シンガポールにおける整理解雇の手順

労務

政府のコロナ対策により、活動制限と経済支援が続くシンガポール、当然ながら、徐々に持ちこたえられなくなる企業が増え、整理解雇される従業員も増えてきました。

失業率の増加を何としても防ぎたいシンガポール政府当局は、様々な対応を行っていますが、一方では元々時代の変化に乗り遅れ、利益率の低くなっていた産業が淘汰されているともいわれる現在、整理解雇はある種のリストラクチャリング手法として、徐々にその条件が定まってきていると言えます。

今回は、シンガポールにおける整理解雇の手順と注意点をまとめてお伝えします。

最初に行うべきは相談

相談すべき相手は、会社のトップや日本にある本部だけとは限りません。

社会の状況から会社の将来像をイメージし、そこでどうしても雇用継続することにならない従業員を整理解雇することになるわけですが、それにどれくらいお金を使うべきか、どのタイミングでどのように実行すべきか、他に気を付けるべきことはないか等、シンガポール国内の事情を鑑みて判断すべき要素も多く出てきます。

この点、シンガポールは外国企業を誘致して栄えた国であり、コロナ禍でも比較的企業に寄り添った対応をしてくれます。

具体的には、人的資源省MOM、非政府機関TAFEPなど、直接的に整理解雇やそれに代わる手段を相談できる機関が存在します。

また、コンサル会社や弁護士事務所など、外部のサービスを利用することで、会社の損失を最小化するよう努めることを考えるべきです。

何よりも大切なのは、下に見るように、会社の財源がなくなってしまった後では非常に苦しい状況に陥るということであり、整理解雇を行うことになるのであれば、できるだけ早い段階で意思決定を行う必要があります。

少しでもリストラクチャリングの話題が俎上に上ったら、すぐに相談を始めるべきだと考えられます。

整理解雇をするなら給与計算も行う

次に行うべきは、上記、相談の上で定めた整理解雇対象者の給与額の算定です。

シンガポールではRetrenchmentと呼ばれる整理解雇、会社の状況により全く払えないこともあるという理由で法律化されてこそいませんが、殆ど確実に支払いが命じられるのが解雇手当、Retrenchment Benefitです。

金額は、全く払えないのでなければ、勤続年数×基本給ひと月分または半月分、という金額を支払うことが強く推奨されています。

非常に長期間働いてきた従業員については、あまりにも大きな金額になるため、勤続年数×基本給一週間分、という金額になることもあります。

また、通知期間Notice Periodの給与も算定します。

こちらは法的な基準(勤続期間により、1日~1か月)も存在しますが、一般的には契約書に基いて、確実に従業員に付与しなければならない期間となります。

また即日解雇するとしても、必ず該当期間分の給与(Payment in lieu of notice)を支払うことが会社に求められます。

コロナ禍では、従業員を働かせられない多くの会社が月給を割り引いていますが、このNotice Period/Payment in lieu of noticeの給与については、元々の給与金額に基いて支払うことになる点、注意が必要です。

更に、シンガポール強制積立金、CPFも懸案事項になります。

法律上、整理解雇手当はCPFの対象外ですが、上記通知期間中の給与とPayment in lieu of noticeについては、前者のみがCPF対象、後者は別の会社で働き始める可能性もあるということで、CPF対象外となる点、注意が必要です。

解雇通知は交渉を覚悟

金額を定めたら、書面で解雇通知を作成し、対象の従業員に整理解雇を通知します。

従業員の性格や会社との関係性に依存する部分ではありますが、必ずしも会社側の提示するRetrenchment Benefitに納得する従業員ばかりとは限りません。

もっと欲しいと言われたり、そもそも家庭のローンがあるのだから辞めることになったら生活できないと、泣きついてこられることもあります。

会社としては、できる限り低く経費を抑えて従業員を納得させる必要があります。

次の会社で働くための推薦状を書いてほしいと従業員に言わせるよう誘導し、少しでもレバレッジを効かせて従業員に署名をもらえば、調停機関TADMなどに従業員が不当解雇を訴えるのを防ぐことができます。

また、いくらコロナ禍で出勤がなくなっている従業員であったとしても、書類だけを送り付けて解雇を通知することは強い反感を招きます。

遠隔でZoomミーティングのようなことをしてでも、直接会社の責任者から声掛けと説明を行い、会社の事情をつまびらかにして納得を求めることが重要です。

交渉の結果、事前にした計算と異なる金額を付与することになった場合、すぐに解雇通知の内容を書き換え、従業員に渡るように気を付けるべきです。

従業員への通知の後は忘れずMOMにもオンライン通知

従業員への整理解雇通知が完了した後は、一週間以内にMOMに整理解雇内容を通知(Notification)する必要があります。

専用サイトで必要情報を入力するだけ、10分ほどで完了する内容ですが、半年以内に5人以上の従業員を整理解雇する場合には、必ず通知することが求められているため、注意が必要です。

エクセルファイルをダウンロードして、そちらをアップロードする形でも通知が可能ですが、最初にCorpPassによるログインが必要になる点にも注意が必要です。

基本的にはこちらの内容でMOMから問い合わせを受けたり、TAFEPから指導を受けたりすることはありませんが、会社の財務状況如何によらず、従業員との紛争を避けるため、できる限り常識的な金額でRetrenchment Benefitを支払うべきだという忠告がなされます。

それを自分の主張に役立て、従業員が退職金を要求してくるようになれば、会社がいくらそれまで雇用を維持してきたと訴えても、支払いを求められることになりかねず、苦しい立場に追い込まれます。

早め早めに対応することで、できる限り会社が支払いを求められるリスクを軽減することが賢明と言えます。

税金と就労許可の処理

最後に、外国人従業員の就労許可の処理と、タックスクリアランスを行います。

タックスクリアランスは企業がIR21というフォームでオンライン申告を行い、従業員の最終給与から税金相当額を控除して支払うものですが、仔細に従業員情報が尋ねられるため注意が必要です。

また、シンガポール住民についても、最終的にはIR8Aというフォームを全員に発行することが必要になりますので、こちらを整理解雇時に発行しておくことが推奨されます。

さらに、従前には給与計算ソフトから出力される内容だけで足りましたが、現在はAISという企業側が入力する制度に入れ替わりつつあり、こちらに登録している場合には、翌年3月1日までに実行すべき税務申告も、整理解雇時に実行してしまうことが望ましいと考えられています。

以上、シンガポールにおける整理解雇についてお伝えしました。

慎重になることはもちろん重要ですが、従業員の通知までにもいくつか決定すべきことがあり、しかも通知の時点で交渉になるケースもあるため、後々会社にお金がなくなって支払いが増えるような、苦しい思いをする前に、早期の意思決定をしてしまうこと、またそのための相談をできれば複数、相当早い段階で行っておくことが強く推奨されます。

労務に関するお問い合わせはもちろん、税務や会計に関するお問い合わせも、お待ちしております。


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