皆さん、こんにちは。東京コンサルティングファーム タイ拠点の片山です!

タイで現地法人の設立や登記変更に携わっていると、「外国人が株主にいる会社の設立手続きが厳しくなった」という話を耳にする機会が増えてきたのではないでしょうか。

2026年8月1日から施行されたDBD Order No. 2/2569により、外国人が関係する一定の会社設立・登記変更において、タイ人株主の出資実態を確認するための追加書類の提出が求められるようになりました。従来よりも踏み込んだ確認が行われるため、日系企業がタイで新たに法人を設立する際や、既存法人の株主・取締役を変更する際にも影響が生じる可能性があります。

今回は、この新しい命令の概要、対象となる会社の範囲、提出が求められる書類、そして日系企業が実務上押さえておくべきポイントについて整理します。

本記事の結論

DBD Order No. 2/2569は、外国人が関係する会社の設立・登記変更において、タイ人株主の出資実態確認を強化するための命令です。

2026年8月1日以降、対象となる会社設立では、タイ人株主の出資前3か月間の銀行取引明細の提出が必要となりました。また、設立後1年以内に株主や取締役の変更登記を行う場合にも、追加資料の提出が求められます。

株主構成(持分比率)だけでなく、出資前の段階から資金移動の証拠を整えておくことが重要です。日系企業がタイで会社を設立する際には、設立スケジュールの作成段階からこの命令への対応を織り込む必要があります。

DBD Order No. 2/2569とは?

DBD(Department of Business Development:商務省事業開発局)は、タイにおける会社の設立登記や変更登記を管轄する行政機関です。

DBD Order No. 2/2569は、外国人が関係する会社の設立・登記変更時に提出すべき確認書類を強化する命令として、2026年7月14日に発出され、同年8月1日に施行されました。

この命令は、従来のOrder No. 2/2568およびOrder No. 1/2569を廃止・統合したものです。背景には、タイで長年問題視されてきたNominee(名義貸し)の問題があります。すなわち、外国人事業法(Foreign Business Act)による外資規制を回避するために、タイ人の名義を借りて実質的に外国人が支配する会社を設立するケースへの対策として、出資実態の確認を厳格化する狙いがあります。

どのような会社が対象になるのか?

DBD Order No. 2/2569の対象となる会社は、大きく2つのカテゴリーに分けられます。

① 外国人株主の持分が50%未満の会社

外国人が株主として存在するものの、持分が50%未満(=タイ人が過半数を保有)の会社が対象です。タイ人51%・外国人49%という典型的な日系企業の株主構成がまさにこのカテゴリーに該当します。

このような会社では、タイ人株主が本当に自らの資金で出資しているのか、それとも外国人側が資金を提供しているのかを確認するために、追加書類の提出が求められます。

② 外国人株主はいないが、外国人取締役に署名権がある会社

株主が全員タイ人であっても、外国人が取締役として署名権限を有している場合には、この命令の対象となる可能性があります。外国人が経営に関与している会社についても、Nomineeリスクの観点から確認が強化されています。

会社設立時に何を提出するのか?

対象となる会社を設立する際には、従来の設立書類に加えて、以下の追加書類の提出が求められます。

  • Investment Explanation Letter(出資説明書):タイ人株主の出資原資や出資の経緯を説明する書面
  • タイ人株主の出資前3か月間の銀行取引明細:出資に充てた資金の原資を確認するための銀行明細
  • 会社口座の入金確認明細:出資金が実際に会社口座へ入金されたことを示す書類

ポイントは、タイ人株主の個人口座から会社口座への資金移動の整合性が確認されるという点です。単に「タイ人が株主である」という形式だけでなく、「タイ人が実際に自己資金で出資した」という実態が書類上で示される必要があります。

なぜ「3か月分」の銀行取引明細が必要なのか?

3か月分の銀行取引明細が求められる理由は、登記直前に外国人から資金が流入していないかを確認するためです。

例えば、会社設立の直前にタイ人株主の口座へ外国人からまとまった送金があり、その資金がそのまま出資金として使われている場合、実質的にはNominee(名義貸し)であると判断される可能性があります。DBDはこうした資金の流れを銀行明細から確認することで、出資の実態を把握しようとしています。

したがって、日系企業がタイで会社を設立する場合には、設立スケジュールの作成段階から、タイ人株主の選定、出資額の決定、口座の準備、出資原資の整理までを計画的に進めることが重要です。

会社設立後の株主・取締役変更も対象になる?

はい。DBD Order No. 2/2569は、会社設立時だけでなく、設立後の株主変更や取締役変更の登記にも適用されます。

変更登記を行う際には、Investment Confirmation Letter(出資確認書)の提出が求められます。さらに、設立後1年以内に変更登記を行う場合には、資本金の払込証明など追加の資料が必要となります。

設立後1年以内の変更に対してより厳しい確認が行われる背景には、設立直後に株主構成を変更してNominee構造を作り出すケースへの対策があると考えられます。

M&Aや株式譲渡にも影響するのか?

直接的にはDBD Order No. 2/2569はM&A取引そのものを規制するものではありませんが、株式譲渡やJV(ジョイントベンチャー)の組成、取締役の変更に伴い登記手続きが発生する場合には、この命令の影響を受ける可能性があります。

例えば、日系企業がタイ企業の株式を取得してJVを組成する場合、取引のClosing Date(クロージング日)だけでなく、登記時に必要となる資料を事前に確認し、準備しておくことが求められます。特に、取引後の株主構成が「外国人49%・タイ人51%」となるケースでは、この命令の適用対象となる可能性が高いため、デューデリジェンスの段階から登記手続きへの影響を織り込んでおくことをおすすめします。

「タイ人51%なら安全」という考え方には注意

日系企業の間では、「タイ人が51%を持っていれば外国人事業法の規制を受けない」という理解が広まっています。株式比率の観点からはその通りですが、株式比率だけで判断することは危険です。

DBD Order No. 2/2569が問題視しているのは、まさに「形式上はタイ人51%だが、実際の出資金は外国人が負担している」というケースです。このようなケースでは、たとえ株主名簿上はタイ人が過半数を保有していても、Nominee(名義貸し)と判断されるリスクがあります。

したがって、株主構成を検討する際には、持分比率だけでなく、各株主が実際にどのような原資で出資するのかまで確認し、書類上の整合性を確保しておくことが重要です。

FAQ

Q1.外国人49%・タイ人51%の会社は対象になりますか?

はい、対象となります。外国人株主の持分が50%未満であっても、外国人が株主として存在する会社はDBD Order No. 2/2569の対象です。タイ人株主の出資実態を確認するための追加書類の提出が求められます。

Q2.外国人株主が0%であれば関係ないですか?

必ずしもそうとは限りません。株主が全員タイ人であっても、外国人が取締役として署名権限を有している場合には、この命令の対象となる可能性があります。

Q3.すでに設立済みの会社にも影響しますか?

設立済みの会社であっても、2026年8月1日以降に株主変更や取締役変更などの変更登記を行う場合には、この命令に基づく追加書類の提出が求められる可能性があります。特に設立後1年以内の変更については、より厳格な確認が行われます。

実務上のチェックポイント3選

① タイ人株主を決める前に「出資原資」を確認する

タイ人株主の候補者を選定する段階で、その人物が自己資金で出資できるかどうかを確認しておくことが重要です。出資前3か月間の銀行取引明細が提出書類となるため、出資原資が明確であることが前提となります。外国人側から資金を提供してタイ人名義で出資するような構造は、Nomineeと判断されるリスクがあります。

② 出資金の「出る側」と「入る側」を一致させる

タイ人株主の個人口座から会社口座への資金移動について、金額・タイミング・名義が一致していることが確認されます。第三者の口座を経由した送金や、現金での出資など、資金の流れが不明確な方法は避け、銀行振込による記録が残る形で出資を行うことが望ましいです。

③ 設立後1年間の株主・取締役変更まで計画する

設立後1年以内に株主や取締役の変更登記を行う場合には、追加の証明書類が必要となります。そのため、会社設立時の株主構成や取締役の選任については、設立後1年間は変更しない前提で計画を立てることが実務上のリスク管理として有効です。やむを得ず変更が必要な場合には、事前に必要書類を確認し、準備を進めておくことをおすすめします。

まとめ

DBD Order No. 2/2569により、外国人が関係するタイ会社の設立・登記変更手続きが厳格化されました。今回押さえておきたいポイントは以下の通りです。

  • 施行日:2026年8月1日
  • 対象:外国人持分50%未満の会社の新規設立、および外国人取締役に署名権がある会社
  • 主な提出書類:タイ人株主の出資前3か月間の銀行取引明細
  • 設立後の変更登記にも適用(設立後1年以内はさらに追加証明が必要)
  • M&Aや株式譲渡に伴う登記手続きにも影響する可能性

この命令は、形式的な株主構成だけでなく、出資の実態まで確認するという方向性を明確に示しています。日系企業がタイで新規法人を設立する場合や、既存法人の株主・取締役構成を変更する場合には、設立スケジュールの初期段階からこの命令への対応を計画に組み込むことをおすすめします。

東京コンサルティングファームのサポート

東京コンサルティングファームでは、タイにおける会社設立・登記、株主構成の設計、M&Aに伴う登記手続き、外国人事業法への対応など、日系企業の現地法人運営を幅広くサポートしています。

DBD Order No. 2/2569への対応についても、「自社の設立手続きにどのような影響があるか確認したい」「タイ人株主の出資原資をどのように整理すればよいか分からない」「設立後の変更登記で必要な書類を事前に把握しておきたい」といったご相談に対応しております。

タイ現地法人の設立・登記についてお困りの点がございましたら、お気軽に東京コンサルティングファームまでお問い合わせください。

【免責事項】

本記事は、2026年8月26日時点で確認できるタイの法令、行政規則および公表情報等に基づき、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、法的・税務上の助言を構成するものではありません。DBD Order No. 2/2569の適用範囲、対象となる会社の判定、提出書類の詳細については、企業ごとの状況によって異なる場合があります。具体的な登記手続きを行う際には、最新の法令およびDBDの運用を確認したうえで、専門家へご相談ください。

株式会社東京コンサルティングファーム タイ拠点
片山