皆さん、こんにちは。東京コンサルティングファーム タイ拠点の片山です。タイへ赴任してから、会計や税務だけではなく、輸出入や通関に関するご相談をいただく機会も増えてきました。
その中でも、最近特に印象に残った案件があります。それは、日本からタイへ精密機械部品を輸送し、実際の海上輸送ルートを再現したうえで、高温多湿なタイの環境下における品質への影響を確認し、その後日本へ返送したいというご相談でした。
商品自体を販売する予定はなく、輸送中に発生した品質不良の原因を特定することが目的でした。そのため、お客様からは「販売しないサンプルなので価格は0円でよいのではないか」「保税倉庫を利用すれば税金は発生しないのではないか」といったご質問をいただきました。
私自身もローカルスタッフや通関業者へ確認しながら制度を整理しましたが、タイ税関では「無償であること」と「商品に価値がないこと」は全く別の考え方であり、一般倉庫と保税倉庫でも通関や税金が発生するタイミングが異なることを改めて実感しました。
品質確認や輸送テストのためにサンプル品を取り扱う企業は少なくありません。今回は、この案件をもとに、タイへ無償サンプルを輸入する際の関税・VAT・保税倉庫の実務について解説します。
【本記事の結論】
無償サンプルであっても、原則として税関申告価格を0円とすることはできません。タイ税関では、「無償(Free of Charge)」と「商品価値がないこと」は別の概念として扱われます。また、一般倉庫と保税倉庫(Bonded Warehouse)では関税・輸入VATが発生するタイミングが異なります。さらに、日本へ返送する場合も輸出申告やCommercial Invoiceの作成が必要となるため、輸入前の段階で物流スキームを整理しておくことが重要です。
無償サンプルでも関税・VATは発生する?
「販売しない商品だから税金も発生しない」と考えられることがありますが、実際にはそうではありません。
タイ税関では、輸入時に税関申告価格(Customs Value)を基準として関税や輸入VATが計算されます。また、近年の制度改正により、1,500バーツ以下の少額輸入貨物についてもVAT(付加価値税)が課税される運用となっています。一方で、輸入関税の取扱いとは異なるため、「無償だから課税されない」「少額だから税金が発生しない」と考えるのではなく、最新の税関制度を踏まえて確認することが重要です。
現在は、課税価格が1バーツ以上と評価された輸入品について、原則として関税・輸入VATの課税対象となります。そのため、売買代金を請求しない無償サンプルであっても、税関申告価格を設定する必要があります。つまり、
- 無償であること
- 税関上の価値があること
は別の考え方です。
今回ご相談いただいた案件では、日本で製造した精密機械部品を実際の海上輸送ルートでタイへ送り、高温多湿な環境下で品質確認を行った後、日本へ返送する計画でした。このような輸送テストや品質確認を目的としたサンプル品であっても、通常販売価格や同一・類似商品の販売価格、製造原価などを参考に、合理的な税関申告価格を設定する必要があります。
価格を便宜的に「1円」や「0円」としてしまうと、タイ税関から価格の根拠資料の提出を求められたり、申告価格の修正を指示されたりする可能性があります。
Commercial Invoiceにはどのように記載すればよい?
無償サンプルであることは、Commercial Invoiceへ明確に記載します。例えば、以下のような表記が一般的です。
- Free of charge
- Not for resale
- Customs value for customs purposes only: JPY ○○
- Sample for transportation and quality testing
- To be returned to Japan after testing
重要なのは、「無償であること」だけではなく、税関申告用価格(Customs Value)も必ず記載することです。
また、返送を予定している場合には、「To be returned to Japan after testing」などの文言を追加しておくことで、輸送目的がより明確になります。
一般倉庫と保税倉庫では何が違う?
今回の案件で最も多かった質問が、「一般倉庫と保税倉庫では何が違うのか」という点でした。結論からいうと、違いは「輸入通関を行うタイミング」です。
| 倉庫 | 輸入通関のタイミング |
|---|---|
| 一般倉庫 | タイ到着時に輸入通関 |
| 保税倉庫 | 保税倉庫から搬出するときに輸入通関 |
つまり、一般倉庫ではタイへ到着した時点で輸入通関が行われます。一方、保税倉庫では貨物を保税状態で保管できるため、輸入通関は保税倉庫から搬出するタイミングまで留保されます。この違いが、関税や輸入VATの発生タイミングにも大きく影響します。
一般倉庫へ搬入する場合
一般倉庫は税関上の保税区域ではありません。そのため、タイへ到着した時点で通常の輸入通関を行います。流れを整理すると、次のようになります。
- 日本から出荷
- タイ到着
- 輸入通関
- 関税・輸入VATを納付
- 一般倉庫へ搬入
- タイユーザーへ納入
- 品質テストを実施
- タイで輸出通関
- 日本へ返送
つまり、無償サンプルであっても、一般倉庫へ搬入する場合には輸入時点で関税・輸入VATが発生します。
保税倉庫を利用すれば税金は発生しない?
結論からいうと、「日本へそのまま再輸出する場合」は、原則として関税・輸入VATを納付せずに返送できます。
一方で、保税倉庫からタイ国内のユーザーへ貨物を搬出する場合には事情が変わります。保税倉庫から貨物を持ち出した時点で保税状態は終了し、その時点でタイ国内への輸入として扱われます。
つまり、保税倉庫を利用する場合の流れは次のようになります。
- タイ到着
- 保税倉庫へ搬入
- タイユーザーへ搬出
- 輸入通関
- 関税・輸入VATを納付
- 品質テストを実施
- タイで輸出通関
- 日本へ返送
そのため、「保税倉庫だから税金が一切発生しない」というわけではありません。実際には、タイ国内へ貨物を搬出した時点で輸入税やVATが課されることになります。
日本へ返送する場合の注意点
輸送テストや品質確認が完了した後、日本へ返送すること自体は可能です。しかし、返送時にも通常の輸出貨物と同様に輸出申告を行う必要があります。また、Commercial Invoiceにも税関申告用価格を記載しなければなりません。
返送時のCommercial Invoiceの記載例としては、以下のような表現が一般的です。
- Returned goods after transportation and quality testing
- No sale / No charge
- Customs value for customs purposes only: JPY ○○
- Originally imported under Import Declaration No. ○○
ここでも重要なのは、「No charge(無償)」だけを記載するのではなく、税関申告価格(Customs Value)も併記することです。
さらに、返送時には輸入した商品と同一の商品であることを証明できるよう、以下の資料を保管しておくことが重要です。
- 型番
- 数量
- ロット番号
- シリアル番号
- 商品写真
- 輸入申告書
これらの資料が不足していると、輸入時の商品と返送品が同一であることを証明できず、通関に時間を要する可能性があります。
通関はどのタイミングで行われる?
今回の案件では、「通関はどこで切られるのか」という点も大きな論点となりました。整理すると、次のようになります。
| ケース | 通関を行うタイミング |
|---|---|
| 一般倉庫へ搬入 | タイ到着時に輸入通関 |
| 保税倉庫から日本へ直接返送 | 保税状態のまま再輸出 |
| 保税倉庫からタイ国内へ搬出 | 搬出時に輸入通関 |
| タイから日本へ返送 | タイ出国時に輸出通関 |
このように、「保税倉庫を利用する」というだけで税金が免除されるわけではありません。タイ国内へ貨物を搬出するタイミングで輸入手続が必要になる点は、特に注意が必要です。
実務で注意したいポイント
今回の案件を通じて、特に重要だと感じたポイントがいくつかありました。
テストによって商品状態が変わる場合
輸送テストや品質試験では、開封・分解・加工・一部消費などが行われることがあります。しかし、商品の形状や数量、重量が大きく変わると、輸入時の商品と同一であることの証明が難しくなる可能性があります。その結果、再輸出時の通関で追加説明を求められるケースも考えられます。
商品が破損・廃棄された場合
品質試験の結果、商品が破損した・廃棄した・消費したというケースでは、日本への返送そのものができなくなる可能性があります。その場合には、輸入時とは異なる手続が必要になるため、事前に通関業者へ確認しておくことが望ましいでしょう。
FDAやTISIなどの輸入許可
輸送テスト用サンプルであっても、商品の種類によっては、FDA(タイ食品医薬品局)やTISI(タイ工業規格協会)などの輸入許可が必要となる場合があります。「サンプルだから許可不要」と考えてしまうと、通関で止まってしまう可能性があるため注意が必要です。
関税還付制度が利用できない可能性
輸入時に関税を納付した場合でも、後から日本へ返送するからといって、必ず還付されるわけではありません。タイ国内で行った輸送テストや品質試験が「商品の使用」と判断される場合には、関税還付制度の適用対象外となる可能性があります。実際の適用可否については、輸送方法や商品の状態によって異なるため、輸入前に通関業者へ確認しておくことが重要です。
M&A・物流DDでも重要になるテーマ
一見すると、このテーマは物流部門だけの問題に思えるかもしれません。しかし、実際にはM&Aのデューデリジェンス(DD)でも重要な確認事項となることがあります。
例えば、物流会社・商社・製造業・保税倉庫を利用する企業などを買収する場合には、以下の点を確認することがあります。
- 保税在庫の管理方法
- 輸入VATの処理方法
- 通関手続の運用状況
- 輸出入スキームが適切に管理されているか
輸出入スキームが適切に運用されていない場合、想定外の税負担・追徴課税・通関トラブルなどにつながる可能性もあるためです。
私自身もM&A案件に携わる中で、財務や税務だけではなく、物流や通関実務が企業価値へ影響するケースがあることを実感しています。
【FAQ】無償サンプルの輸入でよくある質問
Q1. 無償サンプルなら税関申告価格を0円にできますか?
できません。タイ税関では、「無償」と「商品価値がないこと」は別の概念です。通常販売価格や製造原価などを参考に、合理的な税関申告価格を設定する必要があります。
Q2. 保税倉庫を利用すれば関税・VATはかかりませんか?
保税倉庫から日本へ直接再輸出する場合には、原則として関税・輸入VATを納付せず返送できます。ただし、タイ国内へ貨物を搬出する場合には、その時点で輸入通関を行い、関税・輸入VATが発生します。
Q3. テスト後に日本へ返送できますか?
返送自体は可能です。ただし、輸出申告やCommercial Invoiceの作成、輸入時の商品と同一であることを証明できる資料の保存が必要になります。
実務上のチェックポイント3選
① Commercial Invoiceへ税関申告価格を記載しているか
「Free of Charge」だけではなく、税関申告価格(Customs Value)も記載しているか確認しましょう。
② 一般倉庫・保税倉庫のどちらが適しているか事前に検討しているか
保税倉庫だから必ず税負担を抑えられるとは限りません。タイ国内へ搬出する予定がある場合は、輸入通関のタイミングも踏まえて物流スキームを検討することが重要です。
③ 同一商品の証明資料を保管しているか
返送時の通関をスムーズに進めるため、型番・ロット番号・シリアル番号・商品写真・輸入申告書などを保管しておきましょう。
まとめ
無償サンプルを利用した輸送テストや品質確認は、多くの製造業や商社で行われています。しかし、「無償だから価格は0円」「保税倉庫なら税金は発生しない」と考えてしまうと、タイ税関で思わぬトラブルにつながる可能性があります。
今回私が対応した案件では、輸送中に発生した品質不良の原因を調査するため、日本から精密機械部品をタイへ送り、実際の物流ルートで輸送テストを実施した後、日本へ返送するという計画でした。ローカルスタッフや通関業者と確認を重ねる中で、「無償」と「税関上の価値」は全く異なる概念であること、また保税倉庫を利用してもタイ国内へ搬出するタイミングで輸入通関が必要になることを改めて実感しました。
輸送テストや品質確認のためにサンプル品を取り扱う企業は、輸入前の段階で物流スキームや通関方法を整理し、必要に応じて通関業者や専門家へ相談することをおすすめします。
東京コンサルティングファームのサポート
東京コンサルティングファームでは、タイ進出やクロスボーダー取引を行う日系企業向けに、会社設立、会計・税務・法務支援に加え、輸出入・通関に関する実務相談もサポートしています。
輸送スキームの検討や保税倉庫の活用、輸出入時の税務・法務リスクについても、現地実務を踏まえてワンストップでご支援いたします。
タイでの輸出入や現地法人運営についてお困りの際は、ぜひ東京コンサルティングファームまでお気軽にお問い合わせください。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的・税務・会計上の助言を構成するものではありません。タイの関税制度、輸入規制、運用は法令改正や税関の実務運用により変更される可能性があります。実際の輸出入や通関手続を行う際には、最新の法令・通達をご確認いただくとともに、通関業者や専門家へご相談ください。
株式会社東京コンサルティングファーム M&A事業部兼 タイ拠点
片山