皆さん、こんにちは。東京コンサルティングファーム タイ拠点の高嶋です。
タイでは2025年12月7日にLabour Protection Act (No. 9)(労働者保護法第9号)が施行され、出産・育児関連の休暇制度が大幅に拡充されました。日系企業の現地法人においても、就業規則や給与計算の見直しが急務となっています。
本記事では、2026年時点の最新運用をふまえ、改正の概要、文書化義務、日系企業が特に注意すべきポイントをまとめます。
2026年のタイ労働法:押さえたい最新改正
Labour Protection Act (No. 9) による主な改正点は以下のとおりです。
| 項目 | 従来 | 改正後 | 企業実務への影響 |
|---|---|---|---|
| 出産休暇 | 98日 | 120日 | 休暇管理・給与計算の更新 |
| 出産休暇中の賃金 | 最大45日 | 最大60日 | 給与計算・人件費への影響 |
| 新生児の健康上の事情による追加休暇 | ― | 最大15日・賃金50% | 証明書類と記録の管理 |
| 配偶者の出産に伴う休暇 | ― | 最大15日・賃金100% | 申請・給与処理の更新 |
これらの改正により、出産・育児に関する休暇日数が大幅に増加し、男性従業員にも配偶者出産休暇が新設されました。企業としては、就業規則の改定、給与計算システムの更新、社内周知が必要です。
労働時間・休憩などの基本ルールも再確認
休暇制度の改正に合わせ、タイの労働時間に関する基本ルールも改めて確認しておきましょう。
- 通常労働時間は原則1日8時間以内、週48時間以内です。危険業務については1日7時間以内・週42時間以内とされています。
- 1日1時間以上の休憩を付与する義務があります。連続5時間を超えて労働させることはできません。
- 日本本社の就業規則をそのまま適用しないことが重要です。日本の労働基準法とタイの労働者保護法では、労働時間の上限、残業の計算方法、休日の定義が異なります。現地法に準拠した就業規則を整備してください。
文書化・記録管理で注意すべきポイント
タイの労働法では、各種書類の作成・保管が義務付けられています。労働当局の調査や労働紛争に備え、以下の書類を適切に管理しましょう。
- 雇用契約書(タイ語版を整備し、署名済みの原本を保管)
- 就業規則(従業員10名以上の事業所では労働当局への届出が必要)
- 出退勤記録(日々の労働時間・残業時間を正確に記録)
- 給与明細(控除項目を含め、従業員へ書面交付)
- 休暇申請・承認記録(出産休暇・配偶者休暇を含む)
- 診断書・医療証明書(新生児の健康上の事情による追加休暇等)
- 退職・解雇記録(解雇通知書、退職届、退職金計算書)
- 労働当局への届出書類(就業規則届出、各種変更届)
日系企業が特に注意したい5つのポイント
① 就業規則・休暇規程の更新
Labour Protection Act (No. 9) の施行に伴い、就業規則の休暇規程を改正後の内容に合わせて更新する必要があります。出産休暇の日数(120日)、配偶者出産休暇(最大15日)など、新たな制度を明記してください。就業規則の変更後は、労働当局への届出も忘れずに行いましょう。
② 給与計算との連動
出産休暇中の有給日数が最大60日に拡大されたことに伴い、給与計算システムの設定を見直す必要があります。また、新生児の健康上の事情による追加休暇(賃金50%)、配偶者出産休暇(賃金100%)についても、給与計算への反映が必要です。社会保険からの給付との調整にも注意してください。
③ 勤怠記録の整合性
休暇取得の記録と出退勤データの整合性を確保してください。特に出産休暇は長期間にわたるため、休暇開始日・終了日・復帰日を正確に記録し、給与計算との連動を確認しましょう。勤怠管理システムに新しい休暇区分を追加することも検討してください。
④ 解雇・退職時の証拠管理
タイでは不当解雇の訴訟リスクが高く、解雇理由の立証責任は使用者側にあります。日頃から人事評価記録、警告書、始末書などの書類を整備し、解雇に至るプロセスを文書化しておくことが重要です。特に、出産休暇中や出産休暇取得を理由とする解雇は厳しく禁止されています。
⑤ 日本本社との制度差
日本の育児・介護休業法とタイの労働者保護法では、休暇日数、有給・無給の扱い、対象者の範囲が異なります。日本本社の人事制度をそのままタイに適用することはできません。タイ現地法に準拠した制度設計が必要です。本社への報告時には、両国の制度差を整理したうえで説明しましょう。
労働法改正のメリット・デメリット
| 観点 | メリット | デメリット・負担 |
|---|---|---|
| 従業員の定着・採用 | 休暇制度の充実により、優秀な人材の確保・定着率向上が期待できる | ― |
| 企業コンプライアンス | 法令遵守により、労働紛争リスクや行政処分リスクを低減 | 就業規則改定・届出の事務負担が発生 |
| 人件費 | ― | 有給休暇日数の増加に伴い、人件費が増加する可能性がある |
| 業務体制 | 休暇取得を前提とした業務分担の見直しにより、組織の柔軟性が高まる | 長期休暇中の代替要員確保が必要 |
| 記録管理 | 文書化の徹底により、労務管理の透明性が向上 | 書類作成・保管の工数が増加 |
2026年に行いたい実務チェックリスト
- 就業規則の休暇規程を改正内容に合わせて更新する
- 更新した就業規則を労働当局へ届出する
- 給与計算システムに新しい休暇区分と賃金計算ロジックを設定する
- 勤怠管理システムに出産休暇・配偶者出産休暇・追加休暇の区分を追加する
- 従業員向けに改正内容の説明会を実施する(タイ語資料を準備)
- 休暇申請フォーム・承認フローを見直す
- 診断書・医療証明書の提出ルールを明確化する
- 解雇・退職時の書類テンプレートを最新法令に合わせて更新する
- 日本本社の人事部門に改正内容と制度差を報告する
- 顧問弁護士または専門家に就業規則のレビューを依頼する
よくある質問(FAQ)
Q1.出産休暇120日はいつから適用されますか?
Labour Protection Act (No. 9) は2025年12月7日に施行されています。施行日以降に出産休暇を取得する従業員には、改正後の120日が適用されます。
Q2.配偶者出産休暇は男性従業員のみが対象ですか?
法令上は「配偶者の出産に伴う休暇」として規定されており、性別を限定していません。ただし、実務上は主に男性従業員が取得するケースが多くなります。就業規則には法令の規定に沿った記載をしてください。
Q3.出産休暇中の賃金は会社が全額負担するのですか?
会社は最大60日分の賃金を支払います。残りの期間については、社会保険(Social Security Fund)からの出産給付金が支給されます。社会保険からの給付額と会社負担額の調整については、給与計算時に確認が必要です。
Q4.就業規則を更新しないとどうなりますか?
法令は就業規則の記載にかかわらず適用されますので、就業規則を更新していなくても改正後の休暇日数を付与する義務があります。ただし、就業規則と実態の不一致は、労働当局の調査時や労働紛争時に不利に働く可能性があるため、速やかに更新することをおすすめします。
まとめ
2025年12月施行のLabour Protection Act (No. 9) により、タイの出産・育児関連休暇制度は大きく変わりました。日系企業が押さえるべきポイントは以下のとおりです。
- 出産休暇が98日から120日に拡大
- 出産休暇中の有給日数が最大45日から最大60日に増加
- 新生児の健康上の事情による追加休暇(最大15日・賃金50%)が新設
- 配偶者出産休暇(最大15日・賃金100%)が新設
- 就業規則の更新、給与計算の見直し、文書化の徹底が必要
改正から約10か月が経過した2026年時点でも、就業規則の更新が完了していない企業は少なくありません。まだ対応がお済みでない場合は、早急に確認・更新されることをおすすめします。
東京コンサルティングファームのサポート
東京コンサルティングファームでは、タイにおける人事・労務制度の整備、就業規則の作成・改定、給与計算、社会保険手続きなど、日系企業の現地法人運営を幅広くサポートしています。
今回の労働法改正への対応についても、「就業規則をどのように改定すればよいか」「給与計算をどう見直せばよいか」「本社への説明資料を作りたい」といったご相談に対応しております。
タイ現地法人の労務管理についてお困りの点がございましたら、お気軽に東京コンサルティングファームまでお問い合わせください。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件への法的助言ではありません。実際の対応では最新の法令、官報、当局運用および個別の雇用契約等をご確認ください。
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