今回LHDNが公表した税務事例
2026年9月15日、マレーシア内国歳入庁(LHDN)は、Income Tax Act 1967 Section 4(a)に関する税務事例として、Exceptional Landmark Sdn Bhdを対象とした判例を公表しました。
本事例では、同社が保有していた倉庫の売却益について、Real Property Gains Tax(RPGT)の対象となるCapital Gainとして取り扱うべきか、Income Tax Act Section 4(a)に基づくBusiness Incomeとして法人所得税を課すべきかが主な争点となりました。
Exceptional Landmark Sdn Bhdは2012年にShah Alamの倉庫をRM23.6 millionで取得し、改修後、多国籍企業との間で8.5年間の長期Leaseを締結しました。その後、2014年に元の売主であるREITから買戻しのオファーを受け、RM52.5 millionで売却しています。
LHDNは後にこの売却益をBusiness Incomeとして追加課税しましたが、納税者側はこれを争いました。最終的にSpecial Commissioners of Income Tax(SCIT)、High Court、Court of Appealの各段階で納税者側の主張が認められ、Court of Appealは2026年8月にLHDNのAppealを全員一致で棄却しました。
RPGTとBusiness Incomeの違い
RPGT(Real Property Gains Tax)とは、不動産などの資本資産の処分から得られる利益に課される税金です。一方、Business Incomeとは事業活動として得られた所得を指します。
マレーシアで不動産を売却した場合、売却益がすべて同じ税金の対象になるわけではありません。売却益の性質が「資本的な不動産処分によるGain」なのか、「事業としての売買から生じたBusiness Profit」なのかによって、適用される税法が異なります。
- Capital / Investment Assetの処分
マレーシア不動産をCapital / Investment Assetとして保有した場合の処分:原則としてReal Property Gains Tax(RPGT)の領域
- Trading Asset / Stock-in-Tradeの売却
販売・転売を目的とするTrading Asset / Stock-in-Tradeの売却:Income Tax Act 1967 Section 4(a)のBusiness Incomeの領域
ただし、会計上Investment PropertyやNon-current Assetとして計上しているだけで自動的にRPGTとなるわけではありません。取得目的、保有中の利用方法、賃貸実績、会計処理、改修の目的、販売活動、売却に至った経緯など、取引全体の実態から判断します。
Exceptional Landmark Sdn Bhdの取引内容
Exceptional Landmark Sdn Bhdは、2012年7月にShah Alamの倉庫をReal Estate Investment Trust(REIT)からRM23.6 millionで取得しました。取得後、倉庫を賃貸可能な状態にするためRepair and Maintenanceを行い、多国籍企業との間で8.5年間の長期Leaseを締結しました。
約2年後の2014年8月、もともと倉庫を売却した同じREITから、賃貸中の倉庫をRM52.5 millionで買い戻したいとのオファーがあり、Exceptional Landmarkはこれを受けて売却しました。
- 取得
2012年7月、RM23.6 million
- 保有中
Repair and Maintenanceを実施し、8.5年間の長期Leaseを締結
- 売却
2014年8月、元の売主であるREITからのオファーを受けRM52.5 millionで売却
当初はRPGTとして処理、その後LHDNが追加課税
Exceptional Landmarkは、この売却益をBusiness IncomeではなくReal Property Gainとして扱い、RPGT ReturnをLHDNへ提出しました。さらに、売却先がREITであったため、Real Property Gains Tax (Exemption) (No. 4) Order 2003に基づくRPGT免除を適用しました。LHDNは当時、この処理に対してCertificate of Clearanceを発行しました。
しかし2017年11月、LHDNは当該売却を単なるInvestment Assetの処分ではなく「Adventure or Concern in the Nature of Trade」に該当すると判断し、Income TaxおよびPenaltyを合わせてRM7,231,103.96のAdditional Assessmentを発行しました。
LHDN側にとっては、約2年という比較的短い保有期間、大幅な売却益、取得後の改修等を踏まえた場合、この倉庫が本当にInvestment Assetだったのか、それとも実質的にはTrading Assetだったのかが重要な論点となりました。
納税者側がSCITへAppeal
Exceptional LandmarkはLHDNの追加課税を争い、Special Commissioners of Income Tax(SCIT)へAppealしました。SCITでは、取引が投資なのかTradeなのかを判断するための「Badges of Trade」が総合的に検討されました。
- 倉庫は同社が保有する唯一のPropertyであった
- 多国籍企業との間で真正な8.5年間の長期Leaseを締結していた
- Audited Accounts上、一貫してNon-current Assetとして処理していた
- 会社自身がBuyerを探すMarketingやResale活動を行っていなかった
- 売却は会社側から仕掛けたものではなく、元の売主からの予期しない高額な買戻しオファーを受けた結果であった
SCITはこれらを総合し、売却益はTrading IncomeではないとしてExceptional Landmark側の主張を認めました。
LHDNがHigh Court、さらにCourt of AppealへAppeal
SCITで納税者側の主張が認められた後、LHDNはHigh CourtへAppealしました。しかしHigh CourtもSCITの事実認定を支持し、LHDNのAppealを認めませんでした。
その後、LHDNはさらにCourt of AppealへAppealしました。Court of Appealは2026年8月、3名の裁判官による全員一致でLHDNのAppealをDismissし、SCITおよびHigh Courtの判断を維持しました。
- SCIT
Exceptional Landmark側の主張を認める
- High Court
LHDNのAppealを棄却
- Court of Appeal
LHDNのAppealを全員一致で棄却
さらに当事者間の合意に基づき、Court of AppealはLHDNに対し、納税者が支払ったIncome Taxを2026年12月31日までにRefundするよう命じました。
Court of Appealが示した重要な考え方
今回の判例で重要なのは、「短期間で不動産を売却した」という一つの事実だけでBusiness Incomeと判断することはできないという点です。Court of Appealは、SCITがBadges of Tradeを適切に検討しており、その事実認定に不合理性や証拠との矛盾はないとして、介入しませんでした。
したがって、不動産売却益の税務上の性質は、保有期間だけではなく、取得から売却までの行動を総合的に確認して判断します。
- 取得時の目的
投資・自社利用か、転売目的か
- 保有中の利用
自社利用・長期賃貸等の実態があるか
- 会計処理
Non-current Assetか、Inventory / Stock-in-Tradeか
- 改修目的
使用・賃貸のためか、転売価値を高めるためか
- 販売活動
Buyer探索やMarketingを積極的に行ったか
- 売却理由
当初から予定された転売か、後発的な事情による処分か
- 取引頻度
同様の不動産売買を継続的に行っているか
日系企業への実務上の影響
マレーシアの日系企業でも、工場、倉庫、オフィス、投資用不動産等を売却するケースがあります。この場合、「不動産を売却したからRPGT」「短期間で売却したからBusiness Income」と機械的に判断することはできません。
例えば、製造会社が工場・倉庫を長期使用または賃貸する目的で取得し、Non-current Assetとして計上し、実際にその目的で使用した後、事業再編や第三者からのオファーを理由に売却した場合、その一連の事実はCapital / Investment Assetとしての性質を裏付ける重要な証拠となります。
一方、当初から転売益を得る目的で取得した、販売活動を積極的に行った、同様の売買を反復している、Inventoryとして処理している等の事情があれば、Business Incomeと判断される方向に働きます。
企業が確認・保存すべき事項
- 不動産取得時のBoard Resolution、Investment Paper、取得目的を示す社内資料
- Fixed Asset / Investment Property等の会計上の分類とAudited Financial Statements
- Lease Agreementや自社利用実績など、保有目的を示す資料
- Repair / Renovationの目的・内容を示す契約書、Invoice等
- 売却に至った経緯を示すOffer Letter、Email、Board Minutes等
- Buyerを積極的に募集したか否かを確認できるMarketing資料
まとめ
LHDNとの争いになった場合、取得時点の意図を後から口頭で説明するだけではなく、取得時から売却まで一貫したDocumentary Evidenceを残しておくことが重要です。不動産売却益の税務上の性質は、保有期間だけではなく、取得から売却までの行動を総合的に確認して判断されます。マレーシアで不動産を保有・売却する日系企業は、取得時から売却時までの記録を体系的に整備しておくことをお勧めします。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、具体的な税務アドバイスではございません。マレーシアの税制に関する具体的なご質問やお困りのことがございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせください。
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