政府がタイ資本市場の活性化と高付加価値産業の育成を同時に推進するという政策目的があります。BOIの投資奨励で誘致した企業を、さらにSET上場へと誘導することで、タイ経済全体の高度化を図る狙いがあります。
追加法人税優遇の内容
BOI to IPOによる追加の法人税優遇は、以下のとおりです。
| 優遇内容 | 期間 | 条件 |
| 追加法人税免除 | 最大3年 | BOI奨励企業がSET/mai/LiVExに上場 |
| 50%法人税減税 | 最大5年 | New Economy企業(10産業)に該当する場合 |
追加法人税免除の3年間は、既存のBOI恩典による法人税免除期間の終了後に開始されます。つまり、BOI恩典で8年間の法人税免除を受けている企業がIPOを実施した場合、合計で最大11年間の法人税免除を享受できる可能性があります。
さらに、New Economy企業に該当する場合は、法人税免除期間終了後に50%減税が最大5年間追加されます。
New Economy企業とは
BOI to IPOにおけるNew Economy企業とは、以下の10産業に該当する企業を指します。
- 次世代自動車(Next-Generation Automotive)
- スマートエレクトロニクス(Smart Electronics)
- 先進農業・バイオテクノロジー(Advanced Agriculture & Biotechnology)
- 食品加工(Food for the Future)
- 観光関連(High-Value Tourism & Medical Tourism)
- ロボティクス・オートメーション(Robotics & Automation)
- 航空・ロジスティクス(Aviation & Logistics)
- バイオ燃料・バイオケミカル(Biofuels & Biochemicals)
- デジタル産業(Digital Industry)
- 医療ハブ(Medical Hub)
これらの10産業は、タイ政府が推進する「Thailand 4.0」政策と連動しており、高付加価値・技術集約型の産業を優先的に支援する方針が反映されています。
SET上場基準の変更
BOI to IPOに伴い、SETはNew Economy企業向けの上場基準を緩和しています。主な変更点は、Market Cap基準の引き下げ、Track Record(業績要件)の短縮、売上構成比基準の新設です。
Market Cap基準の比較
従来のSET上場では、時価総額(Market Cap)基準として一定額以上が求められていました。New Economy企業向けの緩和では、この基準が引き下げられています。
| 市場 | 従来基準 | New Economy企業向け(緩和後) |
| SET | 75億バーツ以上 | 50億バーツ以上 |
| mai | 5億バーツ以上 | 3億バーツ以上 |
Market Cap基準の引き下げにより、従来はmaiにも上場が困難であった中規模のNew Economy企業がIPOを検討しやすくなっています。
Track Record短縮
従来、SET上場には原則として3年以上の営業実績(Track Record)が求められていました。New Economy企業向けの緩和では、この要件が2年以上に短縮されています。
これにより、BOI奨励を受けて操業を開始したばかりの企業でも、比較的早期にIPOを検討できる道が開かれました。ただし、Track Recordの短縮は営業実績年数の要件のみであり、財務健全性や内部統制の要件は引き続き適用されます。
売上30%基準
BOI to IPOでは、New Economy企業のSET上場要件として、BOI奨励事業からの売上がタイ国内売上の30%以上を占めることが条件の一つとなっています。
この基準は、BOI奨励を受けているものの実際の事業の中心がBOI奨励対象外である企業が、BOI to IPOの恩典を利用することを防ぐための要件です。
日系企業との関係
BOI to IPOは、タイに進出している日系企業にとって以下の観点で関連します。
- タイ子会社の資本政策の選択肢拡大:これまでタイ子会社のEXIT手段はM&A(売却)が中心でしたが、IPOという選択肢が現実味を帯びます
- JV(合弁)パートナーとの関係:タイ側JVパートナーがIPOを検討する場合、日系企業側の持分構成や株主間契約の見直しが必要になる可能性があります
- 追加税制優遇の活用:既にBOI恩典を受けているタイ子会社がIPOを実施すれば、法人税免除期間の延長による税負担の軽減が期待できます
- Pillar Twoとの関係:BOI to IPOによる追加法人税免除がGloBE ETR(実効税率)に影響を与える可能性があり、グループ全体の国際税務戦略との整合性を確認する必要があります
M&Aとの関係
BOI to IPO制度は、タイにおけるM&A市場にも影響を与えます。
従来、BOI奨励企業の売却(M&A)にあたっては、BOI恩典の承継可否が重要な論点でした。買収者がBOI恩典を引き継げるかどうかにより、取引価値が大きく変わるためです。
BOI to IPOの導入により、BOI企業にとってIPOがEXITの選択肢に加わるため、M&Aにおける売り手側の交渉力が強化される可能性があります。また、IPO前の段階でのプレIPO投資(戦略的投資・PE投資)の動きも活発化が予想されます。
IPO前の注意点
BOI to IPOの恩典を活用してIPOを検討する際には、以下の点に注意が必要です。
- BOI恩典の残存期間:追加法人税免除は既存恩典の終了後に開始されるため、残存期間の確認が必要
- 株主構成の整理:外国人持株比率、少数株主持分の確保など、SET上場要件に適合する株主構成への整理
- 内部統制・コーポレートガバナンス:SET上場企業として求められる内部統制体制、独立取締役の選任、監査委員会の設置等
- 関連当事者間取引の整理:日本親会社との取引条件が市場条件(Arm's Length)であることの確認・開示
- 財務諸表の監査:タイ公認会計士によるTFRS(タイ財務報告基準)に基づく監査済み財務諸表の準備
よくある質問(FAQ)
Q1.既にBOI恩典の法人税免除期間が終了している企業でも、BOI to IPOの追加恩典は受けられますか?
BOI to IPOの詳細な適用条件は今後の省令・告示で明確化される見込みですが、原則として、BOI奨励証書を保有しBOI認定事業を継続している企業が対象となります。法人税免除期間が終了していても、BOI奨励証書が有効であれば適用対象となる可能性がありますが、個別の確認が必要です。
Q2.日系企業100%出資のタイ子会社でもSET上場は可能ですか?
SETに上場するためには、一定割合の株式を公募(Public Offering)する必要があり、上場後は少数株主の存在が前提となります。100%出資のままIPOすることはできませんが、IPOの過程で一部株式を公募することで上場要件を満たすことは可能です。親会社の持分比率や支配権の維持については、事前に慎重な検討が必要です。
Q3.BOI to IPOの追加恩典とPillar Two(グローバル・ミニマム課税)は両立しますか?
BOI to IPOによる追加法人税免除は、GloBEルール上の実効税率(GloBE ETR)を引き下げる要因となり得ます。連結売上高7.5億ユーロ以上のグループに属する場合、追加免除によりGloBE ETRが15%を下回れば、Domestic Top-up Tax(DTT)が発生する可能性があります。BOI to IPOの恩典活用を検討する際には、Pillar Twoの影響を併せて試算することが重要です。
チェックポイント3選
1. BOI奨励証書の内容と残存期間を確認する
BOI to IPOの追加恩典を受けるためには、BOI奨励証書が有効であることが前提です。奨励証書の対象事業、法人税免除の残存期間、条件(投資額、雇用人数等)の充足状況を確認してください。
2. New Economy企業(10産業)への該当性を確認する
自社のBOI奨励事業がNew Economy企業の10産業に該当するかどうかにより、受けられる恩典の範囲(50%減税5年の追加有無)やSET上場基準の緩和適用が変わります。
3. Pillar Twoとの影響を試算する
BOI to IPOの追加法人税免除がGloBE ETRに与える影響を試算し、グループ全体の国際税務戦略との整合性を確認してください。特に、既にBOI恩典によりGloBE ETRが15%を下回っている場合、追加免除のメリットがDTTにより相殺される可能性があります。
まとめ
BOI to IPOは、BOI奨励企業のSET上場を促進する新制度であり、日系企業にとっては以下のポイントが重要です。
- BOI奨励企業がSET/mai/LiVExに上場すると追加法人税免除最大3年
- New Economy企業(10産業)はさらに50%減税最大5年
- SET上場基準が緩和:Market Cap引き下げ、Track Record短縮
- タイ子会社のEXIT戦略・資本政策の選択肢が拡大
- M&A市場への波及効果(売り手交渉力強化、プレIPO投資活発化)
- Pillar Twoとの整合性確認が不可欠
BOI to IPOの詳細な適用条件は、今後の省令・告示で明確化される見込みです。制度の動向を注視しつつ、タイ子会社の資本政策を見直す好機として検討することをお勧めします。
東京コンサルティングファームのサポート
東京コンサルティングファームでは、タイにおけるBOI申請・管理、M&A、税務、法務、会計を含め、日系企業の現地法人運営をサポートしています。
BOI to IPOについても、「自社のBOI奨励証書がBOI to IPOの対象になるか確認したい」「IPOの実現可能性を検討したい」「Pillar Twoへの影響を試算したい」といったご相談に対応しております。
タイ現地法人のBOI・資本政策・M&A対応についてお困りの点がございましたら、お気軽に東京コンサルティングファームまでお問い合わせください。
【免責事項】
本記事は、2026年9月24日時点で確認できるタイの法令、BOI公表情報、SET規則等に基づき、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、税務・法的助言を構成するものではありません。BOI to IPOの適用条件、追加恩典の詳細、SET上場基準の緩和内容は、今後の省令・告示により変更される可能性があります。具体的な判断を行う際には、最新の法令および規則を確認のうえ、専門家へご相談ください。
株式会社東京コンサルティングファーム タイ拠点
片山