税理士の平均年齢は60歳を越え、完全な成熟(もしくは衰退)産業となっている今、我々は、いかなるビジョンを持ち、業界を変革していくべきなのでしょうか?
これを考える前に、企業には、『変えてはいけないもの』『変えなければならないもの』が存在していると思います。この2つを混同しないように最初に考えてみたいと思います。
『変えてはいけないもの』・・・存在意義・理念・哲学
社会に対して貢献していくこと。
そのために人材を育成し続けること。
これが、どんな企業にとっても究極の目的と思います。これを実現する方法として、経営理念・経営哲学・長期ビジョンなどが作られると思います。
経営理念や経営哲学も時代と共に変化するものではありますが、社会に対して貢献し続けることは、どんな時代が来ても変わらない企業の役割と思います。
逆に考えれば、企業が倒産するのは、その企業に存在意義である「社会的使命」がなくなったためともいえます。
『変えなければならないもの』・・・ビジョン・戦略
中長期ビジョン・戦略・戦術など、時代の流れ(時流)に従って企業が変化し続けなければならないものです。
「時流」に乗らなければ、企業が大きく成長することはありません。なぜなら、時流とは、成長機会だからです。
しかし、「時流」ばかり追いかけていては、長期的に成長し続けることはありません。それは、経営の本質に反するものだからです。
この2つを混同することなく、我々は、長期ビジョン・中期ビジョン、それを具現化するための戦略を策定しなくてはなりません。
『企業はどこまで成長すべきなのか?』
どこまで成長すべきかとは、言い換えれば、企業の「適正規模」の問題です。
ミクロ経済学では、企業に適正規模(利益が最大化される企業規模)があるといわれます。
しかしながら、本来、社会に貢献していくことを企業目的と考えれば、貢献に適正水準などないはずです。あるとすれば、経営者が、社会に対し、貢献する方法(これを、成長機会という)を見出していないことが原因です。
よく、私は、
「どこまで、会社を大きくつもりですか?」
と聞かれることがあります。
この質問に対して、
「会社が潰れるまでです。」
と即答します。
会社が潰れる原因は、会社が社会に貢献できなくなったことであり、すなわち、社会的使命の終焉といえます。
企業の舵取りは、船の舵取りと同じで、規模が大きくなるほど、難しくなります。
それは、経営環境の変化への対応が困難になるからです。船は、大きくなるほど安定して見えますが、小回りは利かなくなります。
従って、小さな船(会社)の方が操縦はしやすく、環境変化にも早く対応ができます。経営者の中には、自分が舵取りできる範囲での会社の規模を適正規模と考える人もいます。
しかし、会社が公器であるとするのなら、会社の規模は、社会の利益で判断すべきです。社会は、より大きな貢献を我々に求めているので、社会的観点から企業規模を決めなくてはならないのです。
従って、企業が大きくなることは、小回りが利かなくなり、社会的変化への対応が困難となり、結果として倒産リスクも増します。
私は、そのリスクをあえて取れるか否かが、経営者の志・社会的使命感の高さだと思います。そのような経営者になりたいと思っています。
『税理士業界発展の歴史』
税理士の仕事は、今、非常に大きな転換期を迎えていると思います。
今までの成功体験が機能しなくなってきたのです。
それは、会計や税務のコモディティー化が要因です。
しかし、これを単に悲観的な発想をしていると思ってはいけません。
むしろ、悲観的ではなく、リスクマネジメントと考えなければなりません。
経営者に必要なのは、単に楽観的な考えを持つのではなく、もっとも悲観的な状態を想定して、それを十分にカバーするだけの戦略を持った上で、楽観的に行動することが必要です。
さて、税理士の業務を考える上で、今までの『時流』を振り返ってみたいと思います。
ビジネスチャンスは、時代が動いたとき、つまりズレを調整する時に発生します。「時流」に乗ることと、経営の本質を追求することは異なりますが、「時流」に乗らない限り、ビジネスが大きくなることはありません。
(1)コンピュータ会計導入指導
TKCに代表されるように、中小企業にとってコンピュータが高価な時代に、コンピュタや会計ソフトをリースし、「共済」の発想で、コンピュータ会計を薦め成功した時代がありました。1980年代に全盛期を迎えました。
このビジネス・モデルも、コンピュータが高価であったという、時代の「ズレ」を調整するもので、やがて、弥生会計に代表されるように安価なソフトが台頭したことによって、ビジネス・モデルの有効性が薄れていきました。
(2)資産税・医療特化型の会計事務所
1990年頃にバブル全盛時代を迎えると、土地の価格が高騰したことによって、相続が社会問題化していきました。これによって、資産税のニーズが高まり、資産税を専門とした会計事務所が注目されました。
しかし、バブル崩壊後、土地の価格が下落したことによって、資産税マーケットも小さくなってしまいました。税理士受験生の間では、いまだに資産税マーケットに幻想を抱く人が多くいますが、実際は、夢を見られるほどのものではないと思います。
医療専門型も医師の数が増加したことによって、病院の収益性が悪くなり、顧客単価が大きく落ち込んでいきました。
(3)企業再生リストラコンサル・SPC(証券化)
バブル崩壊によって、多くの企業が倒産し、これによって企業再生という新たなビジネスが興りました。
企業再生ビジネスは、景気回復によって終焉を迎えました。ェ、そのきっかけは、多くの税理士受験生が、就職先がなく、実務経験を積むチャンスがなかったので、それを解消させるためです。
つまり、税理士になりたい人は多いのに、就職先である会計事務所の募集が少ないという「ズレ」を調整したのです。
今後は、日本における労働人口が減少するので、いつまでも人材ビジネスがもてはやされるわけではありません。むしろ、人材ビジネスは淘汰が始まる時期に来ているといえるでしょう。
であれば、決して深追いする必要もありません。
『これからの「時流」はなにか?』
私は、これからの税理士業務の時流は、「国際税務」と思っています。
私が、PWにいたころ、クライアントの大半は、外資系だったので、PWの税務のほとんどは国際税務でした。
当時、国際税務に強い会計事務所は、外資系監査法人しかなかったので、かなり高付加価値サービス(高い収益性)を展開することが可能でした。
しかし、このようなサービスは、監査法人内だけで使える「辺境の技術」で、独立や国内系の会計事務所に就職した場合は、あまり意味がないとも思われていました。
あえて、私が今後、国際税務にこだわろうと思うのは、「ボーダレス化」をキーワードにしているからです。
国際化と言われて久しいですが、かつての国際化とは、少しニュアンスが異なります。
ある雑誌で、大前研一氏が、バブル崩壊後、日本人は、「不況」と「デフレーション」を混同してきたと指摘していました。
これは、非常に鋭い指摘です。
「好不況」とは、景気循環からくる概念です。
不況は時が経つことによって好況に変わります。
これに対して、デフレーションとは、「物価の下落」です。
その最大の要因が、ボーダレス化による、安くてよい製品が、特に中国から日本に大量に流入したことが原因です。
つまり、デフレーションとは、物価の国家間の格差(ズレ)を調整するものに過ぎないのです。
このように考えれば、デフレーションは、単なる物価調整に過ぎず、時間が経っても、インフレに向かうわけではありません。
少し前に話題になった、「インフレ・ターゲット論」は、マネタリズムの観点からすれば、単に、通貨量の増加によって、名目価格を上昇させるのみで、これは、為替の調整(円安に向かう)によって、実需経済になんら影響を及ぼすものではありません。
むしろ、ハイパー・インフレーションを引き起こす要因にもつながります。
デフレーションとは、決して悪いものではなく、「ボーダレス化」による物価調整機能であったということを強く認識しなくてはなりません。
さらに、今後益々、「ボーダレス化」が進むことが簡単に予測できます。
景気循環を読むことは難しいですが、ボーダレス化の進行は、ある程度読みやすいものです。そうすると、今後の時代の流れがある程度見えてきます。
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