法務・会社法
インド 会社法
1956年に制定されたインド会社法(旧会社法)は、制定以来部分的な改定を繰り返し行ってきました。この結果、条文に重複や不整合な点が多くみられ、非常に複雑なものとなっていました。
2014 年 4 月 1 日付で施行した2013 年会社法(新会社法)は、グローバル化に対応し、適正・健全な会社運営を確保し、産業界の要請にも応えたモノとなっています。
以下には、特に会社の設立に必要なインドの会社法を記載します。
目次
1.会社機関の体系 | ■機関の体系 ■公開と上場 |
2.会社秘書役 | ■会社秘書役とは ■設置義務 |
3.株主(株主総会) | ■インドにおける株主 ■株主総会 |
4.取締役(取締役会) | ■取締役の要件 ■取締役会の規定 |
5.監査役及び監査役会 | ■監査役の役割 ■監査の種類 |
1会社機関の体系
■機関の体系
インドの会社の構成機関と設置要件は以下の通りです。
機関 | 要件 | |
会社秘書役 (2条24項、25項) | 資本金5,000万ルピー以上 | 常勤が必要 |
資本金100万ルピー~5,000万ルピー | 常勤は不要だが、コンプライアンス順守の証明が必要 | |
株主(株主総会) (2条55項) | 非公開会社 2名以上 | 公開会社 7名以上 |
取締役(取締役会) (2条10項) | 非公開会社 2名以上 | 公開会社 3名以上 |
監査役(監査役会) (177条) | 監査役 | 1名(会計監査及び関西圏の表明) |
監査委員会 | 以下いずれかに該当する公開会社に義務付けられる ・資本金1億ルピー以上 ・売上高10億ルピー以上 ・負債総額が5億ルピー超 | |
内部監査人 | 設立は任意 |
日本との大きな違いは、会社秘書役の存在です。これは日本には存在しない機関ですので、その役割や設置強制の有無を十分に調べる必要があります。また進出した企業は、増資等により、設置が強制される機関があるので、会社機関の再度確認が奨励されます。
■公開と上場
インドにおける公開会社は、証券市場に上場している株式上場公開会社(LPC)と上場していない公開会社(UPC)に分類されます。「公開」といっても証券市場に上場している訳ではなく、非上場会社であっても、非公開会社の要件を満たさない限り、公開会社に分類されます。
2会社秘書役
■会社秘書役とは
会社秘書役は日本にはない概念であり、新規で現地法人を設立する会社は、その役割を軽視してしまう傾向があります。しかし、英米法系の会社法では会社の重要な役職とされています。 主な業務として、会社内部や株主の管理、会社のコンプライアンスについての責任を負います。文書管理もその重要な権限です。対外的な文書は会社秘書役の名前が使用されたり、会社秘書役の認証により文書の真正の証明が行われるということが一般的です。
■設置義務
資本金払込額(ルピー) | 5,000万以上 | 100万~5,000万未満 | 100万未満 |
設置義務 | 常勤 | 常勤する必要は無し | 設置義務なし |
備考 | 取締役が2名の場合 会社秘書役と兼任禁止 | 会社秘書役は証明書を発行する時点で実際に会社秘書役としての業務を行っている必要がある | ― |
会社秘書役は、弁護士や勅許会計士のような国家資格の一種です。インドではこのような人材を確保することが難しく、実体としては、常勤の会社秘書役の設置が必要な会社であっても、月に数日出勤で「常勤」の要件を満す、とする会社や、外部にアウトソースする会社もあります。
3株主(株主総会)
■インドにおける株主
インド会社法上、株主とは、間接有限責任のもと、企業の社員たる地位を示す株式を所有する者であり、自益権と共益権をもつ者と定義されます。
インド独特の制度として、名目的株主(nominal shareholder)と呼ばれるモノがあります。これは会社に対して、自益権を第三者に与えることを会社に宣言した株主のことです。株主総会で議決権を行使するなどの共益権は、与えることはできません。
公開会社(public company) | 非公開会社(private company) | |
最低株主数 | 7人 | 2人 |
定足数 | 原則5人以上の出席 定款で加重可能 | 原則2人以上の出席 定款で加重可能 |
決議要件 | ・普通決議は過半数の賛成で成立 ・特別決議は3/4以上の賛成で成立 | |
・原則として株主の頭数により計算する。 ・定款に規定がある、インド会社法上投票での決議が必要な場合 投票が行われ多数決の基準は議決権数となる |
■株主総会
インドの会社法では、株主総会決議には普通決議と特別決議があり、この種類によって決定される事項が異なります。成立要件として、株主総会普通決議は出席者の過半数の賛成、特別決議は出席者の4分の3以上の賛成と規定されています。
また株主総会にも、法定株主総会、定時株主総会(Annual General Meeting)(96条)及び、臨時株主総会(extraordinary general meeting)(100条)の3種類があります。
法定 | 定時 | 臨時 | |
内容 | 公開会社の設立後に開催 | 決算報告や取締役の選任等の決議 | 必要に応じて開催 |
召集時期 | 会社設立後6カ月以内 | 前回の定時総会より15カ月以内 | 必要に応じて開催 |
定足数 | 公開会社では5人以上 非公開会社では2人以上 | ||
決議方法 | 株主本人の挙手・投票 -委任状による代理人、法人代理人の出席は認められる -一定の条件を満たした上場公開会社では、郵便投票・書面投票が認められている |
4取締役(取締役会)
■取締役の要件
インドの会社法上、取締役には全員に代表権があり、日本にある代表取締役という概念はありません。さらに取締役の規定は、払込資本金額や、公開会社か非公開会社かによって大きく異なっています。
公開会社 | 非公開会社 | |
人数 | 3人以上15人以下 | 2人以上15人以下 |
選任・解任 | 株主総会の普通決議 | |
国籍 | 規定なし 例外的に一部業種のマネージングディレクターは、インド国籍が必要 | |
居住地 | 以下3つの役職は原則インドに居住 ・マネージングディレクター ・ホールタインムディレクター ・マネージャー | |
任期 | 定員の2/3以上は人気の長い順に1/3ずつ交代 残りは定款で任期を規定 | 定款で定める任意の期間 |
権限 | 対外的には会社代表権限・業務執行権限を有するものとされる |
■取締役会の規定
インドの会社法では、公開会社であっても非公開会社であっても、必ず取締役会(Board of directors)を持つことになります。すなわち、会社の取締役で構成される機関を取締役会(2条10項)と定義されており、日本の会社法のように、取締役会非設置会社という概念はそもそも存在しないことになります。
公開会社 | 非公開会社 | |
最低人数 | 3人 | 2人 |
定足数 | 取締役総数の1/3又は2人のいずれか多い方 | |
開催頻度 | 最低でも3カ月に1回 | |
開催地 | 規定なし(外国でも可能) | |
決議要件 | 過半数の決議 ※特定の場合には全員の賛成が必要 |
5監査役(監査委員会)
■監査役の役割
インドの会社法では、監査役(auditor)は監査業務のほか、取締役会・監査委員会に承認された業務のみ行うこととされています(144条)。業務監査権は、取締役から構成される監査委員会が有しており(177条)、上場会社及びその他一定の会社に対して、設置を義務付けています。インド会社法上の監査役は、日本会社法上の会計監査人に相当する性格であると考えるとイメージがしやすいでしょう。
■監査の種類
日本では、全ての会社に対して公認会計士等の外部の専門家に会計監査を実施させる義務が課されるわけではありません。しかしインドにおいては、全ての会社が監査役を選任し、中央政府に監査結果の報告をしなければなりません。
会社が受ける監査の種類は形態(公開会社、非公開会社等)・規模等に応じて、以下のような監査を受ける必要があります。
1.法定監査(Statutory Audit)
インドに存在する全ての会社が受けなければいけない監査です。日本の会計監査に相当し、財務諸表について監査を受ける必要があります。
2.税務監査(Tax Audit)
インド所得税法により、定められた監査です。1会計年度に600万インドルピーを売り上げたインド内国法人に適用されます。法定監査と税務監査を同一の監査人が行うことに問題はありません。
3.内部監査(Internal Audit)
上場会社、期首に払込済み資本金及び剰余金の合計額が500万インドルピー以上の会社、及び、直近3年間の平均売上高が5,000万インドルピー以上の会社においては、会計監査人はAudit Report(監査報告書)の中において、十分な内部監査システムを構築しているか否かの意見を述べなければなりません。
4.原価監査
中央政府が適当と判断した場合には、製造、加工業を営む会社に対して、原価会計士(Cost Accountant)による監査を受けるよう、命じることが出来ます。中央政府は、その監査報告に基づき、当該会社に対し、必要な措置を取る事ができるとされています。
また、その他、監査委員会による監査、中央政府が任命した特別監査人による、特別監査などがあります。