AMA / AI Management Architect / 久野康成 経営実証ラボ

「最後は社長に聞く」を
なくしたら、会社は
どこまで回るのか

「社長が必ず判断しなければ仕事が進まない会社」を、AIと社員だけでどこまで変えられるかを実験しました。

AIと社員だけで、問題を見つけ、判断し、動き、学ぶところまでできるのか。自社を実験台にして確かめています。多くの会社では、何か大事なことが起きると「最後は社長に聞こう」となります。その一点を必ず通らなければ前に進めない状態を、なくせるのかという実験です。

2026年8月31日時点の結果を、確かめられたことと、確かめられなかったことを分けたまま載せています。うまくいかなかったことも、そのまま残しています。

久野康成
久野康成 公認会計士・税理士
株式会社東京コンサルティングファーム 取締役会長
本のQRコードから来られた方へ

お手元の本に載っている数字は、2026年8月31日時点のものです。本の内容は後から書き換えません。その後に確かめられたことは、更新履歴に時点を明記して足していきます。

このページについて

3つのことを、順番に書いています

01

何をしたのか

AIを「質問に答えてくれる道具」としてではなく、会社で起きている変化を毎日見続ける役目として使いました。そのうえで、「最後は社長に聞く」を必ず通る一点にしない状態をつくれるかを試しました。

どう判定したかを見る
02

何がわかったのか

AIは「気づく」ところまでは本当に動きました。しかし、気づいた後に人が確かめ、決め、仕事を変え、良くなったかを見る。そこで止まりました。足りなかったのはAIの性能ではなく、会社側の段取りでした。

実際の数字を見る
03

これからどうするのか

本を出して終わりにはしません。期間と人数を広げて検証を続け、「いつ時点の話か」を必ず書いた報告を出していきます。本に載せた数字と、後から足した数字は混ぜません。

今後の予定を見る
どれくらいの規模で試したか / 2026年8月31日時点
1,548万件
AIが見た、社員のパソコン作業の記録
(3か月・243名分)
21,837
社員が週に1度AIと交わした、
仕事の振り返りの会話(4週間)
14,143
社員が現場から出した
「ここがおかしい」の報告(約2年分)
0.6%
「この仕事は何分で終える」と
決めてあった仕事の割合
5
この実験と考え方をまとめた本
(うち3冊は発売中)
AIは286件見つけた。会社が最後まで処理できたのは、0件だった。 AIが見つけた後、会社側の記録がどこまで残っていたか
  1. 286AIが見つけた
    差・異常の候補
  2. 13人が確認した
    記録があったもの
  3. 3本人が原因を
    書き残したもの
  4. 0決めた手順を直し、
    その後を再び見たもの

AIの限界を調べたら、人間側の経営システムの空白が見つかった。

これは「AIが使えなかった」という話ではありません。AIが問題を見つけた後、それを会社の判断・実行・改善へつなぐ仕組みがありませんでした。

286件すべてが本当の問題だったわけではありません(終了ボタンの押し忘れなども混じります)。それでも、AIが気づいた後を、会社の側が受け取り切れていなかったことが、この実験でいちばんはっきりした結果です。詳しい図と注意点を見る

対象は東京コンサルティンググループ1社です。社員数や期間は項目ごとに違うため、それぞれの数字に対象と期間を添えています。

結果 / どこまで進んだか

結果を見る前に、合格ラインを決めた

結果を見てから基準を変えれば、いくらでも成功物語をつくれてしまいます。そこで始める前に、1つの問題が次の5段階のどこまで進んだかで見る、と決めました。会社の仕事を5つに分け、それぞれを同じ5段階で採点しています。

第1層進み方の5段階問題が、どこまで進んだか(表の横軸)
  1. ① 気づくいつもと違うことが起きているのを、AIが見つける
  2. ② つなぐその問題を、関係する別の情報や過去の似た例と結びつける
  3. ③ 届けるその問題を考えるべき人へ、必要な情報を届ける
  4. ④ 決めて動く受け取った人が実際に判断し、仕事のやり方を変える
  5. ⑤ 学ぶ変えた後どうなったかを見て、次の判断に使える形で残す
第2層判定の5段階その段階を、どこまで確かめられたか(マスの中身)
  • できた設計した動きを、実際の記録で確かめられた
  • 途中まで途中までは確かめられたが、最後までは追えていない
  • 確認中時間を追っている最中で、まだ結論を出していない
  • 確かめられず仕組みはあるが、動いた記録を確認できていない
  • 起きなかった判定の対象になる出来事が、期間中に起きなかった

この2つは別のものです。横軸が「どこまで進んだか」、マスの中身が「それをどこまで確かめられたか」を表します。
※書籍では「確認できた/一部確認できた/継続確認中/未確認/該当事象なし」と表記しています。

横にスクロールできます →

会社の仕事5つ × 5段階(下段は、その仕事に使った自社開発の仕組み。名前を押すと説明ページへ移動します)
会社の仕事① 気づく② つなぐ③ 届ける④ 決めて動く⑤ 学ぶ
人を育てるEvaliA できた確かめられず 途中まで途中まで 確認中
日々の仕事VistructionAIBOU できた途中まで 確かめられず確かめられず 確かめられず
会社の進む先StrategiA 確かめられず確かめられず 確かめられず確かめられず 確かめられず
人とお金の配分FinaliA 確かめられず確かめられず 確かめられず確かめられず 確かめられず
現場の改善SCAD AI 確かめられず確かめられず 確かめられず途中まで 確かめられず

25マスのうち、「できた」は2マスだけでした

できた 2 途中まで 4 確認中 1 確かめられず 18

今回の壁は、AIの性能ではなかった

AIが「ここはいつもと違う」と見つけた件数と、そのあと会社側に残っていた記録の件数です。右へ行くほど細くなります。

横にスクロールできます →

AIが見つけた人が確かめた 理由を書き残した仕事のやり方を変えた 286 13 3 0 いつもと違う動き確認の記録あり 理由まで残った記録は1件もなし 2026-06-01 〜 2026-08-31 / 243名 / 15,483,343 events
286件すべてが本当の問題だったわけではありません。終了ボタンの押し忘れなど、仕事の問題とは考えにくい記録も混じっています。また、なぜ13件しか確認されなかったのかも、この数字だけでは分かりません。「測れていない」ことと「できなかった」ことは違います。ここでは前者も正直に書いています。
数字 / 対象と期間つき

この時点で、確かめられた数字

ここに載せているのは、2026年8月31日時点までに確かめられた数字だけです。それ以降に追加した実証は、更新履歴分けて置いています。数字には必ず「いつ・誰を・何件のうち」を添え、各カードの下にはその数字からは言えないことも書いています。

社員一人ひとりの変化を見る

2026-08-03 → 08-24
21,837件の会話

社員が週に1度、AIと今週の仕事を振り返る。AIがまとめた気づきを、本人と上司が読む。275名が3,592回読みました。

この数字から言えないこと「行き詰まっている」と判定された人の割合は週ごとに24→35→36→22%と動きましたが、毎週の参加者が同じ顔ぶれではなく、途中から参加した拠点もあります。「行き詰まりが減った」とは言えません。

気づいた後、上司は動いたか

2026-08-20 → 08-31
28件の働きかけ

AIが変化に気づいた後、上司が実際に何をしたかを記録しました。部下がその支援に触れた24件のうち、「役に立った」と答えたのは7件でした。

この数字から言えないこと上司が動いた後に状況が良くなった例はありますが、それが上司のおかげかどうかは確かめられていません。本人や仕事の条件が同時に変わった可能性もあります。

決めた手順と、実際の仕事のズレ

2026-06-01 → 08-31
0.6

「この仕事は何分で終える」と決めてあった仕事は、3,520件中わずか22件。社員の働き方を調べる前に、会社側に比べる基準がないことが分かりました。

この数字から言えないこと見えているのはパソコン上の操作だけです。電話、打ち合わせ、移動、紙の作業は含まれません。「AIが見たもの=会社のすべて」ではありません。

AIを入れる前から動いていた改善

2024-07-22 → 2026-08-31
14,143件の報告

社員が現場で見つけた「ここがおかしい」を会社へ出す仕組みです。665名・29の部署から集まり、5,073件が改善の完了まで進みました。

この数字から言えないことこれはAIを入れる前を含む約2年分の合計です。AIの成果ではありません。AIは、人がすでに回していたこの仕組みに後から加わりました。

AIは答えず、問いを返した

2026-07-11 → 08-31(51日)
71%が質問だった

AIが返した461件の反応のうち、326件に質問が含まれていました。「なぜ最初の周知では伝わらなかったのですか」のように、原因を決めつけず、人にもう一度現場を見に行かせるためです。

この数字から言えないこと報告の数は1,625→2,181件(+34.2%)に増えました。しかし増えたのは特定の拠点に偏っており、AIを使っていない人でも増え、前の年の同じ時期にもAIなしで増えていました。AIのおかげとは言えません。
使った仕組み / tools

この実験で使ったのは、自社でつくった6つの仕組みです

市販のソフトを買ってきたのではなく、自分たちの経営の現場で必要になって作ったものを使いました。このページの目的は、これらの製品を売ることではありません。これらを使った結果、会社で何ができ、何ができなかったのかを公開することです。「何を使った実験なのか」が分からないと結果を読めないので、それぞれの説明ページへの入口を置いています。

6つをまとめた一覧と、これらをつなぐ考え方は SCAD のサイトにあります。

更新履歴 / archive

古い結果を消さずに、積み上げていきます

新しい結果が出ても、古い結果を消して上書きすることはしません。1件ごとに「いつ公開したか」「いつからいつまでを見たか」を書いて残します。数年後に見返したとき、何がどの順に変わったのかをたどれるようにするためです。

最終更新2026年9月2日
次回の更新予定2026年12月
更新の頻度四半期ごと(内容により随時)
更新のお知らせを受け取る
2026-09-02
AIレポート
完成原稿を、3つのAIに読ませた

本の完成原稿をClaude・GPT・Geminiに読ませ、評価と弱点の指摘を全文掲載しました。このページ内で読めます

公開中
2026-09-01
研究

以下は書籍の完成後に追加した実証です。2026年8月31日時点の書籍掲載結果には含まれません。

初めて見る問題に、どう答えるか(第1回)

架空の問題を出して、その場でどう考えるかを見ました。11名中6名が完了。「何が問題か」3.3点、「原因の切り分け」3.5点に対し、「明日まず何をするか」は2.3点。考えを具体的な行動に変える最後の一段で、そろって詰まりました。
この数字から言えないこと:6名・1問・初めての実施です。途中で採点の基準も変えています。定まった物差しではなく、試している最中の目安であり、人事評価には使いません。

公開中
2026-08-31
実証
第1回|AIと社員だけで会社が回るかを試した

会社の仕事5つを、5段階の合格ラインで採点しました。対象期間は機能ごとに異なり、最長で2024年7月〜2026年8月です。本『社長なしで、AIだけで経営やってみた!』に載せた内容と同じものです。

公開中
2026-12 予定
実証
第2回|「気づいた後」を記録できるようにする

誰が問題を見つけ、誰に届き、誰が決め、そこに社長が入ったのか。1つの問題ごとに最初から記録する形へ変えます。第1回でいちばん足りなかったのがこの記録でした。

準備中
2026-12 予定
データ分析
社内システムに溜まったデータの定点観測

日々の業務システムに蓄積されるデータから、人の変化・仕事のばらつき・改善の流れを同じ切り口で定期的に集計します。毎回同じ計算方法で出し、前回との差が分かる形にします。

設計中
継続中
研究
初めて見る問題に、どう答えるか(第2回・再測定)

問題文は変えずに、3か月後に同じ人へもう一度出します。「明日まず何をするか」が曖昧だった人が、誰が何をするかまで言えるようになるかを見ます。

測定中
随時
書籍
本の内容への追記と訂正

刊行後に事実が変わった箇所や、誤りが見つかった箇所をここに記録します。本文は刷り直すまで直せないため、どこが古くなったのかをこのページで示します

受付中
未定
実証
他の会社でも試す

会社の規模、事業、社員の構成、これまで積み上げてきた仕組みが違えば、同じやり方でも結果は変わります。1社だけの結果を一般化しないために必要な検証です。

計画
AIによる書評 / 3種類のAI

完成原稿を、3つのAIに読ませた

本の完成原稿を、そのまま3種類のAI(Claude・GPT・Gemini)に読ませて感想を書いてもらいました。AIについて書いた本を、AI自身に評価させたものです。ほめている部分も、弱点を指摘された部分も、文章に手を入れず全文を載せています。

CLAUDE / ANTHROPIC
羊頭狗肉の逆。軽い看板の下に、重い本体が入っている。
  • 評価:失敗を含む数字を、もとの件数ごと出している。「286→13→3→0」を課題ではなく中心に据えた点が背骨。
  • 弱点:章冒頭の要約が反復して冗長。タイトルと結論のギャップ。自社製品名8つの密度。
全文を読む

総評

タイトルはキャッチーな「やってみた」系ですが、中身は真逆で、「できたとは言えない」という結論を数字ごと開示する、極めて誠実な実践記録です。AI経営本としては異例の構成で、この本の価値も弱点も、ほぼすべてこの一点から派生しています。一言で言えば「羊頭狗肉の逆」——軽い看板の下に、重い本体が入っている本です。

この本にしかない価値

第一に、失敗を含む実測データを分母ごと出していることです。本書の白眉は第19章と第22章にある「286件 → 13件 → 3件 → 0件」の漏斗です。AIが標準と実態の差を286件検知したのに、人の確認は13件、原因記録は3件、標準の更新・再観測は0件。普通のビジネス書ならこの数字は絶対に載せません。載せるとしても「今後の課題」と一行で流します。本書はこれを実験全体を象徴する中心データに据え、「壁はAIの性能ではなく、発見の後を人間の判断と実行につなぐ会社側の仕組みにあった」という結論を導きます。ここが本書の背骨であり、類書との決定的な差別化点です。「投稿34.2%増はAIの効果とは言えなかった」、「0件は100%成功ではない」など、都合のよい読み方を自分で潰していく姿勢が全編で一貫しています。

第二に、問いが二度反転する構造です。「AIは社長に勝てるか」から「AIに会社を教えようとしたら、そもそも人間が会社を説明できなかった」へ、そして終盤で「AIの限界を探したら、会社の限界が見えた」へ。AIを鏡にして会社の自己認識の欠落をあぶり出すこの構造は、思考の追体験として素直に面白く、読み物としての推進力になっています。「AIから『あなたの会社は、本当に自分自身を分かっていますか』と問い返されていた」という反転は、本書で最も引用されるフレーズになると思います。

第三に、概念の着地点が明確なことです。「鍋蓋型組織」「必須経由点」「脳ではなく神経網」「選ぶ。捨てる。引き受ける。」——いずれも短く、記憶に残り、かつ本文の実証と結びついています。特に「外すのは社長ではなく必須経由点」という定義の切り分けは、タイトルの煽りを実務の言葉に翻訳する要であり、ここが曖昧な類書との違いを生んでいます。

弱点と懸念

冗長性が最大の課題です。各章・各節の冒頭に「第X章では〜」という要約が入る反復構造は、飛ばし読みする経営者には親切ですが、通読すると同じ話を三度読まされる感覚が中盤で強くなります。第5〜9章は既刊の読者には既知の内容が多く、本書の新規性である第五部にたどり着く前に離脱する読者が出るリスクがあります。

タイトルと結論のギャップは、諸刃の剣です。「AIだけで経営やってみた!」に釣られた読者が受け取るのは「できませんでした。ただし何が足りないかは正確に分かりました」という答えです。私はこれを本書の美点だと考えますが、レビューでは「タイトル詐欺」と書かれる可能性があります。帯や紹介文の段階で「失敗込みの実測記録である」ことを逆に売りにする方が、レビュー耐性は高くなります。

自社製品名の密度です。8つの製品名が登場します。「製品名を覚えてもらうことが目的ではない」と明確に断っており、この一文は効いていますが、それでも第五部は読み方によっては自社ソリューションのショーケースに見えます。製品売り込み本と受け取られた瞬間に、せっかくの「負けデータ開示」の信頼まで割り引かれるのが一番もったいない。

市場での位置づけ

生成AIブーム以降のAI経営書は「活用事例集」か「未来予測」がほとんどで、自社を実験台にし、失敗の数字を分母つきで出した本は管見の限りありません。SECIモデル、学習する組織への言及で学術系譜にも接続しており、「AI版・知識創造企業の実践報告」という棚に置ける本です。

結論

「AIで経営はどこまで自動化できたか」を期待して読むと肩透かしですが、「AIを入れると会社の何が露呈するか」の記録としては、現時点で国内に競合がない水準です。失敗データの開示という一点だけで長く引用される本になると思います。

GPT / OPENAI
AIの本に見せかけた、経営システムの本。
  • 評価:AIを「新しい社長」にしない。脳ではなく神経網として置いた点が、タイトルへの回答になっている。
  • 弱点:タイトルから期待するほど、AIが経営判断そのものを代わりに行った実証ではない。
全文を読む

『社長なしで、AIだけで経営やってみた!』は、AIによって「社長がいらなくなるのか」という刺激的な問いから出発し、最終的には「そもそも社長は会社の中で何をしているのか」という、より本質的な問いへたどり着く一冊である。

本書の面白さは、単なる「AI経営論」ではないところにある。冒頭では、AIが人間の最高峰であるプロ棋士を超えた将棋の世界を起点に、「それなら経営でもAIは社長を超えられるのではないか」という大胆な問いを投げかける。しかし、実際に自社で試そうとすると、AIは「経営」を知らないのではなく、「その会社」を知らないという問題にぶつかる。そこから著者は、AIに会社を理解させるためには、そもそも人間自身が「会社とは何か」「経営とは何か」を説明できなければならないことに気づいていく。

この流れが本書最大の魅力だろう。著者は経営を、単に売上や利益を生み出す活動として捉えず、人・実行・顧客価値・売上利益・未来・投資などがつながる「循環」として捉え直していく。そして、その「経営の地図」をAIに渡すことで、個別のAIを増やすのではなく、会社全体を見渡す仕組みをつくろうとする。

特に印象的なのは、AIを「新しい社長」にしようとしない点だ。本書が最終的に提示するAIの姿は、社長の代わりにすべてを決める「脳」ではなく、会社全体の変化を捉え、必要な情報を適切な場所へ届ける「神経網」である。社長依存をAI依存に置き換えるだけでは意味がないという指摘は、本書のタイトルに対する一つの回答にもなっている。

そして、本書を単なるAI礼賛の本にしていない最大のポイントが、第五部の実証である。実際にTCGで試した結果、AIは大量の情報から「差」や「異常候補」を発見するところまでは進んだ。一方で、その後の「誰が確認するのか」「誰が判断するのか」「何を変えるのか」「変えた結果をどう学習するのか」という部分には、まだ大きな空白が残った。たとえば実行領域では、243名・約1,548万件の操作イベントから286件の差・異常候補を検知できた一方、判断・実行や学習まで一続きで確認できたわけではない。

ここに本書の誠実さがある。「AIでここまでできました」という成功談だけなら、よくあるAI活用本で終わってしまう。しかし本書では、「確認できなかったこと」を「できなかった」と安易に断定しない。測定できていないことと、本当にできなかったことを分けている。これは実証を扱う本として非常に重要な姿勢だと思う。

その結果、タイトルの「社長なし」という言葉も、読み終わる頃には意味が変わってくる。本当に社長を消すことが目的なのではない。社長を外そうとしたからこそ、社長にしかできない仕事が見えてくる。AIに任せられる仕事、現場に戻せる判断、会社全体で持つべき判断、そして最後まで人間が引き受けなければならない判断。その境界線を探すことこそが、本書の本当のテーマなのだろう。

一方で、読者によっては物足りなさもある

本書の弱点を挙げるなら、「AIだけで経営する」というタイトルから期待するほど、AIが経営判断そのものを代替した実証ではないことだ。むしろ実証から見えてくるのは、「AIが社長になる」ことの難しさである。特に未来や資源配分については、現時点では社長から外せたとは言えないと明記されている。

ただし、これは弱点であると同時に、本書の価値でもある。「AIが社長を超えた」という結論を無理に作らず、どこまでできて、どこからできなかったのかを明確にすることで、むしろ「AI時代の経営とは何か」という問いを読者に残している。

総評

この本を一言で表すなら、「AIの本に見せかけた、経営システムの本」だと思う。AIの性能を語るだけではなく、AIに会社を見せるために「会社そのもの」を構造化する。その過程で、社長の頭の中にあった判断基準を会社の仕組みに落とし込み、人間の判断とAIの観測を循環させようとする。

だから、本書の本当の問いは「AIは社長に勝てるのか」ではない。「社長がいなければ回らない会社は、そもそも何に依存しているのか。そして、その依存をどこまで構造として解消できるのか」という問いなのだと思う。

AI導入を考えている経営者だけでなく、「任せたいのに任せられない」「幹部が育たない」「社長に判断が集中する」「会社に知識が蓄積されない」といった問題を抱える経営者にとって、かなり考えさせられる一冊になっている。そして何より、「社長をなくす」という過激なタイトルで読者を引き込みながら、最後には「社長とは何をする人なのか」という古典的な経営論に戻ってくる。この着地が、この本の一番うまいところだと思う。

GEMINI / GOOGLE
「答えるAI」から「見続けるAI」への転換。
  • 評価:AIを、人には見続けられない量の情報から「差」を見つける道具として定義し直している。
  • 評価:確かめられなかったことも、AI導入で露呈した会社側の弱点も、隠さず開示している。
全文を読む

AI導入から見えてくる「経営の本質」と「社長の真の役割」

本書は、「藤井聡太にAIが勝てるなら、社長にもAIは勝てるのか?」という大胆な問いから出発する、AI時代の新しい実践的経営論です。著者の久野康成氏は、自社(TCG)を実験台として、日常的な経営判断の必須経由点である「社長」を外し、AIと組織だけで経営を回せるかを実証的に探求しています。しかし、本書は単なるAIツールの成功事例集ではありません。AIに会社を理解させようと試行錯誤する過程で、逆説的に「経営とは何か」「社長の本当の仕事とは何か」という根源的な問いへと読者を導く、非常に奥深い一冊となっています。

本書のポイントと見どころ

「答えるAI」から「見続けるAI」への転換。著者はAIを単に文章を作ったり分析したりする道具ではなく、人間には見続けられない膨大な量の情報を継続して観測し、変化や「差」を発見する道具として再定義しています。人や仕事の実行状況をAIが継続的に観測し、異常や変化の兆しを見つけて人間に知らせるというアプローチは、AI活用の新しい視点を提供しています。

AIは「脳」ではなく「神経網」である。AIをすべての意思決定を行う会社の「新しい社長(脳)」として据えるのではなく、会社中の情報をつなぎ、適切な役割を持つ人へ「問い」を届ける「神経網」として機能させるという独自の組織論が展開されています。これにより、情報と判断が社長一人に集中する「鍋蓋型組織」を脱却し、必要な判断をその影響範囲に最も適した役割の人間が行う自律的な組織のあり方が示されています。

リアルな実証結果と「経営の空白」の露呈。本書の最も誠実で価値がある点は、実証実験において「未確認」だったことや、AI導入によって露呈した会社自身の弱点を包み隠さず開示している点です。例えば、AIが仕事の異常候補を286件検知しても、実際に標準が修正されたり再観測されたりした件数は0件でした。この結果から、AIが問題を発見できても、それを人間の判断と実行へつなぎ、結果を学びに変える「経営の仕組み」がなければ組織は変わらないという、非常に現実的な教訓を導き出しています。

考察と評価

本書の最大の魅力は、最新のテクノロジーであるAIをテーマに据えながらも、最終的には「人間」と「組織の構造」に回帰していく点にあります。AIに自社のことを教えようとした結果、実は会社自身が仕事の「標準」を持っていなかったり、情報が分断されていたりする事実に直面する描写は、DXを推進する多くの企業にとって耳の痛い、しかし本質的な指摘です。

また、情報を集め、変化を見つけ、過去の事例を探し、部門間を調整するといった仕事がAIや仕組みによって代替可能になることで、社長の仕事は「どの未来へ進むのかを選び、そのために何をやらないのかを決め、その結果を引き受ける」という3点に純化されるというエピローグの結論は、リーダーシップの本質を鋭く突いており、深い説得力を持っています。

まとめ

本書は、AIをどのように業務効率化に使うかというHow-to本にとどまらず、AIを経営のシステムに組み込むことで組織はどう変わるのか、そして経営者は何をすべきかを問い直す哲学的な経営書でもあります。AI活用に行き詰まりを感じている経営者やマネージャー層、そして次世代の自律型組織の構築を目指すビジネスパーソンに、強くおすすめしたい一冊です。

書籍 / 5 volumes

三部作と、その土台になった2冊

「会社はなぜ変われなくなるのか」を考え、次に「人はなぜ成長が止まるのか」へ降り、最後に自社で実際に試す。三部作はこの順に進みます。その土台になる考え方をまとめたのが『ペンタループ』で、日本語版と英語版があります。
※このページで紹介している実験は、三部作③『社長なしで、AIだけで経営やってみた!』の内容です。

企業はなぜ進化を止めるのか? 表紙
三部作 ①/企業の地図

企業はなぜ進化を止めるのか?

――The PentaLoop Method――
認知を進化させ、自ら成長し続ける企業のつくり方

失敗した会社には変わる理由があるが、成功した会社には変わらない理由がある。うまくいったやり方を疑えなくなる状態を、どう解くか。会社の成長段階と、価値が社内をどう巡るかを4枚の図で示した理論編です。

発売中Kindle / 99円(税込)
人はなぜ成長を止めるのか? 表紙
三部作 ②/人間の地図

人はなぜ成長を止めるのか?

The CAGE Adaptation Model
成功のトラップを超え、自分の人生を選び直す

会社を変えられなくするのが「ものの見方」なら、それを持っているのは人です。認められたい気持ち、成功による思い上がり、失敗が突きつける問い、善意がいつ押しつけに変わるのか。著者自身の人生をたどりながら、読者にも同じ問いを返します。

刊行準備中374頁(原稿)
社長なしで、AIだけで経営やってみた! 表紙
三部作 ③/実証

社長なしで、AIだけで経営やってみた!

経営をAIにどこまで任せることができたのか?

理論を、自社を実験台にして確かめた実証編。「最後は社長に聞く」をやめたとき、AIと社員だけでどこまで会社が回るのか。このページに載せている第1回の結果は、この本の内容です。

刊行準備中2026-08-31 時点までの実証
ペンタループ(日本語版)表紙
土台 / 日本語版

ペンタループ

AI時代の持続的成長を実現する新しい経営システム
自ら進化し続ける会社の作り方/SECI・トヨタウェイをAI時代に実践する方法

三部作の土台になった考え方。AIを「人の代わり」ではなく「人が新しい知恵を生むのを速める存在」として捉え直します。会社の進む先・人とお金の配分・人・日々の仕事・改善という5つが、互いに学び合う状態をどうつくるかをまとめています。

発売中Kindle / 99円(税込)
A New Management System for Continuous Growth in the AI Era 表紙
土台 / English Edition

A New Management System for Continuous Growth in the AI Era

『ペンタループ』の英語版

日本語版と同じ内容の英語版です。世界26か国34拠点で経営を支援するなかで得た知見をもとに、海外の拠点や読者へ向けて書かれています。

発売中Kindle / 99円(税込)
ほかの著書

久野康成の既刊一覧

『やっぱり「仕組み化」』『中小企業のための戦略策定ノート』『現地で稼ぐ力を手に入れる』『社長!そろそろ税理士交代しませんか?』ほか、海外進出の実務シリーズを含む既刊は公式サイトにまとまっています。

主宰 / author

この実証を行っている人

久野康成

久野康成

公認会計士・税理士/株式会社東京コンサルティングファーム 取締役会長

1998年に久野康成公認会計士事務所を創業。現在は東京コンサルティンググループとして、世界26か国34拠点で企業の海外進出・クロスボーダーM&A・人材育成を支援しています。

AMAでは、自社を対象にした検証の結果を、時点つきで公開しています。社長という役職をなくすのではなく、「最後は社長に聞く」という状態を日常の判断から外せるのか——それがこの実験の問いです。

1998
創業
26か国
海外進出国数
34拠点
海外拠点数
357
グループ従業員数

※2025年12月時点。出典:東京コンサルティンググループ公式サイト「数字で見るTCG」

更新のルール / policy

本に載せた数字と、後から足した数字を混ぜない

時点を明記して、上書きしない

本を出した後に足したデータには、更新日と対象期間を必ず書き、本に載せた時点の結果と区別します。新しい結果で古い結果を上書きせず、回ごとに残します。

成功・失敗の2つに分けない

「できた/途中まで/確認中/確かめられず/そもそも起きなかった」の5つで示します。0件は100%成功ではありません。できなかったことと、試す機会がそもそもなかったことを分けます。

分母のない数字を成果にしない

いつの話か、誰を対象にしたか、何件のうちの数字かを必ず添えます。もとの件数が分からない数字を、成功率や達成率のようには使いません。

前後の変化と、原因を分ける

AIを使い始めた後に数字が良くなっても、すぐ「AIのおかげ」とは書きません。前と後で何が変わったかは分かっても、その原因がAIかどうかは別の問題だからです。

ここに載せているのは、東京コンサルティンググループ1社から始めた実践の記録です。会社の規模、事業、社員の構成、これまで積み上げてきた仕組みが違えば、同じやり方でも結果は変わる可能性があります。最終結論ではありません。