メキシコでのM&A②

 

今回も前回に引き続き、メキシコでM&A(企業買収)時における法律、特に商事一般会社法の内容について触れていきたいと思います。

 

■商事一般会社法
商事一般会社法(LGSM:Ley General de Sociedades Mercantiles)は、日本でいう会社法に相当する法律です。商事会社の諸形態、株主・従業員の権利、組織再編や会社の清算等を規定した 連邦法であり、M&Aにおいても、他の法律に特別な定めのない限り、本法が適用されます。

 

>株式会社
商 事 会 社 一 般 法 で は 6 つ の 会 社 形 態 を 規 定 し て お り、 な か で も M&A の対象として最も一般的な形態は株式会社(S.A.:Sociedad Anónima)です(商事会社一般法 1 条)。また、可変資本制度(定款 を変更せずに資本金の増減が可能)による、可変資本株式会社(S.A. de C.V.:Sociedad Anónima de Capital Variable)も多く存在します(8 条)。 株式会社の主な特徴は以下のとおりです。

・ 株主責任の範囲は、出資額を限度とする(有限責任)
・ 株主が最低 2 名いることが会社設立・維持の要件であり、一人会社は認められていない
・ 議決権については基本的に株式数に応じ各株主が有しており、会社の決議事項については株主総会や取締役会において決定される
・ 株主総会により取締役を決定し、各取締役が会社を管理運営する

株主は会社組織、構造、事業目的、資産構成を変更する権限を有し ます。同種の株式を保有する株主は平等な権利を有しており、特定の 種類株式(1つの株式会社により発行された、配当や議決権等の権利 内容が異なる、複数種類の株式)に関し不利な取扱をする場合には、 事前に当該種類株主による特別総会決議が必要です。
株式を償還する際は、総株主の持分比率に応じて行うか、または公 正な抽選により選定します。償還に関する規程は全株主の同意により変更することも可能です。

 

>合同会社
合同会社(S. de R.L.:Sociedad de Responsabilidad Limitada) は、株式会社よりも出資者の権利義務等に関し柔軟な扱いが認めら れており、出資者間の関係がより閉鎖的、かつ比較的小規模な事業 向けの形態です。合同会社においても可変資本制度は適用可能で、 その場合は可変資本合同会社(S. de R.L. de C.V.:Sociedad de Responsabilidad Limitada de Capital Variable)となります。

 

>合併・分割
M&Aに関連する内容として、合併(fusión)と分割(escisión) に関する規定があります(合併については商事会社一般法 2 2 2 条~ 2 2 6 条、分割については同法 2 2 8 条の 2)。
合併には、新設合併(2 つ以上のすべての会社の法人格が消え、新 しい会社に統合する)と、吸収合併(1 社が継続したまま、その他会 社を取り込む)があります。
分割には、新設分割(既存の会社の法人格を消滅させ、その資本や 資産を 2 つ以上の法人に分割する)、および吸収分割(既存会社の消 滅を伴わずに、資本や資産の一部を他法人に移転する)があります。 合併・分割については、それぞれの関連企業株主による特別総会決 議が必要となります(1 8 2 条)。また、法的効力を持たせるため、商 業登記所(Public Registry of Commerce)において公証、登録する
必要があります(2 2 3 条)。

 

>ジョイントベンチャー
ジョイントベンチャーの設立を検討する上で、当事者が 2 社以上あ り、オペレーションや技術・ノウハウの提供よりも資本提供の側面が 強い場合には、株式会社形態を取ることが一般的です。
一方、買収後も出資者が継続して経営に参加する場合など、合同会 社形態がふさわしい場合もあります。少数社員にとっては、株式会社 より合同会社の形態の方が、支配権という側面からは有利ともいえます。
商事会社一般法においては株主間契約(企業や株主間における株主 の権利に関する取り決めで、議決権行使や株式譲渡に係る条件等を定 めたもの)の有効性が明文化されておらず、むしろ旧来の商事会社一 般法では、株主の自由な議決権行使を制限する契約が無効と明記されていました。したがって、同法に基づく株式会社および合同会社形態では、当事者が株主間契約においてガバナンスに関する取り決めを行 っていても、後にその有効性が争われるという事態が生じえました。 同様の内容を附属定款で定めた場合には拘束力が高まるものの、附 属定款の設置・変更には、株主の承認や公証など法定の要件が定められており、取り決めの公開を望まない株主がいる場合には附属定款を用いることが困難です。

 

 

株式会社東京コンサルティングファーム メキシコ拠点
黒岩洋一

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