パキスタンの会社法
目次
1. 株主(株主総会) | ■株主数 ■株主総会 ■株主総会後の報告 ■総会決議の瑕疵及び取消し方法 |
2. 取締役(会) | ■取締役の人数 ■取締役の選任・解任 ■最高経営責任者(Chief executive) |
3. 会計監査人 | ■会計監査人 |
4. 会社秘書役 | ■会社秘書役 |
5. 株式 | ■株式の種類 ■増資 ■減資 ■自己株式 |
1. 株主(株主総会)
■株主数
パキスタンでは、一人会社の会社を除き複数の株主が必要です。まず非公開会社の場合には、2名以上の株主が必要となります。公開会社の場合には3名以上の株主を設置することが義務付けられており、これらを下回ることは許されていません。
もし下回った場合には、株主全員が会社が契約して負った債務に対して、個人的に弁済する責任を負うとともに(47条)、裁判所による解散事由(305条)となるので注意が必要です。
また非公開会社は、株主数が50名を超えることが認められていません(2条28号)。
パキスタン | 日本 | |||
---|---|---|---|---|
一人会社 | 非公開会社 | 公開会社 | ||
最低株主数 | 1名 | 2名 | 3名 | 1名 |
株主数の上限 | ― | 50名 | なし | なし |
■株主総会
パキスタンにおける株主総会は、創立総会、設立登記日から18カ月以内に開催され(158条1項)、その後1年に一度開催される定時株主総会、取締役が必要と認める場合などに開催される臨時株主総会の3つの種類があります。
●株主総会の種類
定足数
原則として、上場会社は、10名以上かつ総議決権の25%以上の株式を保有する株主の出席が必要であり、その他の会社は2名以上かつ総議決権の25%以上の株式を保有する株主の出席が必要になります(160条2項ab)。定款に定めることで要件を厳しくすることは認められます(160条2項ab)。
決議要件
株式会社では、払込額に応じて株主に議決権が与えられる、1株1議決権の制度を採用しています(160条4項)。
普通決議と特別決議があり、普通決議については明文規定がないため、過半数の賛成により可決されます。一方、特別決議は、出席した株主の議決権の4分の3以上の賛成多数決により可決されます(2条36号)。
決議方法
株主総会決議は、原則挙手制により行われます。しかし投票方式によることが要求される場合は、投票により決議を行います(165条)。ただし、投票を要求することができるのは10%以上の議決権を保有する株主等、一定の者に限られます(167条)。
●株主総会後の報告
特別決議が行われた場合、決議の日から15日以内に決議内容のコピーを登記局に提出しなければなりません(172条)。
●総会決議の瑕疵及び取消し方法
総会決議の取消しは、議決権の10%以上を保有する株主によって、総会終了後30日以内に行わなければなりません。主な瑕疵として、必要書類の不備及び欠陥、招集通知漏れ、その他株主の正当な権利行使を害する不正行為があります。
2. 取締役(会)
- ●取締役の人数
- 会社法上、取締役の人数が会社法で規定されていて、一人会社の場合、最低1名以上の設置が義務付けられます(174条1項a)。また、非公開会社では2名以上の取締役(174条1項b)、公開会社では3名以上の取締役(174条1項c)、公開会社のうち上場会社に該当する場合には7名以上の取締役(174条2項)の設置が義務付けられています。
- ●取締役の選任・解任
- 株主総会に取締役を選解任する権限が与えられているのは、日本と同様です。原則株主総会で後任の選任と同時に解任が行われます(178条、181条)。選解任共に普通決議により決議が行われ、取締役の任期は原則3年となります(180条1項)。
- ●最高経営責任者(Chief executive)
- パキスタンでは、経営代理人によって経営されている場合を除き、最高経営責任者を任命しなければなりません(198条)。
設立後最初の最高責任者は、事業開始の日から設立登記の日までの15日以内、もしくは取締役を選任した日から14日以内のいずれか早い方の日付までに任命しなければなりません。
取締役の4分の3以上の賛成による決議された場合、または株主総会特別決議により可決された場合は、最高経営責任者を解任することができます(202条)。
3. 会計監査人
日本では上場会社や会社法上の大会社のみに会計監査人設置義務がありますが、パキスタンで事業を行うすべての会社は会計監査人を置かなければなりません(254条)。
会社は、設立後60日以内に監査人を選任しなければならず、設立後120日以内に選任されない場合は、証券取引委員会(Commission)が選任することになります。
なお、公開会社の子会社である非公開会社、資本金300万ルピー以上の非公開会社に該当する場合は、勅許会計士協会のメンバーを監査人として設置しなければなりません(254条1項)。その他、1984年会社条例42条、43条において規定されている非営利団体と保証有限会社(COMPANIES LIMITED BY GUARANTEE)についても監査人の設置義務があります。
4. 秘書役(secretary)
パキスタンの会社法上、会社秘書役(Company Secretaries)の設置が、一人会社と上場会社に義務付けられています。日本の会社法にはない機関ですが、インドなどの西アジア諸国には多くみられます。 会社秘書役は、会社から第三者に交付する書類に対し信頼性を付与することを目的として設置され、会社のコンプライアンス強化を図ることを目的としています。
5. 株式
- ●優先株式
-
パキスタンの株式会社は日本と同様に、通常の株式と内容の異なる優先株式を発行することができます(90条)。 優先株式を発行した場合、その対価について、会社は株式プレミアム勘定(Share premium account)を用いて処理しなければなりません(83条1項)。
増資 パキスタンでは、株式対価の全額払込制が採用されており、未払込の株式がある場合には増資をすることができません(91条)。
株式の発行は、原則株主割当の方法で行われ、既存株主の持株比率に従って株式が割り当てられます。定款記載の授権資本金額(Authorised Capital)を超えて増資をする場合には、定款変更の株主総会特別決議の承認を得なければなりません。 また、増資決議通過した後15日以内に登記局に対して、増資を行った旨の届出が必要となります(94条1項)。違反すると、会社及び過失のある会社役員は違反期間一日あたり最大100ルピーの罰金が科されます(94条3項)。減資 会社が減資をするためには、裁判所の確認を受け、かつ、株主総会の特別決議の承認を得なければなりません(96条)。 減資に伴い、全額払い込みを終えていない株主の負債の免除、あるいは、全額払い込みを終えた株主への払戻しがある場合、裁判所が定めた期間内に、債権者は減資に反対することができます(99条1項)。
登記局は裁判所への減資申請書、裁判所が承認したことを示す書面を登録します(102条1項)。 - ●自己株式
- 取得手続自己株式の取得は、実質的に資本の払い戻しであるため、資本の空洞化を招き、債権者を害することになるため、株主総会特別決議で可決された場合に限り、自己株式を取得することができます。自己株式取得決議の招集通知には、自己株式を購入する目的等を記述した陳述書を添付し、事実を開示しなければなりません。
自己株式を買取る方法は、市場内での買付か株式交換で行う必要があり、自己株式取得の対価は現金でなければならず、分配可能額を超えることはできません。
貸借対照表上、取得した自己株式の額面金額の資本金を減少させることになりますが、市場価格より低い価格で自己株式を買取る場合、その差額を会社は引当金として計上しなければなりません。