シンガポールの個人所得税、給与設計の前に注目!

税務

合理的でシンプルな税制と手厚い政府のサポート体制が納税を支えるシンガポール、駐在員の個人所得税計算も難しいことはありません。

しかし、保険、年金、各種手当など、日本とは異なる制度で運用される部分が多いのも事実で、出向者を派遣するシンガポール駐在員の給与設計には、日本の人事再度も悩まされるものです。

今回は、そんな給与設計の一助となるべく、一般的な日本企業からのシンガポール駐在員で関わる、個人所得税の課税所得についてお伝えします。

まずは税制を確認!

シンガポールの個人所得税は、駐在員事務所と支店を除き、原則として事前納付や源泉控除はなく、1月1日から12月31日までを所得計算期間とし、納税者は翌年3月1日から4月15日(電子申告では18日)までの期間に確定申告を行います。

原則シンガポールで就業するすべての人が個人所得税対象者ですが、年末ぎりぎりになって赴任した外国人駐在員などは、申告・納税の義務から免れることがあります。

こうしたことは、個人宛に当局(IRAS)から届けられる書状によって、申告・納税の義務があるか否かを判断することができます。

申告を終えると1年以内に税額通知(NOA)が届きます。これに従って銀行送金などで税金を納めれば完了です。

会社負担でもいいの?

シンガポール駐在員の個人所得税について、会社負担とする日本企業は少なくありません。

こうした場合、他国であれば会社が負担する個人所得税の納税額自体も個人の所得に算入すべきだということで、グロスアップ計算等面倒な計算が必要になる印象がありますが、シンガポールでは個人所得税の申告に際し、会社負担であるか、本人負担であるかを記載するだけで、当局が自動的にグロスアップ計算してくれる制度になっています。

納税額計算機としてエクセルシートも公開されており、非常にオープンな税制と言えます。

現物給与って何?

個人所得税の課税所得計算で少し厄介なのが、現金として支給されるではない会社からの福利など、現物給与(Benefit in Kind)と呼ばれるものです。

例えば、住宅手当は金額としてはっきり出ますが、会社が住宅費用を負担する場合は実際に支払われた金額ではなく、駐在員が居住する当該住居の実際的価値、年間価格(Annual Value)というものを調べて申告するべきだとされています。
(年間価格の参照サイト:https://mytax.iras.gov.sg/ESVWEB/default.aspx?target=PTEVLListIntro

社用車を会社負担で使用させたり、ドライバー付き自動車を会社で利用している場合、駐在員の個人使用享受金額として、マイレージ単位で計算した利益享受金額の3/7を個人所得税の課税所得とするなど、複雑な計算が用意されています。

その他、衣服や道具を含め、原則として仕事以外で利用できるものを会社が付与する場合には、そのうち個人享受金額と算定される分が、個人所得税の課税所得に算入されると理解しましょう。

判断が難しいのはこれ!

特にシンガポール駐在員本人が個人所得税を負担する場合、課税所得にならないのであれば会社負担とした方が個人の負担が減ることになるため、現物給与が課税所得になるかどうかは給与設計をする上で重要な観点です。

  • 通勤手当:業務上必要な交通費の清算とは別に、家から会社までの往復交通費を会社が負担する場合、この通勤交通費の会社負担分は課税所得になります。
    ただし、時間外出勤、残業後の帰宅の際に、タクシーなどを利用して帰宅する場合、それが会社のポリシーとして全従業員が利用できる福利として存在している場合に限り、非課税とされます。
  • 子女養育費:小学校以降の養育費を会社が負担する場合、その負担額が全額課税所得になります。
    ただし、保育園(Childcare Centre)の中、政府公認の施設に入所させる費用については、会社が負担しても非課税となります。
  • 交際費と食事手当:交際費(Entertainment)として会社に払い戻し請求をする場合には、個人所得税としては非課税になります。
    一方、毎月食事手当として定額の支払いがあるような場合には、課税所得に算入されます。
    しかし、残業した場合に会社負担で夕食を負担するような制度が全従業員に適用されている場合、こちらは非課税となります。
  • 出張日当と旅行保険:交通費と宿泊費用を除いた食事用の手当などとして支給される日当は、シンガポール当局が独自に毎年算定する各国ごとの許容範囲を基準に、それを超えた金額のみが課税所得とされます。
    参照(https://www.iras.gov.sg/irashome/Businesses/Employers/Tax-Treatment-of-Employee-Remuneration/Per-Diem-Allowance/Acceptable-Rates-for-Per-Diem-Allowance/
    一方、旅行保険は従業員全員が享受できる会社のポリシーとして出張に際して付与されるものに関しては非課税とされています。
  • 保険料と医療費:上記旅行保険を除き、保険料の取扱いは、会社が全員を対象に加入する団体医療保険に関してのみ非課税、残りは課税所得とされます。
    一方、体調不良などで医療費がかかった場合の払い戻し請求も、従業員全員が享受できる会社のポリシーとして制度化されている範囲内において支払われるものについては、非課税となります。
  • 航空券:シンガポール駐在員が福利として一時帰国する場合の航空券、交通費、宿泊代が会社負担とされた場合、全額個人の課税所得となります。

日本側支給分の算入方法は?

シンガポール法人、支店、駐在員事務所などでの就労に対する対価として支払われる給与や手当については、シンガポール国内か国外かによらず、一律個人所得税の課税対象となります。

従って、日本側で支払われる給与所得も一律課税所得となります。これは、日本法人側がシンガポール法人等に駐在員給与日本側支給分を請求しない場合でも課税所得に算入する必要があるため要注意です。

少し難しいのは日本側の社会保険料と厚生年金です。いずれも本人と会社が折半して負担する場合が多いため、課税所得としては会社負担分が追加される形になりますが、厚生年金は以下の条件すべてに該当すれば非課税となります:

  1. 政府機関により運営されている。
  2. 会社が拠出することを求められる。
  3. シンガポール法人等がこれを負担しない。

つまり、通常の日本企業の厚生年金である場合、この会社負担分をシンガポール法人等に請求しなければ、個人所得として課税されません。

ストックオプションもお忘れなく!

日本法人の側で付与されるため、シンガポール法人等とは関係ないと思われがちなのが株式です。

シンガポール法人等での就業に対する対価として支給されるストックオプションは、その権利を行使するときの時価、または行使せずに帰国する時の時価に応じて課税されます。

忘れずに課税所得として申告が必要です。

以上、論点は様々ですが、大まかに傾向をつかみながら、細かいところは当局や会計事務所に問い合わせて確認しながら進めていくようにしましょう。

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