バングラデシュ市場のポテンシャルと進出への道

本記事の構成

はじめに

なぜ今、バングラデシュなのか?

「国内市場の成長に限界を感じている」「新たな海外市場を開拓したい」——そうお考えの経営者の皆様にとって、バングラデシュは魅力的な選択肢の一つではないでしょうか。しかし同時に、「具体的にどんなメリットがあるの?」「リスクはないの?」「どうやって進出すればいい?」といった疑問や不安も尽きないかもしれません。特に、資金や人材に限りがある中小企業にとって、海外進出は大きな決断です。

この記事では、バングラデシュに駐在するコンサルタントである私が、皆様の不安を解消し、バングラデシュ市場が持つ真の魅力と可能性をデータに基づき分かりやすく解説します。

未開拓のフロンティアが秘める巨大な可能性

近年、中国やASEAN諸国に続く「次のアジア」の成長市場として、バングラデシュが世界から注目を集めています。人口ボーナス堅調な経済成長を背景に、単なる生産拠点としてだけでなく、巨大な消費市場としての潜在力も秘めています。

欧米や中国、韓国の企業は既にこの有望な市場に目を向け、ビジネスを開始しています。貴社が新たな事業の柱を築き、企業の持続的な成長を実現するためには、この未開拓のフロンティアを早期に認識し、戦略的にアプローチすることが不可欠です。

多くの経営者が抱える海外進出への疑問と不安

海外進出は、特に中小企業にとって、以下のような具体的な課題を伴います。

  • 投資回収の見通し
  • 複雑な法規制
  • 不安定なサプライチェーン
  • 現地での優秀な人材確保

また、「費用対効果はどうか」「導入後のサポートは得られるのか」といった具体的な疑問をお持ちの方も少なくありません。本記事では、これらの不安を一つずつ解消し、皆様がバングラデシュ進出の検討を進められるよう、具体的な情報と実践的なアドバイスを提供してまいります。

バングラデシュの経済的ポテンシャルを紐解く

1. 豊富な人口と若年層がもたらす巨大な国内市場

バングラデシュは、その人口規模において世界有数の国です。

  • 人口: 国連の「世界人口推計2022」によると、2025年には約1億7,570万人に達し、2050年には2億人を超える見込みです。 [出典:United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2022). World Population Prospects 2022.]
  • 若年層: この膨大な人口の多くが若年層であり、将来にわたる労働力の供給源となるだけでなく、国内市場の巨大な潜在的消費力を意味します。
  • 貧困率の改善: 世界銀行のデータによると、バングラデシュの貧困率は着実に改善しており、2022年には18.7%まで減少しました。[出典:World Bank, "Bangladesh Development Update", October 2023]
  • 中間層の拡大: 中間層も拡大を続けており、購買力の向上が見られます。

これらのデータは、バングラデシュが単なる生産拠点ではなく、巨大な消費地としても非常に有望であることを明確に示しています。

下記のグラフのように、バングラデッシュはこの先も継続して人口が増加すると予測されており、また15~64歳のいわゆる「生産人口」の割合がとても高い国です。そのため、GDPの継続的な成長が期待されており、2027年の推測では1年で7%もの成長が期待されています。

2. 驚異的な経済成長率と安価な労働力の実態

バングラデシュは近年、堅調な経済成長を続けています。

  • 実質GDP成長率: 国際通貨基金(IMF)の予測では、2025年の実質GDP成長率は6.6%と見込まれており、南アジア地域でも高い成長率を維持しています。 [出典:IMF, "World Economic Outlook Database, April 2024"]
  • 安価な労働力: この成長を支える最大の要因の一つが、豊富な労働力と比較的安価な賃金水準です。JETROの「アジア・オセアニア主要都市/地域の投資関連コスト比較(2023年版)」でも、バングラデシュの製造業における平均賃金はアジア各国と比較して低い水準にあることが示されており、安価な労働力の供給において依然として優位性を確保しています。 [出典:JETRO, "アジア・オセアニア主要都市/地域の投資関連コスト比較(2023年版)", 2024年3月]

【出所:ジェトロ日系企業調査(2013年度、2019年度、2023年度)】
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2024/37977922f57e157a.html

3. 変化する産業構造:衣料品からIT・サービス、製薬へ

バングラデシュ経済は長らく縫製品産業に大きく依存してきました。しかし、政府は産業構造の多様化を重視し、新たな成長分野の育成に力を入れています。

  • ICT産業の成長: 特に情報通信技術(ICT)産業は急速な成長を遂げており、バングラデシュIT・ソフトウェア産業協会(BASIS)によると、国内のIT/ITeS(IT関連サービス)企業の数は2023年末までに2,000社を超え、輸出額も増加傾向にあります。 [BASIS (Bangladesh Association of Software and Information Services), "Annual Report 2023", 2024年1月]
  • スマートバングラデシュ2041: バングラデシュ政府は「スマートバングラデシュ2041」のビジョンを掲げ、ICT産業を繊維産業に続く「次の産業」として育成しています。これにより、インドに続くオフショア開発先となる可能性が高まっています。
  • 製薬産業の台頭: 製薬産業も国内需要の増加と輸出拡大を背景に成長を見せており、代表的な例で言うとニプロといった日本企業も既に進出しています。

これらの動きは、多様な産業で日本企業がビジネスを展開できる機会が広がっていることを示しています。

日本企業にとってのバングラデシュ進出:具体的なメリットと機会

1. 親日感情がビジネスにもたらすメリット

バングラデシュは、単に経済的な魅力だけでなく、日本との長年にわたる特別な関係性も持ち合わせています。日本はバングラデシュにとって主要なODA(政府開発援助)供与国であり、この歴史的背景から、バングラデシュ国民の多くが日本に対して強い親近感と尊敬の念を抱いています。

この親日感情は、ビジネスの現場において非常に大きなメリットとなります。現地のパートナーや従業員との信頼関係を構築しやすく、文化的な摩擦が軽減される傾向にあります。これは、海外ビジネスにおいてしばしば直面するコミュニケーションの壁を低減し、スムーズな事業運営を促進する上で計り知れない価値があります。日本企業というだけで、現地の協力や理解を得やすい土壌があることは、他の国では得難い強みと言えるでしょう。

2. 未開拓市場で「先駆者利益」を掴むチャンス

中国やASEAN諸国ではビジネス環境が整いつつある一方で、日本企業だけでなく中国・韓国企業との熾烈な競争が繰り広げられており、収益を獲得することが難しくなっています。

一方、バングラデシュのような「フロンティア市場」では、ビジネスにおけるソフト・ハード両面での未整備という困難はありますが、その分、競争相手が少ないという大きなメリットが存在します。

  • 日系企業の現状: JETROの「海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)2023年度」によると、バングラデシュに進出している日系企業は300社を超え、増加傾向にありますが、他のアジア諸国に比べてまだ絶対数が少なく、新規参入の余地が大きいことを示しています。 [JETRO, "海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)2023年度", 2024年2月]

リスクを伴うものの、もし環境が完全に整う前に進出を決断できれば、競合他社に先駆けて市場に参入し、「先駆者利益」を享受できる可能性を秘めています。これにより、圧倒的に有利なポジションを築き、長期的な競争優位性を確立することができるでしょう。これは、中小企業が大手企業には難しいニッチな市場で存在感を発揮するための、絶好の機会となり得ます。

3. サプライチェーン多様化と輸出拠点としての魅力

近年のグローバルサプライチェーンの混乱は、多くの企業にとって生産拠点の多様化の必要性を浮き彫りにしました。バングラデシュは、このサプライチェーン多様化の選択肢として、その「安価な労働力」と「輸出拠点」としての魅力から注目を集めています。また、それ以外にも政府が発表した「輸出優遇措置」というものがあります。

  • 輸出優遇措置: バングラデシュ政府は、輸出志向型産業に対する様々な優遇措置を設けており、輸出加工区(EPZ)における投資インセンティブもその一例です。 [Bangladesh Export Processing Zones Authority (BEPZA), "Investment Incentives", 2025年7月]

このような優遇措置は、バングラデシュが単なる製造コスト削減の地としてだけでなく、戦略的な輸出ハブとしての役割を担い始めていることも示しているのです。

バングラデシュ進出におけるリスクと賢い回避策

1. インフラ(電力・交通)の課題と克服のヒント

バングラデシュの経済成長の足枷となっているのが、道路や電力といった基礎的インフラの不足です。

  • 電力不足: 2023年においても依然として電力供給の不安定さが課題として残っています。 [World Bank, "Bangladesh Development Update", October 2023]
  • 交通渋滞: 公共交通機関が未発達で交通渋滞がひどく、特にダッカ市内では移動に長時間を要することが日常化しています。

克服のヒント:

  • オフィスや工場に自家発電装置を整備することを標準として検討する。
  • 輸出加工区(EPZ)への進出を検討する。EPZは、建設資材輸入税の免税、機械・オフィス備品等の輸入税免税、法人税の減免(最初の2年間は100%免税)など、様々な優遇措置に加え、比較的インフラが整備されているという大きなメリットがあります。 [Bangladesh Export Processing Zones Authority (BEPZA), "Investment Incentives", 2025年7月]

2. 法制度・行政手続きの複雑さへの対応

バングラデシュの法制度は先進国に比べて未整備な部分が多く、行政手続きが遅延したり、担当者による解釈の違いから多くの手間がかかるケースも少なくありません。また、賄賂を求められる可能性も指摘されています。

対応策:

  • 国際税務の検討: 現地国の税制度の内容把握、投資優遇制度の有無とその要件、進出国との租税条約締結の有無と内容確認が不可欠です。日本とバングラデシュの間では、2024年7月現在、租税条約が締結されています。 [外務省, "二国間条約データベース", 2025年7月] これにより、配当やロイヤルティの源泉徴収税率が国内法よりも優遇される場合があります。
  • 専門家の活用: 現地に精通した法律事務所や会計事務所、そして私たちのようなコンサルタントを早期に活用し、正確な情報に基づいた適切な手続きと、根気強い対応を心がけることが、リスクを最小限に抑える鍵となります。

3. 治安状況と文化・商習慣の理解の重要性

海外進出において治安状況は常に懸念事項ですが、以下の機関から常に最新の情報を入手することが推奨されます。

  • 外務省の海外安全情報 [外務省, "海外安全情報", 2025年7月]
  • JETROなどの公的機関
  • 現地の大使館

同時に、バングラデシュの文化や商習慣への深い理解も不可欠です。

  • 国民性: バングラデシュ人は一般的に愛国心が強く、社交的で友好的、おおらかな性格と評されます。
  • 仕事への傾向: 仕事においては、自発的な行動よりも指示への確実な対応を好む傾向があり、几帳面な性格は工場での品質管理に貢献すると言われています。
  • 親日感情: 日本はバングラデシュにとって主要なODA国であるため、国民の多くが親日的であり、日本企業にとってはビジネスを円滑に進める上で有利な点となります。

現地の文化や人々の特性を尊重し、理解することで、従業員やパートナーとの良好な関係を築き、予期せぬトラブルを回避し、持続的なビジネスを確立することが可能となります。

JETRO(日本貿易振興機構)の活用:

  • 情報提供: バングラデシュの基礎情報、投資コスト比較、輸出入に関する制度、海外進出に関する制度(投資促進機関、外資規制・奨励、税制、外国人就業規制など)といった幅広い情報を提供しています。
  • 無料相談: 貿易・投資に関する無料相談も可能です。
  • レポート: JETROが発信するビジネス短信や地域・分析レポート、調査レポートは、最新の市場動向や制度変更を把握する上で非常に有用です。 [JETRO, "国・地域別情報:バングラデシュ", 2025年7月]

JICA(国際協力機構)の活用:

  • 協力事業: バングラデシュにおける主要な開発パートナーとして、運輸・電力等のインフラ整備、民間セクターの活性化、産業競争力強化プロジェクト、人材育成など、多岐にわたる協力事業を実施しています。 [JICA, "バングラデシュに対する取り組み", 2025年7月]
  • 民間連携事業: 日本企業の海外事業展開を支援するプログラムであり、特に中小企業にとっては、リスクを抑えながら現地市場に参入するための貴重な機会となるでしょう。

これらの公的機関が提供する情報は、進出前の情報収集段階だけでなく、進出後の事業展開においても、バングラデシュ市場で成功を収めるための強力な味方となります。

日本企業の成功・失敗事例から学ぶ実践的教訓

1. 成功事例:リソースを最大限活用した中小企業の戦略

バングラデシュ市場で成功を収めている日本企業の中には、潤沢な資金や人員がない中小企業も少なくありません。

成功の共通点:

  • バングラデシュの強みを最大限に活用: 安価で豊富な労働力を活用し、衣料品製造や軽工業の分野で競争優位を築く。特定の労働集約型工程をアウトソースすることでコスト削減と効率化を図る。
  • ICT産業の育成: 現地のITエンジニアを育成し、日本の市場向けにオフショア開発を行う。
  • 社会課題解決型ビジネス: 例えば、株式会社ユーグレナのように、農業分野での農家所得向上支援など、現地社会に貢献しながら事業を拡大するケースもあります。

これらの成功事例に共通するのは、バングラデシュの強み(労働力、市場規模、親日感情)を最大限に活かし、同時にリソースの制約を理解した上で、現地に適したビジネスモデルを構築している点です。

2. 失敗事例:見落としがちな落とし穴とその教訓

一方で、バングラデシュ進出で困難に直面する日本企業も存在します。多くの場合、以下の点が原因となります。

  • インフラの未整備: 電力不足による工場稼働の中断や、交通渋滞による物流の遅延。
  • 法制度の不透明さ: 行政手続きの複雑さや予期せぬ追加費用。
  • 現地の商習慣への理解不足: 雇用契約や労働法に関する現地のルールへの認識不足が、法的なトラブルや労使間の問題を引き起こすこともあります。
  • 社会保障協定の未締結: 日本とバングラデシュの間では、2025年7月現在、社会保障協定は締結されていません。 [厚生労働省, "社会保障協定", 2025年7月] このため、駐在員の社会保険が二重加入となる可能性があり、事前のコスト負担の把握が不可欠です。

これらの失敗事例から学ぶべきは、現地の「リアル」を正確に把握するための綿密な事前調査と、予期せぬ事態に対応するための柔軟な戦略、そして何よりも現地に精通した専門家からの継続的なサポートの重要性です。

3. 失敗を恐れず、学びを次に繋げるマインドセット

海外進出に失敗はつきものです。しかし、重要なのは失敗を恐れるのではなく、そこから何を学び、次へとどう活かすかというマインドセットです。新興国への挑戦にはトップの強い意志とリーダーシップが不可欠です。

バングラデシュ市場は、そのポテンシャルと同時に予測不能な側面も持ち合わせていますが、これらの課題は克服可能なものです。失敗事例から教訓を得て、適切な対策を講じることで、バングラデシュでのビジネスを成功に導くことができるでしょう。

いかがでしたでしょうか。東京コンサルティングファームでは、日本企業向けの海外進出支援を行っております。

海外進出に関してのご質問や相談は、下の【お問い合わせ】ボタンからお気軽にお問い合わせください!

お問い合わせはコチラ

バングラデッシュでの会社設立・現地サポートに関するお問い合わせはコチラ

Tokyo Consulting Group

東京コンサルティングファームは中国やインド、ASEAN諸国や中南米など計27ヶ国に拠点でサービスを提供しています。

「価値あるものを社会に与え続ける」という理念を基に、「顧客の最高パートナーとして、顧客の成長を通じて社会に貢献する」という目標を掲げて活動しています。
また、税理士事務所から始まった企業という強みを生かし、税務や会計に強いコンサルティングファームとして、日本企業向け海外進出支援事業を行っています。


株式会社東京コンサルティングファーム

〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-3 AMビルディング7階
TEL:03-5369-2930 FAX:03-5369-2931

 

 

 

Copyright © 株式会社東京コンサルティングファーム . All rights reserved.