メキシコのPTUについて

こんにちは、メキシコ駐在員の片瀬です。
メキシコに入り、早2カ月が経過しました。あっという間です。

今日はメキシコのPTUについて。
PTUとは労働者に対する分配金をいい、利益の10%を従業員に還元する制度です。例えば会社に1億の利益が出ているのであれば、1,000万円を従業員全員で山分けします。もちろん従業員が1人であればその従業員が総取りとなります。メキシコは法人税率が30%ありますので、こちらの10%を加えると40%と世界最高クラスの実効税率となります。
そのためメキシコに進出する各国の企業は何とかこのPTUを回避するためにあるスキームを利用していました。具体的には、オペレーションを行う会社とは別に、派遣会社を設立し、そこから従業員を出向させるというものです。派遣会社はオペレーションを行う会社から派遣料をもらい利益を調整するために、オペレーションを行う会社でいくら利益が出てもその利益は毀損しません。
PTUができて数10年上記のスキームは暗黙の了解として、数々の企業で利用されていましたが、昨年の労働法の大改正でついにこのPTUにメスが入ってしまったのです。今までは「直接的な雇用契約がある者にはPTUを支払う」という文言でしたが、改正により「直接的な雇用契約があるとみなされる者についてはPTUを支払う」という文言に変更になりました。
さてこれにより、今まで利用されていた上記のスキームは利用できなくなってしまったのか? コンサルティングファームの中には、すでに当該スキームは利用できなくなってしまったと明言しているところもあります。直接的な雇用契約と直接的な雇用契約があるとみなされる者の違いは何か。ただ、同グループ内での派遣がいけないだけなのか……。
しかし、どの様に取り扱われるかは正直分かりません。メキシコでは法律の改正があった際に、違憲であると考えられる場合にはアンパロという異議申立書を30営業日以内に提出することができます。このアンパロを提出し、判決がでるまでの間は上記税制改正の効力は発生しません。あまりに多くのメキシコ企業がこのスキームを利用していたため、結論が出て、直接的な雇用契約があるとみなされるまでは2~3年の歳月がかかるものと思われます。
それならばと2~3年様子を見て、やはり同様のスキームが使えると認められた際に、別会社立てて従業員を移してと考える社長も多いとは思いますが、メキシコではそれを行う事が非常に難しいのです。メキシコでは労働者保護の観点が非常に強く、このスキームが認められたから、利益が出るようになったからなどの理由で従業員を移籍させることは労働組合が絶対に許しません。そのため現時点の混沌とした中で、新たなスキームを利用しなければならないのです。ただ、保守的な日系企業にとって、それは非常に難しいことだと感じます。皆が行っているから行う、皆が行っていなければ行えない、事実労働法改正後に進出した企業はほぼすべからくPTUの対策をしていません。

日系企業は成功するためにビジネスを行うのではなく、失敗しないためにビジネスを行う。これは過去の歴史の影響です。総中流と言われた時代は失敗しないことが失敗とはなりませんでしたが、アジアいや全世界を一つのマーケットと見る現代では失敗しない経営こそ失敗となりえるようになっています。どういうことかというと、総中流時代は全ての企業が失敗しないための経営を行っていました、言い換えれば成功するためにビジネスを行っている企業がいなかったのです。もしその中に成功するためのビジネスを行っている企業がいて、実際に成功していたのであれば、総中流時代など訪れることは無かったと思います。競争は必ず淘汰を生みます。それが分からずに、総中流時代の考え方・経験で今の日本はビジネスを動かしてしまっています。ただこれでは世界に目を向けると、必ず負けます。
会社の力とは、簡単に言うと量と質です。ただ、質は量が増えれば確保できるものですので、私は会社の力は量だと考えています。会社の量とは、人材の量(なぜ日系企業は人材をコストと考え、投資と考えないのでしょうか。まぁこれについてはいつか話します。)、これにつきます。
PTUの話から大きく脱線をしてしまいましたが、楽しいので続けますね。

メキシコでもそうですが、今世界ではサムスン、LGなどの韓国メーカーがすごい勢いで規模を拡大しています。今はまだ投資に相当の金を使っていますので、価格はそこまで落ちていませんが(それでも十分安いですが、)、投資がひと段落したら必ずさらなる価格競争が起こります。日本の家電メーカーは完全に淘汰されることでしょう。価格競争が起こった際に、生き残れる可能性はブランディングによるもの(例:ソニー)ですが、韓国企業はこのブランディングにも相当の力を入れています。ラテンアメリカで韓国製の家電製品の印象はハイセンスであります。全てのメキシコ人は心の底から韓国製品をオシャレだと思っています。そのため、彼らは強者ポジションを確固たるものにし、日本企業にはもう可能性が無いようにも感じます。
ちょっと違う角度から話してみます、例えばFTA等についても、私は上記のような総中流ビジネスを行うのであれば、FTAなど締結しないで高関税率の鎖国状態にする方が良いと思いますし、今後韓国メーカーの様な強者戦略によるビジネスを行うのであればFTAを締結することが非常に効果的になると考えています。そこら辺を日本の政府はどう考えているのか。まぁ愚痴は良いとして。
FTAは強者戦略にてビジネスを行っている者のためにあるもので、強者戦略は数の力、そして低価格のビジネスによる淘汰、ひいては市場の独占ということが究極的な目的です。日本企業も世界規模の数の力を今後持たなければ世界のビジネスシーンから必ず淘汰されてしまいます。ベビーブーマー世代(まぁ団塊からベビーブーマー間の世代ですが……)が育った日本は恵まれすぎました。
私は常にどんなことでも自分だったらどうするかを考えます。例えば、最近メキシコの会社の方とアニメの話し(メキシコ人に日本の文化はと聞くとアニメと答える方が非常に多いです。)をすることが多いのですが、そのアニメを見ながらでさえ主人公の行動を自分であればどう動くかと考えています。……そして人はそれを妄想と呼びます(笑)まぁ冗談もいいとして。
自分の行動の相手・対象は自分の外におき、対象のために一番良い方法を考え、期をみて行動できるかが大切です。誰もが同じことを言いますよね? 行動をすることが大切であると。ただ私は少し違います。人間は周りの人との関係で自分の存在を認めるものですので、行動することが大切なのではなく、期を見て行動することこそが大切です。自分の中の大義に向かって進むのは誰でも同じだと思いますが、その大義を達成できるか否かは周りの人々の影響です。これが難しいのは0対100では無く、その数字がいかようにも変化するということです。
例えば40対60であれば、あなたの大義を達成するための人材が40しかいないとしたら、あなたはそこで行動に移しますか?いえ、もちろんそれは期ではありません。そこで行動に移すから人は潰されるし、潰れてしまうのです。それでは60対40になったとしたら、あなたはそこで動きますか?もしかしたらそこが唯一訪れる好機かもしれません。しかし、その数字は目には見えませんし、時期とはそれが過去になってみないと分からないものです。とても難しいですよね。ただ、これが社会人としてのバランス感覚なのです。そしてバランス感覚は大義と共に存在しなければなりません。大義なきバランス感覚も人から尊敬され、認められることはありません。そして成功することもないのです。

少し話を戻しますと、私が思うベビーブーマー世代は大義なきバランス感覚の集団であると思ってています。総中流で外との戦いが無くなると、中での戦いになります。外との戦いでは大義を持たなくてはなりませんが、中での戦いでは大義はあまり存在しません。中での戦いでの大切なのは自分の身を守ることになってしまいます。そしてバランス感覚を取り誤ると身内に淘汰されてしまいます。そういう雰囲気の中では、各々がリーダーシップを取って小さいながらも組織を作り、外を相手に自分たちの独断で戦うことはまず起こりえません。それが中での争いの種になってしまいますから。彼らの目は中に向き、中に敵を探します。そして、外からの圧力に対してのあがき方が分からずに全てが沈んでしまうのです。
強者戦略を取るためには、大義を持って外と戦わなければなりません。私はそれこそが仕事だと思っており、その様な会社を作りたい。そして、そのために今メキシコにいます。怠惰な性格が邪魔をして、まっすぐに自分の目指す会社を作れていないのも事実ではありますが……。もし外で傷ついたら中で英気を養い、そして再度外に自分の戦いの場を作る。そんな会社にしたい。1人が失敗したとしても、会社全体が同じ大義の下に動き、その者の失敗を誰かが必ずフォローしてくれるような。そんな会社に。
自分の大義と会社の大義について多くの方は違うと思っていて、そしてそれを当り前のように受け入れているものと思います。ただ、私はほとんどの場合、その大義をほぼ同じにすることができると考えています。何故か。先ほども言いましたが人間は人とのかかわりの中で自分の存在を認めるものだと私は思っているためです。対象を変えることは非常に難しいですが、対象を広げることは可能なのです。なので、今現在自分の大義と会社の大義が違うと思われる方は自分の大義を広げることを考えてみてください。

最後に、私は海外に行くと自分の価値が分かると思っていました。ただ、実際に海外で働いてみると自分の価値ではなく、周りの方々の価値に気がつきます。海外で働くとはきっとそういうことなのだと思います。

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