皆さん、こんにちは。東京コンサルティングファーム タイ拠点の片山です!
タイ現地法人の税務についてご相談を受けていると、Pillar Two(グローバル・ミニマム課税)については「日本本社側の問題であり、タイ子会社では特に対応不要」と考えている企業が少なくありません。
しかし、タイでは2024年12月にTop-up Tax Emergency Decreeが公布され、2025年1月1日以後に開始する事業年度からPillar Twoが適用されています。タイ法人側でも申告義務が発生するケースがあり、初回申告期限は12月決算企業で2027年6月30日と迫ってきています。
今回は、Pillar Twoとは何か、どの企業が対象になるのか、タイではどのような申告が必要なのか、BOI企業への影響、そして2026年中に準備すべきポイントについて、タイ日系企業の実務目線で整理します。
本記事の結論
Pillar Two(グローバル・ミニマム課税)は、多国籍企業グループの各国における実効税率が15%を下回る場合に、差額分の追加税を課す国際的な課税の枠組みです。
連結売上高7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループが対象となり、タイでは2025年1月1日以後に開始する事業年度から適用されています。
12月決算企業の場合、初年度は18か月の延長措置が適用されるため、初回申告期限は2027年6月30日となります。
Pillar Twoとは?
Pillar Two(第2の柱)とは、OECD/G20が主導する国際課税改革の一環として導入されたグローバル・ミニマム課税の枠組みです。正式にはGloBE Rules(Global Anti-Base Erosion Rules)と呼ばれます。
従来、各国は法人税率を引き下げることで外国企業の投資を誘致してきましたが、この「底辺への競争」を抑制するため、多国籍企業グループの各国における実効税率が最低15%となるよう設計されています。
タイの法人税率は原則20%ですが、BOI(タイ投資委員会)の投資奨励制度による法人税免除や減税を受けている企業では、GloBEルール上の実効税率が15%を下回る可能性があります。そのため、「タイの法人税率は20%だから関係ない」とは一概に言えません。
どの企業が対象になる?
Pillar Twoの対象となるのは、直前4事業年度のうち2事業年度以上で連結売上高が7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループ(MNE Group)です。
例えば、12月決算企業の場合、2025年1月1日開始事業年度について判定する際は、2021年度~2024年度の4事業年度のうち2事業年度以上で連結売上高が7.5億ユーロ以上であれば対象となります。
ここでのポイントは以下のとおりです。
- 7.5億ユーロは連結ベースの売上高であり、タイ法人単体の売上高ではありません
- タイに所在する子会社、支店、JV(ジョイント・ベンチャー)も対象に含まれ得ます
- 日本親会社がグローバルで7.5億ユーロ以上であれば、タイ子会社にも申告義務が発生する可能性があります
したがって、タイ法人単体の規模が小さくても、親会社グループ全体の連結売上高で判定される点に注意が必要です。
15%はどのように判定する?
GloBEルール上の実効税率(GloBE ETR)は、以下の算式で計算されます。
GloBE ETR = Adjusted Covered Taxes(調整対象租税)÷ GloBE Income(GloBE所得)
この計算は各国ごとに行われます。例えば、タイに所在するグループ企業全体で、
- GloBE所得:1億バーツ
- Adjusted Covered Taxes:1,200万バーツ
の場合、GloBE ETR = 1,200万 ÷ 1億 = 12% となり、最低税率15%を下回ります。
この場合、15%との差額である3%分に相当する追加税(Top-up Tax)が発生します。ただし、Substance-based Income Exclusion(実質的活動に基づく所得控除)によって課税ベースが縮小される場合もあります。
タイでは3つの追加税ルールが導入されている
タイのTop-up Tax Emergency Decreeでは、以下の3つのルールが導入されています。
① Domestic Top-up Tax(DTT)
タイ国内のGloBE ETRが15%を下回る場合、タイ自身がその差額分を追加税として課税するルールです。DTTが導入されていることにより、他国(例えば日本の親会社所在国)ではなく、タイが追加税の課税権を確保しています。
② Income Inclusion Rule(IIR)
親会社の所在国が、低課税国に所在する子会社等について追加税を課すルールです。日本の親会社から見た場合、タイ子会社のGloBE ETRが15%未満であれば、日本側でIIRに基づく追加税が課される可能性がありますが、タイがDTTを導入していれば、タイ側で先に課税されるため、日本側のIIRでの追加課税は通常調整されます。
③ Undertaxed Profits Rule(UTPR)
IIRが適用されないケースにおいて、他のグループ企業の所在国が追加税を課すバックストップルールです。
タイ法人にはどのような申告が必要?
対象となるタイ法人には、以下の申告義務が発生します。
① Pillar Two Notification
対象企業であること、および申告義務の有無等をタイ歳入局へ届け出る通知です。
② GloBE Information Return(GIR)
GloBEルールに基づく詳細な情報申告です。各国ごとの実効税率計算、Top-up Tax額、Substance-based Income Exclusionの適用状況等を報告します。GIRは親会社が一括で提出する場合もありますが、タイ法人が個別に提出義務を負うケースもあります。
③ Top-up Tax Return
DTTに基づく追加税が発生する場合、その税額の申告・納付を行います。
申告期限はいつ?
GIRおよびTop-up Tax Returnの申告期限は、原則として事業年度終了後15か月以内です。
ただし、初年度(Transition Year)については18か月の延長措置が適用されます。
12月決算企業の場合、初年度の事業年度は2025年1月1日~2025年12月31日であり、
2025年12月31日 + 18か月 = 2027年6月30日
が初回申告期限となります。
申告漏れや誤りにはどのようなペナルティがある?
タイのTop-up Tax Emergency Decreeでは、以下のペナルティが規定されています。
| 項目 | ペナルティ |
|---|---|
| 誤申告(過少申告等) | 追加税額の100% |
| 無申告 | 追加税額の200% |
| Surcharge(延滞) | 月1.5% |
| Notification未提出 | 20万バーツ以下の罰金 |
特に無申告の場合は200%のペナルティが課されるため、対象かどうかの判断を先送りにすること自体がリスクとなります。
タイ法人側では2026年中に何を準備すべき?
タイ法人側で2026年中に着手すべき実務項目は、大きく分けて以下の2つです。
本社への確認事項
- グループ全体の連結売上高が7.5億ユーロ以上に該当するか
- 日本本社側でGIRを一括提出する予定か、タイ法人が個別に提出する必要があるか
- GloBE ETR計算に必要なデータの提供スケジュール
- Safe Harbour(簡易判定)の適用可否
タイ法人側で準備すべきデータ
- タイ法人の財務諸表(GloBE所得計算用)
- 法人税申告書および実際の納税額(Adjusted Covered Taxes計算用)
- BOI奨励証書および法人税免除・減税の詳細
- 繰延税金資産・負債の明細
- 関連当事者間取引の明細
初回申告期限が2027年6月30日であることを考えると、2026年中にデータの整理と本社との役割分担を確定させておくことが重要です。
BOI企業も関係する?
はい、BOI(タイ投資委員会)の投資奨励を受けている企業は特に注意が必要です。
BOIの奨励措置には法人税の免除(最大8年間)や50%減税が含まれますが、これらの恩典を受けている期間中は、タイにおけるGloBE ETRが15%を大幅に下回る可能性があります。
その結果、DTTに基づく追加税が発生し、BOIの恩典による実質的な税負担軽減効果が縮小する可能性があります。
BOI企業では、GloBE ETR計算においてBOI奨励事業とBOI非奨励事業の区分、繰延税金の取扱い等を正確に整理する必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1.タイの法人税率は20%ですが、それでもPillar Twoの対象になりますか?
はい、なり得ます。タイの法定税率は20%ですが、BOIの法人税免除・減税を受けている場合や、GloBEルール上の調整計算(Adjusted Covered Taxes、GloBE Income)を行った結果、実効税率が15%を下回るケースがあります。法定税率だけで判断することはできません。
Q2.タイ法人の売上高が7.5億ユーロに満たなくても対象になりますか?
はい、なり得ます。7.5億ユーロの基準はグループ全体の連結売上高で判定されます。日本の親会社を含むグループ全体で基準を満たしていれば、タイ法人単体の売上高が小さくても対象となります。
Q3.GIRは日本本社が提出すれば、タイ法人は何もしなくてよいですか?
必ずしもそうではありません。GIRは親会社が一括提出する仕組みがありますが、タイ歳入局へのPillar Two NotificationやDTTに基づくTop-up Tax Returnは、タイ法人側で対応が必要となる場合があります。本社との役割分担を事前に確認しておくことが重要です。
実務上のチェックポイント3選
① 本社に連結売上高と対応方針を確認する
まず日本本社に対し、グループ全体の連結売上高が7.5億ユーロ基準に該当するかを確認します。該当する場合、GIRの提出主体、データ提供のスケジュール、Safe Harbourの適用方針について、本社の国際税務チームと早期に協議を開始することが重要です。
② GloBE ETR計算に必要なデータを整理する
タイ法人側では、財務諸表、法人税申告データ、BOI関連の税務データ、繰延税金の明細等をGloBE計算用に整理しておく必要があります。通常の税務申告用データだけでは不足するケースが多いため、追加で必要となる情報を早めに特定しておきましょう。
③ 申告期限を月次業務カレンダーに組み込む
初回申告期限は2027年6月30日です。Notification、GIR、Top-up Tax Returnそれぞれの期限と担当者を明確にし、既存の税務申告カレンダー(PND.50、PND.51等)と併せて管理することで、申告漏れのリスクを低減できます。
まとめ
Pillar Two(グローバル・ミニマム課税)は、「日本本社側の問題」ではなく、タイ法人にも申告義務が発生し得る制度です。今回押さえておきたいポイントは、
- 対象:連結売上高7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループ
- 最低税率:15%(GloBE ETR)
- タイでの適用開始:2025年1月1日以後開始事業年度
- タイが導入した追加税ルール:DTT、IIR、UTPR
- 申告義務:Notification、GIR、Top-up Tax Return
- 初回申告期限(12月決算):2027年6月30日(18か月延長)
- 無申告ペナルティ:追加税額の200%
です。
特にBOIの投資奨励を受けている企業では、法人税免除・減税によりGloBE ETRが15%を下回る可能性があり、追加税の影響を受けるリスクがあります。
2027年6月30日の初回申告期限に向けて、2026年中に本社との役割分担を確定し、必要なデータの整理を進めることが最も実務的な対応です。
東京コンサルティングファームのサポート
東京コンサルティングファームでは、タイにおける法人税申告、移転価格、国際税務、BOI関連の税務対応を含め、日系企業の現地法人運営をサポートしています。
Pillar Twoについても、「自社グループが対象になるか確認したい」「GloBE ETR計算に必要なデータを整理したい」「タイ歳入局へのNotificationやTop-up Tax Returnの対応を相談したい」といったご相談に対応しております。
タイ現地法人の国際税務・Pillar Two対応についてお困りの点がございましたら、お気軽に東京コンサルティングファームまでお問い合わせください。
【免責事項】
本記事は、2026年9月16日時点で確認できるタイの法令、タイ歳入局公表情報および国際税務情報等に基づき、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、税務・法的助言を構成するものではありません。Pillar Twoの適用判定、GloBE ETR、Top-up Tax、Safe Harbour、GIRその他の申告義務は、企業グループの構成、連結売上高、各国の税制、会計データ等によって異なります。具体的な申告・税務判断を行う際には、最新の法令およびタイ歳入局の運用を確認したうえで、専門家へご相談ください。
株式会社東京コンサルティングファーム タイ拠点
片山