こんなにあるの!?シンガポールの従業員手当を検証!

会計

海外赴任者でなくとも、労働報酬として様々な従業員手当を受取る可能性があるのは日本もシンガポールも同じです。

しかし、シンガポールでは個人所得税(Individual Income Tax)に加えて、中央積立基金(Central Provision Fund:CPF)という強制的積立金制度が存在するため、従業員手当は非常に細かく分類、管理されています。

今回は、会計上の区分に役立てていただけるよう、この従業員手当についてお伝えします。

必要な手当もある?

まず、基本的な法的事実ですが、シンガポールでは雇用に関するすべての権利と義務が契約によって定められます。

従って、雇用契約書や就業規則書で約束された福利や手当がなければ、支給するのは基本給だけで構いません。

一般的な手当は?

半数を超えるシンガポールの会社が導入している一般的な手当は以下の通りです

  • Annual wage supplement / bonus(13か月目給与):個人所得税をカバーする意味がある
  • Per diem allowance(出張日当):勤務時間以外に拘束される移動時間や準備時間を補償する
  • Transport expenses(通勤手当):自宅と会社までの往復分の交通費

以上はすべてCPFの対象となりますが、Per diem allowance(出張日当)だけは、一定の金額までは旅費の精算として会社の費用と見做すことができ、個人所得税の対象ではなくなります。

この一定の金額には、毎年現地の物価などにより更新される許容可能金額(Acceptable Rates)を参照します:

https://www.iras.gov.sg/IRASHome/Businesses/Employers/Tax-Treatment-of-Employee-Remuneration/Per-Diem-Allowance/Acceptable-Rates-for-Per-Diem-Allowance/

インセンティブも手当

給与に敏感なシンガポール従業員のリテンションやモチベーション維持のため、多くの企業では以下のような手当が支給されています:

  • Commission/Incentive allowance/Sales performance award/Productivity award(インセンティブ)
    :売上に応じて上下させたり、生産高の目標を設定して達成したら与えられる形にすることが多い
  • Long service award(長期勤続賞与)
    :一定期間勤続したら与えられる報奨
  • Share option(ストックオプション)
    :会社の成長に貢献した従業員に与えられる
  • Termination benefits(退職金手当)
    :定年まで勤続した人間に与えられる

個人所得としてCPFの対象にもなる各種インセンティブを除くと、税務上の扱いは複雑です。

Long service award(長期勤続賞与)は、5年以上の勤続に対して、1か月分の基本給金額でもって付与される限り、CPFの対象になりません(個人所得税は対象)。

Share option(ストックオプション)は、現金として取得した金額のみがCPFの対象となり、個人所得税はオプション行使時に利益が発生した金額についてのみ課税されます。

Termination benefits(退職金手当)は原則個人所得とみなされますが、整理解雇と同様、退職後の期間を補償する意味合いで付与される場合はCPFの対象外となります。

また、飲食業など従業員の管理が重要な業界では、以下のような手当もしばしば設けられます:

  • Attendance allowance(皆勤手当)
    :遅刻なく出勤すれば付与される
  • Finders introduction fees(紹介手当)
    :他の従業員を紹介して入社させると与えられる

いずれも個人所得課税対象ですが、Finders introduction fees(紹介手当)に関しては勤務に関係のない所得であるため、CPFの対象外となります。

福利厚生を充実させるには?

保険購入が絶対出ないシンガポールでやや一般的な福利となるのが以下の手当です:

  • Car allowance(自動車手当)
    :本来通勤手当の代わりだが、自家用車で様々な活動が可能となるよう、駐車代やガソリン代、カーローンまでカバーすることがある
  • Flexible benefit expenses/Staff welfare benefits(従業員福利)
    :医療費その他の個人的費用を会社負担として払い戻す
  • Meal expenses/Entertainment expenses(食事手当)
    :顧客と外食する際などに使えるよう付与する
  • Handphone and pager expenses(電話手当)
    :会社負担で携帯電話などを利用させる

いずれも公私混同が起きやすい点、扱いには注意が必要ですが、会社の必要経費だと見做される範囲においては個人所得ではなく、CPF対象でもないという考え方が適用されます。

教育目的では以下のような手当もしばしば設けられます。

  • Dirt allowance(実地手当)
    :他国の研究や実地調査などのために与えられる
  • Education / training reimbursement(研修手当)
    :研修費用などを会社負担とする
  • Prizes given in contest(コンテスト賞与):
    デザインコンテストなどで優秀な成績を収めると与えられる

以上、基本的に個人の所得として、CPFの対象とされています。

さらに魅力的な会社へ?

その他、会社の任意で与えられる手当として以下のようなものもあります:

  • Anniversary cash award(記念日手当)
    :会社の創立記念日に与えられる
  • Extra duty allowance(非常勤務手当)
    :雇用契約外の勤務に対して与えられる
  • Stand-by duty allowance(待機手当)
    :業務遂行せず発生する待機時間に対して与えられる
  • Festive allowance(祝日手当)
    :旧正月など、祝日に与えられる
  • Holiday expenses(休暇手当)
    :長期休暇取得時に使えるよう与えられる
  • Grooming and hair cut allowance/Laundry expenses/Personal clothing allowance(容姿・服装手当)
    :身だしなみを整えるために付与される

以上はすべて個人所得税、CPFの対象となります。

駐在員の一般的な手当は?

外国人比率が40%と言われるシンガポール、多くの駐在員が派遣されてきています。本国の雇用契約書や出向契約書で定められることの多い手当としては以下のものがあります:

  • Cost of living allowance(外国生活手当):日本での生活と比較して余分にかかると思われる生活を補償する
  • Education allowance(学習・教育費手当):駐在員自信の語学学習や子女の通学費用を補償する
  • Housing / rental expenses(住宅手当):外国での住宅費用を補償する
  • Home package benefit(一時帰国福利):年間1~2回、会社負担で帰国させる

CPFを支払う外国人駐在員はまれですが、以上はすべて個人所得税の対象であり、シンガポール国籍を取得する、または永住者となる場合にはCPFの対象にもなります。

手当は本当に意味があるのか

以上、様々な福利厚生、従業員手当を見てきましたが、そもそも目的は事業を遂行するために必要な人材を確保し、優良な環境の下で従業員を働かせることにあります。

欧米の企業の影響を受け、優秀な人材を確保するために福利厚生にお金をかける企業は多いですが、最も大切なのは事業を成り立たせることです。

自社の手当てに疑問を持たれる場合には、事業を効率よく進めるための組織論で整理をしてみるのが効果的です。

会計に関するお問い合わせはもちろん、労務や税務に関するお問い合わせも、お待ちしております。

株式会社東京コンサルティングファーム  シンガポール法人
近藤貴政

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