皆さん、こんにちは!東京コンサルティングファーム タイ拠点の片山です!

タイ現地法人の給与計算や労務対応についてご相談を受けていると、個人所得税や社会保険については毎月処理しているため、「毎月同じ計算だから特に変更はない」と考えられがちです。

しかし、2026年からタイの社会保険制度では、従業員と会社が負担するSocial Security Fund(SSF)の計算上限が約30年ぶりに引き上げられました。

2025年12月12日にタイ労働省の新しい省令が公布され、2026年1月1日からSection 33の被保険者について、社会保険料計算上の月額賃金上限が従来の15,000バーツから17,500バーツへ引き上げられています。これに伴い、従業員と会社の最大月額負担額も、それぞれ750バーツから875バーツへ増加しました。

さらに今回の変更は一度だけではありません。2029年、2032年にも段階的に賃金上限が引き上げられることがすでに定められています。

今回は、2026年時点で日系企業が押さえておきたいタイ社会保険料の新しい計算方法、会社側のコストへの影響、給与計算で間違いやすいポイントについて解説します。

本記事の結論

2026年1月1日から、タイ社会保険制度のSection 33における保険料計算上の月額賃金上限は、従来の15,000バーツから17,500バーツへ引き上げられました。

社会保険料率は原則として従業員・会社それぞれ5%であるため、最大月額拠出額は750バーツから875バーツへ増加しています。

また、賃金上限は、

  • 2026~2028年:17,500バーツ
  • 2029~2031年:20,000バーツ
  • 2032年以降:23,000バーツ

と段階的に引き上げられます。したがって、企業側では2026年のPayroll設定だけではなく、2029年・2032年の人件費増加まで含めて中長期的に管理しておくことが実務上のポイントです。

タイのSocial Security Fund(SSF)とは?

Social Security Fundとは、タイの社会保障制度に基づき、従業員、使用者および政府が拠出する社会保険制度です。会社員の多くはSocial Security Act上のSection 33の被保険者として加入し、給与から社会保険料が控除されます。

Section 33では、従業員と会社がそれぞれ原則として賃金の5%を負担します。ただし、実際の給与全額に対して5%を計算するわけではありません。社会保険料の計算には「賃金上限」が設定されています。

2026年1月1日以降、その上限が月額17,500バーツとなっています。現在のPwC Thailandの税務情報でも、従業員の社会保険料は5%、最大875バーツと整理されています。

2026年から何が変わった?

今回の変更で最も重要なのは、保険料率そのものではなく、計算対象となる賃金上限が変わったという点です。

2025年までの上限は15,000バーツでした。したがって、月給が30,000バーツでも50,000バーツでも、社会保険料の最大計算額は、

15,000バーツ × 5% = 750バーツ

でした。しかし、2026年1月1日以降は賃金上限が17,500バーツへ引き上げられています。そのため、

17,500バーツ × 5% = 875バーツ

が現在の最大月額拠出額となります。つまり、月給17,500バーツ以上の従業員については、

  • 従業員負担:月125バーツ増加
  • 会社負担:月125バーツ増加

となっています。

社会保険料の新しい上限を一覧で確認

今回の制度変更では、将来の引き上げスケジュールまで決められています。

期間賃金上限従業員最大負担会社最大負担
2025年まで15,000バーツ750バーツ750バーツ
2026年1月~2028年12月17,500バーツ875バーツ875バーツ
2029年1月~2031年12月20,000バーツ1,000バーツ1,000バーツ
2032年1月以降23,000バーツ1,150バーツ1,150バーツ

この段階的引き上げは、Section 33の社会保険料計算についてすでに定められています。2025年までと2032年以降を比較すると、会社側の最大負担は1人あたり月750バーツから1,150バーツとなり、月400バーツ増加することになります。従業員数が多い企業ほど、将来の人件費予算への影響も大きくなります。

月給30,000バーツ・16,000バーツの場合はいくら?

月給30,000バーツの場合

例えば、月給30,000バーツの従業員がいるとします。2025年までは、

15,000バーツ × 5% = 750バーツ

が従業員負担額でした。会社も同額の750バーツを負担します。2026年からは、

17,500バーツ × 5% = 875バーツ

となります。したがって、

  • 従業員:875バーツ
  • 会社:875バーツ
  • 合計:1,750バーツ

が毎月Social Security Fundへ拠出されることになります。給与が30,000バーツでも100,000バーツでも、現在の計算上限は17,500バーツであるため、原則として最大拠出額は875バーツです。

月給16,000バーツの場合

月給が17,500バーツ未満の場合には、実際の賃金を基準として計算します。例えば月給16,000バーツの場合、

16,000バーツ × 5% = 800バーツ

となります。2025年までは賃金上限が15,000バーツだったため、同じ16,000バーツの給与でも最大750バーツでした。

つまり、今回の変更は高所得者だけではなく、月給15,000バーツを超える従業員全体に影響することになります。

従業員100名なら会社負担はいくら増える?

日系企業の経営管理という観点では、1人あたり125バーツではなく、会社全体でどの程度人件費が増えるかを見る必要があります。例えば、社会保険料が上限まで適用される従業員が100名いる会社の場合、1人あたりの会社負担増加額は、

875-750 = 125バーツ

100名では、

125バーツ × 100名 = 月12,500バーツ

となります。年間では、

12,500バーツ × 12か月 = 150,000バーツ

です。従業員500名であれば、単純計算で年間750,000バーツの追加会社負担となります。そのため、工場や小売業など従業員数の多い会社では、社会保険料の変更を人件費予算へ反映しておく必要があります。

最低賃金ベースと社会保障給付への影響

最低賃金ベースも確認が必要

今回の省令では、Section 33の社会保険料計算について、上限だけではなく最低計算基礎額1,650バーツも定められています。したがって、社会保険料を計算する際には、「5%」だけを設定するのではなく、

  • 最低計算基礎額
  • 実際の賃金
  • 最大計算基礎額

の3つを踏まえてPayrollシステムを設定する必要があります。通常の正社員では最低基礎額が問題になるケースは多くないかもしれませんが、月途中入社、休職、無給期間など特殊なPayroll処理が発生する場合には、個別確認が必要になることがあります。

会社負担が増えるだけではない―社会保障給付にも影響

今回の賃金上限引き上げは、会社と従業員の負担増だけを目的としたものではありません。Tilleke & Gibbinsの解説では、保険料計算上の賃金上限が引き上げられることに伴い、被保険者が受けられる社会保障給付の最大額についても増加すると説明されています。

つまり、「社会保険料が125バーツ高くなった」という給与控除だけを従業員へ説明すると、単純な負担増と受け取られる可能性があります。HR担当者から従業員へ案内する場合には、

  • 社会保険料計算上限の変更であること
  • 制度上の保障にも関連する変更であること

をあわせて説明すると理解されやすいでしょう。

Payrollでは何を確認すればよい?

2026年1月からすでに施行されているため、現在ではPayrollシステムが正しく更新されているかを改めて確認する段階です。特に、給与計算をExcelで管理している企業や、独自のPayrollシステムを使用している企業では、「最大750バーツ」という旧設定が残っていないかを確認してください。例えば計算式が、

MIN(Salary × 5%, 750)

となっている場合、2026年からは誤りです。現在は、

MIN(Salary × 5%, 875)

となるよう変更する必要があります。もちろん、実際の給与計算では加入状況や賃金の定義等も踏まえる必要がありますので、単純な数式だけで全ケースを処理できるとは限りません。

社会保険料の納付期限はいつ?

使用者は、従業員給与から社会保険料を控除し、会社負担分と合わせてSocial Security Fundへ納付します。通常、社会保険料は対象月の翌月15日までに納付する必要があります。納付が遅れた場合には、未納額について月2%の追加負担が生じるとされています。

例えば、1月給与に係る社会保険料であれば、原則として2月15日までに納付するという流れです。Payroll担当者だけで計算を完了しても、Finance側で納付が漏れてしまえばコンプライアンス上の問題となります。そのため、

  1. 給与計算
  2. 社内承認
  3. 納付データ作成
  4. 翌月15日までの納付

までを一連の月次フローとして管理しておく必要があります。

2029年の再変更を忘れない

今回の制度で実務上意外に重要なのが、次の変更日がすでに決まっていることです。2029年1月1日からは賃金上限20,000バーツ、最大拠出額1,000バーツへ引き上げられます。さらに2032年1月1日からは、賃金上限23,000バーツ、最大1,150バーツとなります。

2026年にPayrollを875バーツへ変更して対応完了とすると、2029年に再び設定変更を忘れる可能性があります。そのため、HR・AccountingのCompliance Calendarなどへ、

2029年1月:社会保険料上限再変更

をあらかじめ登録しておくことをおすすめします。

FAQ

Q1. 2026年のタイ社会保険料はいくらですか?

Section 33の被保険者について、従業員と会社がそれぞれ原則として賃金の5%を負担します。2026年1月1日から2028年12月31日までの賃金上限は17,500バーツであるため、最大月額拠出額は従業員875バーツ、会社875バーツです。

Q2. 月給50,000バーツなら2,500バーツを払う必要がありますか?

いいえ。現在の社会保険料計算上の賃金上限は17,500バーツです。したがって、17,500 × 5% = 875バーツが原則として最大月額負担額となります。

Q3. 日本人駐在員にも同じ上限が適用されますか?

Section 33の被保険者としてタイ社会保険制度の対象となっている場合、今回の賃金上限変更が関係します。過去のKPMG Thailandの解説でも、タイ企業から給与を受ける居住者・非居住者の従業員について社会保険拠出の対象になることが一般的な原則として整理されていますが、個々の加入資格や例外については雇用形態等を確認する必要があります。

実務上のチェックポイント3選

① Payrollの上限が750バーツのままになっていないか確認する

2026年1月以降の最大月額拠出額は875バーツです。給与計算ソフト、Excelの計算式、給与明細の設定などに750バーツという旧上限が残っていないか、一度確認してください。特に外部のPayroll Providerへ委託している場合でも、実際の給与明細をサンプルチェックすることをおすすめします。

② 会社負担増加額を年間人件費へ反映する

上限適用となる従業員1名につき、会社負担は月125バーツ増加しています。100名なら年間150,000バーツ、500名なら年間750,000バーツとなるため、従業員数が多い企業ではBudgetとActualの差異分析にも影響します。給与本体だけでなく、社会保険などの法定福利費まで含めて人件費を管理することが必要です。

③ 2029年・2032年の変更日を今から管理する

今回の改正は2026年で完了ではありません。2029年には最大1,000バーツ、2032年には最大1,150バーツへ段階的に引き上げられます。担当者の異動があっても対応漏れが起こらないよう、社内の労務・Payrollカレンダーへ将来の変更日を登録しておくことをおすすめします。

まとめ

2026年1月1日から、タイのSocial Security FundにおけるSection 33の賃金上限が引き上げられました。今回押さえておきたい数字は、

  • 社会保険料率:会社・従業員それぞれ原則5%
  • 2026~2028年の賃金上限:17,500バーツ
  • 最大拠出額:875バーツ/月
  • 2029~2031年:最大1,000バーツ/月
  • 2032年以降:最大1,150バーツ/月
  • 通常の納付期限:翌月15日

です。

社会保険料は1名あたりで見ると小さな金額ですが、企業全体では毎月発生する固定的な人件費です。また、今回のように計算上限が段階的に変更される制度では、Payrollシステムを一度設定して終わりではなく、法改正に応じて継続的にメンテナンスする必要があります。

タイ赴任後に企業様の給与計算を見る中でも感じますが、実務上のミスは複雑な制度よりも、「以前から同じ設定で処理していた項目」で起きることがあります。社会保険、源泉所得税、休暇制度など、毎月当たり前に処理している項目ほど、定期的に最新ルールとの整合性を確認することをおすすめします。

東京コンサルティングファームのサポート

東京コンサルティングファームでは、タイにおける給与計算、社会保険、個人所得税、就業規則、労務アドバイザリーなど、日系企業の現地法人運営を幅広くサポートしています。

「現在のPayroll計算が最新の社会保険制度に対応しているか確認したい」「給与計算を外部委託したい」「従業員数の増加に伴いHR・Payroll体制を見直したい」といったご相談についても対応しております。

タイ現地法人の給与計算・労務管理についてお困りの点がございましたら、お気軽に東京コンサルティングファームまでお問い合わせください。

【免責事項】

本記事は、2026年9月9日時点で確認できるタイの法令、行政規則および公表情報等に基づき、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、法的・税務上の助言を構成するものではありません。Social Security Fundの加入義務、計算対象となる賃金、被保険者区分、具体的な給付内容等は、従業員の雇用状況や個別事情によって異なる場合があります。実際の給与計算や社会保険手続きを行う際には、最新のタイ社会保障当局の運用および関連法令を確認したうえで、専門家へご相談ください。今回の制度確認には、KPMG Thailandの2026年Social Security改正解説、Baker McKenzieの賃金上限引き上げ解説、および2026年8月24日更新のPwC Thailand税務情報を参照しています。

株式会社東京コンサルティングファーム タイ拠点
片山