【労働裁判】土曜出勤の禁止は、“降給“に相当するのか【実際の判例に学ぶ】

労務

 

いつもお世話になっております。東京コンサルティングファーム・マニラ支店の早川でございます。今回は、実際に労働裁判となった例と共に、どういうところで労働問題が起こるのかという点と、その防ぎ方について、具体的にご紹介していこうと思います。
(会社名や詳細は伏せておりますが、公に発表されている判例からご紹介しております)

 

<労働裁判までの経緯>
外資大手製造業のA社とその労働組合は、労働協定を結んでおり、そこに労働条件が記載されていました。ある日、A社は経費削減のため、土曜出勤を無くす、という決断をしました。2005年のある日、労働組合の代表者と面談しその旨を伝えると、それ以降の土曜出勤を命じることはなくなりました。
これに対して組合側は、土曜出勤分の給与は「給与の減額」にあたり、また、その旨を書面での合意もなく急に実施したことに対して不満を抱き、2006年に仲裁所(日本でいう地方裁判所)へと訴えました。
仲裁所は、組合の訴えを棄却。納得のいかない組合は控訴。控訴裁判所(Court of Appeal)は、仲裁所の見解を翻し、組合側の主張を認めました。納得のいかない会社は、さらに最高裁判所まで上告しました。最終的な最高裁(Supreme Court)の判決は、組合の主張を棄却。会社側が勝訴しました。

 

<労働組合側の主張>
①労働協約上の就労時間についての条項では、“Work Week(労働時間)”として、「月曜日~金曜日、一日8時間及び、土曜日の4時間」としている。すなわち土曜出勤は一般的な就労時間であり、それを削りまたそれに対する給与を支給しないというのは、減給を意味する。実際に土曜出勤はこれまで当然に行われていたことであり、労働時間として扱われていた「慣習」もある。
②一方で「土曜出勤の命令」に関する条項もあり、土曜出勤を命ずる場合がある、という記載で、通常の「労働時間」ではなくオプショナルなものであると匂わす条文だが、このようにあいまいな表現の場合は、従業員の安全で人並みな生活を支持するために良い方向で解釈される。そのため、「土曜出勤を命ずる場合がある」というのは、土曜日の出勤は確実にあるが、「土曜日の何時からの出勤か」を命ずる場合がある、と解釈するべきである。これを命じる権利については記載されているが、一方的に労働時間を減らしてよいという権利については一切書かれていない。
よって会社は禁止されていた土曜出勤分の給与を弁償するべきである。

 

<会社側の主張>
①土曜出勤は、通常の就労時間外でありオプショナルなものであった。その証拠に、労働協約では、土曜出勤した場合に特別な手当を支払うことになっており、またその要件として、出勤レポートを提出しなければいけないことになっている。実際にその通りの扱いをしている。もしこれが通常の就労時間であれば、そのような条項は意味をなさない。
②土曜出勤を命じる条項が、もし本当に組合側の主張通り「時間」を命じることが出来る、というものであれば、より適切に土曜出勤「時間」を命じることが出来る、と記載しているはずだ。土曜出勤は、業務の必要性に応じて、発生するときとしないときがあるものである。よって、会社は土曜出勤をさせない、という権利も持っているという事が、同時に記載されていると解釈できる。

 

<判決のポイント>
実務上、特別な手当を支払っていたことや、出勤レポートを提出させていたことなどが、今回、労働協約上のあいまいな表現を会社側に有利に解釈させてくれました。

<この実際の判例に学ぶ>
いかがでしょうか。まず、土曜出勤を無くす、という、一見、従業員側に有利な判断にもかかわらず、労働者側からの訴えがありました。特に地方の製造業に務める社員は、土曜出勤の手当を頼りにしているという事が、今回のケースからお分かりいただけるかと存じます。それを理解した上でのアプローチは非常に大事です。実際にどのようなコミュニケーションがとられていたのかは判例だけでは明らかにならない部分もありますが、突然面談を行い、その次の日から実施、書面での通知もなし、というのは、社員へ衝撃を与えてしまったと見受けられます。
本件は、労働協約上であいまいな表現をしていた事が論点でした。オプショナルなものであるという認識は、時間が経つと会社側の一方的な解釈になっている可能性があります。定期的な見直しをし、その際、実務上の慣習から社員に誤解を与えていないか、という考慮をする必要があります。

 

ここまで簡単にまとめましたが、実際には、土曜出勤は就労時間内なのか否か、という公論だけで、2005年から13年経って、最高裁の判決が出ました。今回は会社側が勝訴したものの、そこに対する労力と時間は大きな苦労だったと想像できます。そうならないような対策を、今後も一緒に判例をみながら学んでいきましょう。

 

 

東京コンサルティングファーム・マニラ拠点
早川 桃代

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