皆さん、こんにちは。東京コンサルティングファーム タイ拠点の坂田です。
タイで事業を行う日系企業にとって、設備投資は単に「新しい工場を建てる」「生産設備を増やす」という話だけではありません。
近年は、人件費や原材料費、物流費などの上昇を背景に、現在保有している設備や人員をどのように活用し、生産性を高めるかという視点がより重要になっています。
今回は、盤谷日本人商工会議所(JCC)が2026年6月30日に公表した「2026年上期日系企業景気動向調査」を基に、在タイ日系企業の設備投資動向について解説します。
また、2026年8月13日には、タイ投資委員会(BOI)、日本貿易振興機構(JETRO)バンコク事務所およびJCCによる意見交換が行われ、日本企業によるタイ国内の事業基盤の維持・高度化についても話し合われました。
今回の調査を見ると、在タイ日系企業の設備投資は、新規拠点の設置や単純な生産能力拡張だけではなく、既存設備の更新、合理化、DXなど「既存拠点の高度化」へ重点が移っていることが分かります。
本記事の結論
JCCの2026年上期調査では、在タイ日系企業の23%が2026年度の設備投資を前年より増やすと回答しました。
投資内容を見ると、「機械・設備の更新」が59%で最多となっており、「合理化」が31%、「DX関連」が22%と続いています。
調査結果を見ると、新規・拡張投資だけでなく、既存拠点の設備更新や合理化、DXを通じて生産性を高める動きが目立ちます。
設備更新、自動化、デジタル化、省エネルギー化などを検討する企業では、投資内容によってBOIの投資奨励措置を利用できるケースもあるため、設備を発注する前の段階で適用条件を確認しておくことがポイントとなります。
在タイ日系企業の23%が2026年度の設備投資を増やす予定
JCCの「2026年上期日系企業景気動向調査」には、JCC会員企業504社が回答しました。
このうち、2026年度の設備投資に関する設問へ回答した488社では、112社が前年と比較して「投資増」を見込んでいます。回答割合は次のとおりです。
| 回答 | 割合 |
|---|---|
| 投資増 | 23% |
| 横ばい | 48% |
| 投資減 | 16% |
| 未定 | 13% |
「投資増」と「横ばい」を合わせると71%となり、多くの日系企業が前年と同水準以上の設備投資を維持する方針であることが分かります。
一方、在タイ日系企業の景況感を示す業況感DIは、2026年上期がマイナス6、2026年下期の見通しがマイナス7となっています。
景況感そのものは楽観的とは言えない状況ですが、それでも一定数の企業が設備投資を継続しています。原材料価格、人件費、物流費などの上昇が続く中で、投資そのものを止めるのではなく、限られた設備・人員でどのように生産性を高めるかという観点から投資を選別していることが調査結果から読み取れます。
在タイ日系企業は何に投資しているのか?
設備投資の具体的な内容について回答した432社の複数回答では、「機械・設備の更新」が59%で最多となりました。主な回答は次のとおりです。
| 投資内容(複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 機械・設備の更新 | 59% |
| 合理化 | 31% |
| DX関連 | 22% |
| 新規投資 | 16% |
| 拡張投資 | 16% |
| 環境関連 | 10% |
ここで注目したいのは、「新規投資」「拡張投資」がそれぞれ16%であるのに対し、既存設備の「更新」は59%に達している点です。現在の在タイ日系企業では、工場を新設したり、生産ラインを単純に増設したりする投資よりも、
- 老朽化した設備の更新
- 生産工程の自動化
- 作業工程の合理化
- 設備稼働状況の可視化
- 生産データの収集・分析
- 品質管理へのデジタル技術導入
など、現在の事業基盤を活用した改善が中心となっています。
人員や設備を増やし続ける方法だけでは、コスト上昇への対応には限界があります。そのため、「どれだけ生産能力を増やしたか」だけではなく、同じ設備・同じ人員でどれだけ生産量や品質を改善できたかという考え方が設備投資の判断でも重要になっています。
なぜ今「既存拠点の高度化」が重視されているのか?
既存拠点の高度化が進む背景には、コスト上昇と事業環境の変化があります。
企業が負担する人件費、原材料費、物流費、エネルギーコストなどが上昇した場合、そのすべてを製品・サービス価格へ転嫁できるとは限りません。そこで、自社内部で改善できる項目として、
- 作業時間の短縮
- 不良率の低減
- 設備稼働率の改善
- 人員配置の見直し
- エネルギー使用量の削減
- データ入力・集計作業の自動化
などに取り組む企業が増えています。
例えば、新しい機械を導入する場合でも、「古くなったから交換する」という理由だけではなく、
- 「1時間当たりの生産量をどれだけ増やすのか」
- 「不良率を何%から何%へ改善するのか」
- 「何人分の手作業を自動化するのか」
といった形で、投資前後の効果を数値で把握することが、投資判断を行ううえで役立ちます。
日系企業の設備投資にどのような影響があるのか?
今回のJCC調査から、タイで事業を行う日系企業にとって、設備投資に関する主なポイントは次の4点に整理できます。
1. 新規拠点だけでなく既存拠点への投資判断が重要になる
設備投資というと、新工場の建設や新しい生産ラインの増設をイメージしがちです。しかし、今回の調査では「機械・設備の更新」が59%を占めています。
現在使用している機械、業務フロー、人員配置を見直し、既存拠点そのものの生産性を高めることも設備投資の一つです。設備更新を検討する際は、
- 生産能力
- 不良率
- 稼働率
- 作業時間
- エネルギー使用量
- メンテナンスコスト
など、どの指標を改善するための投資なのかを事前に明確にしておくと、導入後の効果も評価しやすくなります。
2. コスト上昇への対応を投資計画に組み込む
原材料、人件費、物流費などの上昇分をすべて販売価格へ転嫁できない場合、企業内部でのコスト改善が必要となります。例えば、
- 自動化による作業時間削減
- 生産工程の統合
- 在庫管理のデジタル化
- 設備データを利用した予防保全
- ペーパーレス化
- エネルギー効率の改善
などです。「売上をどれだけ増やせるか」だけでなく、「現在発生しているコストをどれだけ削減できるか」という視点も、設備投資の採算を判断する材料になります。
3. 投資内容によってはBOIの投資奨励措置を確認する
BOIの「Smart and Sustainable Industry」は、既存事業における生産効率の向上、自動化・デジタル化、省エネルギー化などの投資を支援する投資奨励措置です。
既存拠点の機械更新、自動化、デジタル化、省エネルギー化などを検討する企業では、投資内容や条件によって同措置の対象となる場合があります。また、既にタイで事業を行っている企業や、従来BOIの投資奨励を受けていなかった事業についても、対象となる投資内容・事業・条件を確認する余地があります。
ただし、BOIの適用については、
- 対象事業
- 投資内容
- 最低投資額
- 使用する機械・設備
- 既存BOIプロジェクトの有無
- 申請時期
などを確認する必要があります。
特に、BOI申請と設備の発注・導入をどの順番で行うかは、実務上確認しておきたいポイントです。設備投資を正式決定してからBOIの適用可否を調べるのではなく、投資計画を作成する段階で確認しておく方が、その後の手続きを整理しやすくなります。
4. 設備だけでなく人材・業務フローも見直す
新しい機械やシステムを導入しても、従業員が使いこなせなければ、当初想定した投資効果にはつながりません。そのため、設備導入と同時に、
- 操作研修
- 業務分担
- 承認権限
- データ入力ルール
- 社内マニュアル
- KPI
- 情報セキュリティ
などについても見直す必要があります。
特にDXでは、「新しいシステムを入れた」というだけで終わらせず、
- 「誰がデータを入力するのか」
- 「誰が確認するのか」
- 「どの数字を経営会議で利用するのか」
- 「異常値が発生した場合、誰が対応するのか」
まで決めておくことで、システムを日々の経営管理に活用しやすくなります。
BOI・JETRO・JCCも日本企業の事業基盤高度化について意見交換
2026年8月13日には、BOI、JETROバンコク事務所およびJCCによる意見交換が行われました。今回のJCC調査の結果を踏まえ、日本企業によるタイ国内の事業基盤の維持・高度化について意見が交わされています。
タイにおける日本企業の投資というと、「新規進出」や「新工場建設」に注目が集まりやすいですが、現在タイで長年事業を行っている企業にとっては、既存の生産拠点をどのように高度化するかも重要な投資テーマです。
既存設備の更新、自動化、DX、環境対応などを進める際は、投資金額だけではなく、BOI制度も含めた投資スキーム全体を確認することが実務上のポイントとなります。
実務上のチェックポイント3選
① 投資目的を数値で設定する
「設備が古くなったから更新する」だけでなく、設備導入前に改善目標を設定します。例えば、生産量、設備稼働率、不良率、作業時間、エネルギー使用量などを導入前後で比較できるようにしておけば、投資効果を社内で評価しやすくなります。
② BOIの適用可否は設備発注前に確認する
BOIの投資奨励措置を利用する場合、対象業種、投資内容、設備、申請時期などの要件を確認します。設備の購入・発注を先に進めてしまうと、その後のBOI申請に影響するケースもあるため、投資計画段階で申請スケジュールを整理しておくことがポイントです。
③ 設備・人材・業務フローをセットで見直す
設備やシステムを導入するだけでは、生産性は自動的に改善しません。新しい設備に合わせて、人員配置、研修、業務マニュアル、承認ルール、データ管理なども同時に見直し、導入後の運用方法まで設計しておくことが必要です。
よくある質問(FAQ)
Q1.在タイ日系企業は設備投資を減らしているのでしょうか?
一律に減らしているわけではありません。JCCの2026年上期調査では、設備投資に関する設問へ回答した488社のうち、23%が前年より「投資増」、48%が「横ばい」と回答しています。一方、投資内容を見ると、新規投資・拡張投資よりも、既存の機械・設備更新、合理化、DXへの投資割合が高くなっています。
Q2.既存工場の設備更新でもBOIを利用できますか?
投資内容や事業内容がBOIの対象条件に合致する場合は、既存拠点に対する投資でも確認対象となります。特に、自動化、デジタル化、省エネルギー化などを検討する場合は、「Smart and Sustainable Industry」を含む最新のBOI措置と対象条件を確認します。申請可否は個別の事業内容・設備・投資計画によって決まるため、設備発注前に確認することをおすすめします。
Q3.設備投資を検討する際、最初に何を確認すればよいですか?
まず、「何を改善するための投資なのか」を明確にします。そのうえで、現在の生産量・不良率・稼働率、投資額、投資回収期間、BOI適用の有無、導入スケジュール、従業員研修、業務フロー変更を整理すると、設備投資を単なる機械購入ではなく、経営改善の施策として検討しやすくなります。
まとめ
JCCの2026年上期日系企業景気動向調査からは、在タイ日系企業の設備投資が、単純な新規拡張だけではなく、機械更新、合理化、DXを中心とした「既存拠点の高度化」へ向かっていることが分かります。
設備投資に関する回答では23%が「投資増」、48%が「横ばい」としており、景況感が厳しい中でも、多くの企業が現在の事業基盤を維持・改善するための投資を継続しています。また、具体的な投資内容では、機械・設備更新が59%、合理化が31%、DX関連が22%を占めています。
今後の設備投資では、「どの設備を買うか」だけではなく、
- どの経営課題を改善するのか
- どの数値で投資効果を測定するのか
- BOIの投資奨励措置を利用できるか
- 設備導入に合わせて業務や人員をどう変えるのか
まで含めて投資計画を組み立てることがポイントです。
特にBOIの適用を検討する場合には、設備を発注・導入してから確認するのではなく、投資計画の段階で対象条件と申請手続きを確認しておくと、その後の手続きを進めやすくなります。
東京コンサルティングファームのサポート
東京コンサルティングファームでは、タイへ進出する日系企業および既にタイで事業を行っている企業向けに、会社設立、法務・会計・税務、BOI投資奨励申請、各種ライセンス、ビザ・ワークパーミットなど、タイ法人運営に関する各種サポートを行っております。
「既存工場の設備更新でBOIを利用できるか確認したい」「自動化・DX投資に利用できるBOI措置を確認したい」「設備投資を行う前にBOI申請のタイミングを整理したい」「タイ法人の投資計画について法務・税務面も含めて確認したい」といったご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
以上、お読みいただきありがとうございました!
参考資料
- 盤谷日本人商工会議所(JCC)「2026年上期日系企業景気動向調査(概要版)」(2026年6月30日公表)
- タイ投資委員会(BOI)「JETRO・JCCとの2026年上期タイ日系企業景気動向調査に関する意見交換」(2026年8月13日)
- タイ政府「BOI・JETRO・JCCが日本企業のタイ生産拠点高度化を支援」(2026年8月13日)
- タイ投資委員会(BOI)「Smart and Sustainable Industry措置」
- 日本貿易振興機構(JETRO)「JCC、2026年上期景気動向調査を公表、中東情勢の影響から業況感は悪化の見通し」(2026年7月22日)
【免責事項】
本記事は2026年8月時点で確認できる公開情報を基に作成した一般的な情報提供を目的としており、個別の投資・法務・税務上の助言を構成するものではありません。BOIの対象事業、投資条件、恩典内容および申請手続きは、事業内容、投資計画、既存のBOI奨励状況等によって異なります。具体的な設備投資を進める際には、最新のBOI布告および申請時点の適用条件をご確認ください。
株式会社東京コンサルティングファーム タイ拠点
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